厚生年金の加入年齢は原則として70歳未満なので、通常70歳以上の役員や従業員は加入しない。そのため、70歳以上の者が企業に在籍していても、厚生年金関係の手続きは必要がないように思える。しかしながら、実はそうではない。それは一体、どのような仕組みなのだろうか。
なぜ厚生年金に未加入の高齢役員・従業員でも日本年金機構へ届出が必要なのか

70歳以上の制度未加入者が届出対象に

厚生年金の加入年齢は、平成14年3月までは原則として65歳未満とされていたが、同年4月からは70歳未満に引き上げられている。そのため現在は、70歳未満の者が厚生年金の適用事業所で勤務している場合、一部のケースを除き厚生年金の被保険者としての手続きを行う必要がある。70歳以上の場合は、原則として厚生年金の加入対象にならないので、厚生年金の被保険者としての手続きは存在しない。

ところが、70歳以上の役員・従業員を雇用する場合、一定の条件に合致すると、日本年金機構への届出が義務付けられている。なぜ、制度に加入していない高齢の役員や従業員も届け出るかというと、70歳以上で企業に勤めている者については、支給される給料や賞与の金額をもとに、年金の支払額を変更する必要があるためである。

在職老齢年金の計算に必要な「70歳以上被用者」の情報

厚生年金には、「在職老齢年金」と呼ばれる制度が用意されている。これは上記の通り、老齢厚生年金の受給者が企業で働いている場合に、その企業から支給される給料や賞与の金額に応じて、受け取れる老齢厚生年金の金額を変更する仕組みである。

元来この制度は、厚生年金に加入しながら働いているケースのみを対象としたため、厚生年金の加入対象である70歳未満の者に限定して適用されていた。

しかしながら、平成19年4月からは厚生年金の加入対象ではない70歳以上の者も、「在職老齢年金」の制度の対象とされた。70歳以上でも現役で働いているのであれば、給料の額などに応じて年金額を変更しようということになったわけである。

ただし、この制度を実施するには、対象者の給料や賞与の情報がどうしても必要になる。そこで、70歳以上の在職老齢年金制度がスタートするのに合わせて、70歳以上の役員・従業員についても給料の額などを届け出る仕組みが新設されたのである。

70歳以上の場合、厚生年金の加入者ではないので「被保険者」という呼び名が使えない。そこで、「70歳以上被用者」という新しい用語が用いられるようになった。ちなみに「被用者」とは、雇われて働く立場の人を意味する言葉である。

「70歳以上被用者」に該当する条件

「70歳以上被用者」に該当し、厚生年金関係の届出の対象になるのは、次の3つの条件を全て満たした場合とされている。

(1)70歳以上であること
(2)過去に厚生年金に加入したことがあること
(3)厚生年金の適用事業所に勤めており、「被保険者の適用除外要件」に該当しないこと

このうち(3)の意味が分かりにくいのだが、要は「もしも70歳未満であった場合は、厚生年金に加入を義務付けられるような働き方をしていること」というような意味合いだ。以上の条件を満たす場合には、厚生年金の「70歳以上被用者」としての届出が必要になり、届け出た給料の額などに応じて老齢厚生年金の支払額が変更されるのである。

勤めている役員や従業員が70歳を迎え、厚生年金上の立場が「被保険者」から「70歳以上被用者」に変わった場合に提出が必要になるのが、『70歳到達届』という書類である。この書類の提出ルールが、本年4月から変更になっていることを皆さんはご存知だろうか。本年4月以降は、70歳前後の給料の額に一定の変動がある場合にのみ『70歳到達届』を提出すればよいことになった。従って、70歳前後の給料の額に変動がないのであれば、現在は提出が不要とされている。つまり、手続きが若干簡素化されたのである。

企業の社会保険事務を担当する皆さんにとって、「70歳以上被用者」の手続きは忘れやすいという特徴がある。ぜひ一度、ご自身の企業の「70歳以上被用者」の状況を確認していただきたい。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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