2016年1月より、マイナンバー制度が施行された。2015年10月より、国から個人(世帯主)あてに家族分のマイナンバー通知が送付され、2016年1月からは個人番号カードの発行も開始されている。今後企業では社会保険や税など各種届出において、マイナンバーの記載が必要となってくる。マイナンバーは特定個人情報として厳重に扱われなければならないため、企業では新たな運用方法を検討・実施することとなった。
HR総研では、マイナンバーの導入・運用についてどの程度進んでいるのか、また人事はマイナンバーについてどのように考えているのかについて、2月9日~18日にアンケート調査を実施した。その結果レポートをお届けする。

従業員からのマイナンバー回収は76%が着手している

2015年10月から、政府より世帯主宛にマイナンバー通知が郵送された。企業ではこのマイナンバー(12桁の数字)を、本人確認とともに収集して、安全に保管することが義務づけられている。調査では、最初にマイナンバーに関わるどのようなことを開始しているかを聞いた。最も多かったのは「従業員からのマイナンバー回収」で76%と約8割に上っている。
企業が社員からマイナンバーを収集する手段として、2015年11月ごろからの年末調整の際、「扶養控除等(異動)申告書」に従業員と扶養を受ける配偶者・親族の個人番号記載欄が設けられたので、これを利用したものが多かったのではないかと考えられる。
2番目に多かったのが「従業員へのマイナンバー教育」で50%。続いて「取扱担当者の決定と管理業務手順設計・管理業務」(49%)という回答だった。

〔図表1〕マイナンバー制度について実施を開始したこと

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

これから着手は「外注先・関係先等からのマイナンバー回収」が最多

調査日現在で「これから開始すること」の第1位は、「外注先・関係先等からのマイナンバー回収」で36%だった。外注先等のマイナンバーを企業が必要とするのは2016年分の支払調書などであるが、年末になって慌てないように早期に回収をしておきたいところである。
第2位は「取扱い責任者・担当者への安全管理研修」で29%、「従業員へのマイナンバー教育」が第3位で25%となっている。従業員からマイナンバーを回収し保管するにあたっては安全管理研修が必須となるので、早期の実施が望まれる。また従業員へのマイナンバー教育も、マイナンバーを騙った詐欺などのトラブルに巻き込まれないように、早期に正しい知識を提供することが望まれる。

〔図表2〕マイナンバー制度についてこれから開始すること

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

マイナンバー回収の手段は「紙ベース」が6割 アウトソースが2割

マイナンバーの回収の手段は、前述のように扶養控除等(異動)申告書への記載を利用して紙ベースでマイナンバーを回収する企業が最も多かったようで、61%の企業が「紙ベース」と回答した。アウトソースは19%、クラウドサービスが16%、自社内システムが13%である。
企業規模ごとに見ると、1001名以上の大企業では紙ベースは37%、アウトソースが31%、自社内システムが29%となっており、社員数が多いと紙ベースでの回収による事務量が膨大になることを想定して、アウトソースやシステム化を進めていることが判明した。1000名以下では紙ベースが7割で、中小規模ではマイナンバーの回収は手作業で乗り切っているようだ。

〔図表3〕従業員からマイナンバーを回収する手段

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

人事・給与システムは既存+カスタマイズ/バージョンアップが4割、小規模ではクラウド導入が15%

給与関連において企業がマイナンバーを記載するのは、2017年1月に提出する源泉徴収票からである。それまでに人事・給与システムでマイナンバーを扱えるようにしておかなければならないので、マイナンバー制度開始に伴って人事・給与システムに対してどのように対処したかを質問した。最も多かった回答は、「既存のパッケージのカスタマイズ/バージョンアップで対応した」で、全体では4割である。次いで「マイナンバー関連業務全般をアウトソーシングすることにした」が全体で16%、次いで「自社独自のシステムを開発/カスタマイズして対応した」が全体で15%となっている。
注目したいのは、企業規模で見た場合300名以下では「マイナンバー関連業務全体をアウトソーシングすることにした」が18%、「新たにクラウドサービスを導入した」が15%で「新たにマイナンバー対応パッケージを購入した」(10%)よりも5ポイント多いことだ。中小規模企業では人事の人員も少なく、新たに発生するマイナンバー対応に手間かけることが難しい。そこでアウトソースを利用したり、人事システムをクラウドサービスにすることで、業務効率化を図るということであろう。特にクラウドサービスは人数比例での課金体系が一般的で、中小企業でも導入しやすいのではないかと考えられる。

〔図表4〕それまでの人事・給与システムに対してどのように対応したか

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

マイナンバー導入・運用のコストは大企業は300万円未満、中小では50万円未満が最多

マイナンバーの導入や運用のコストがどのくらいかを質問したところ、企業規模によって大きく差が出た。1001名以上の大企業では、100~300万円未満が最多の30%、次いで、300~500万未満と500~1000万未満が20%である。システムの対応やアウトソースメニューの追加など、マイナンバー対応にかかるコストは決して小さくはない。
300名以下の企業では、予算なしが18%あり、コストをかけずに自社内で対応しているようだ。コストをかけたとしても約半数(53%)が50万円未満である。マイナンバー対応は政府から義務付けられているものの、企業へのメリットは無いに等しい。自由記述では、「余分な経費で、費用対効果が図りにくい。利益を何も生まないことへの出費をどうにかしたい」(サービス)といった声もある。特に中小企業では人的負担が増えることはわかっていても、予算を取るとなると難しいという実態が浮かび上がったと言えよう。

〔図表5〕マイナンバー制度導入・運用のために必要となった(なる)コスト

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

約半数が「課題はマイナンバーの取り扱いのセキュリティ面」と回答

マイナンバー制度の導入や運用にあたっての課題を聞いたところ、「マイナンバーの取り扱いに関するセキュリティ面」という回答が51%あった。個人情報保護法より厳格な「特定個人情報」とされる点や、マイナンバー法による罰則(4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、など)があり、法に違反した取扱いにならないように注意が必要だからであろう。そのため、「個人情報管理体制の整備」も46%と第2位に上がっている。
実態としては「法律等を実務的にどこまで実施するのか、どこまで厳密に遵守するのか、初めてのことであり、全く判らないのが現状であり、かつ、将来、どこまで利用が広がるのか不明であり、将来を見越した対応が取れない」(メーカー)といった声や、「情報が洩れたら会社の信用問題である、ということをさんざん脅かされているので、色々やっても不安が残る」(メーカー)というのが本音だろう。

第3位としては、「従業員(家族を含む)からのマイナンバー収集」(40%)となっている。半数の企業がマイナンバーの回収に着手しているものの、残りの半数近くはまだ回収ができておらずに課題となっているようだ。その理由としては、「多店舗展開しており、パート・アルバイト比率が高い為、従業員からの回収が難しい状況が多々あるため」(サービス)、「日雇い雇用者等、短期就労者が相当数いる」(運輸)といった、流動性の高い雇用形態への対応の難しさが挙げられる。また、個人が企業へマイナンバーを提出することは義務化されてないことから、「会社への提出を会社への提出を義務化にしてほしい。集める義務はあるのに、提出は義務ではないのはおかしい」という意見もあった。マイナンバーの収集に協力しない社員に対して企業は強制力を持っていないという法令の穴があり、そんな中で実務を執る企業担当者の悩みは尽きない。

そのほか、「社内規定やマニュアルの整備」(31%)、「従業員向けの教育・研修」(29%)などが課題として上げられている。教育に関しては、「そもそも個人情報に対する社内の意識が低い為、今回のマイナンバーを絡めて体制の整備及び社内教育等を実施してどれだけ意識啓発できるかが未知数」(商社・流通)、「マイナンバーを扱う部署は日頃から機密情報の扱いに慣れているが、従業員の方が、そこまで大切なものという認識がなく、管理する部署との意識の乖離がある」(メーカー)といった声があり、人事などの秘匿情報を扱う部署以外の社員に対しての教育の難しさが述べられている。

〔図表6〕マイナンバー制度実施の課題

「マイナンバー制度 導入・運用状況に関するアンケート」調査結果

動き始めたマイナンバー制度。企業や個人に定着していくにはまだまだ時間がかかりそうだが、国が目指しているように、行政が効率化とされ、国民の利便性が高まり、公平・公正な社会を実現する基盤になるよう願うばかりである。


【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年2月9日~2月18日
有効回答:215社(1001名以上:52社、301~1000名:56社、300名以下:107社)

  • 1