もしも企業の経営に携わる方々、人事部門の方々が、「あなたの会社の適正な人件費はいくらですか?」と問われたら、どのようにお答えになるだろうか。あるいは、「給与にはメリハリがありますか、ありませんか?」、「適正な人員数は何人ですか?」、「どの職種、どの等級が何人ずついるのが適正ですか?」と問われたらどうだろうか。
「定量的視点からの人材マネジメント」
  このような問いに対して、経営に携わる方々が数字で答えられるということ、もしくは、経営から問われたときに人事部門が数字で答えられるということが、これからの企業の人事管理において問われてくるひとつのポイントではないかと感じている。

 いま、多くの企業が、人件費コストをどうするか、余剰人員対策をどうするか、また、高齢化社会が進むなかで、雇用延長を行いながらいかに活性化と成長を実現するかなど、人事領域の難しい問題・課題に直面されている。第一歩として大切なのは、自社で起こっている問題・課題を正確に把握することだが、では、それをどのように把握するか。従来、よく行われているのはインタビューだが、全員に聞いているわけではないことに加え、聞き方や、聞かれる側のその日の気分によって答えが変わる場合もあり、非常に定性的で曖昧だ。また、モチベーションサーベイといったアンケートもよく行われており、こちらは全員に聞くので良い調査方法だが、「本当のことを答えると、あとで困るのでは?」と不安を持たれ、アンケート結果があまり正しくない場合も往々にしてある。その一方で、科学的根拠に基づく経営の意思決定が重要との認識から、最近、注目されてきたのが、過去の数年分のPLと現在の人事データを加工し、人事領域のさまざまな問題・課題に関して定量分析を行うというアプローチだ。
「定量的視点からの人材マネジメント」
  私自身、このような定量分析のサービスをこれまで500社ほどのクライアント企業にご提供しているので、代表的な手法をご紹介する。たとえば、労働分配率という概念で適正な人件費を知ることができる。自社の過去の労働分配率の統計を取り、業種別の労働分配率の平均値と比較すると、自社が業界の他社に比べて人件費を多めに配分しているのか、少なめに配分しているのか、はっきりした傾向が見える。また、年収配分妥当性診断を行えば、自社の給与評価がどの程度メリハリのついたものになっているかが判断できる。これは、社内の人材を、それぞれの挙げているパフォーマンスが平均的か、平均より高いか、低いかに応じて、アベレージパフォーマー、ハイパフォーマー、ローパフォーマーと分類し、これらのセグメント別の年収配分が適正かどうかを分析するものだ。是非は別として、ハイパフォーマーの年収は離職を防ぐため社外流出圧力がかからない水準とし、ローパフォーマーの年収は社外流出圧力がかかる水準となるように評価ができていれば、労働市場的な観点からはメリハリがついていることになる。企業が賃金制度や評価制度の見直しを考える場合は、この分析結果を議論のベースにすることができる。
「定量的視点からの人材マネジメント」
  そして、特にバブル期大量採用の影響で45歳以上が多くなっている企業では、人員構成と人件費に関する将来予測診断を行うことが望ましいだろう。もしもこのままの人員で、いまの人事制度を変えずに運用した場合、15年から20年たつと人員構成と人件費がどうなるか、シミュレーションを行うと、非常に恐ろしい結果が出ることが少なくないのが実態だ。いま起きている人事問題と、将来起きる人事問題は違う。従って、将来を予測しない限り、正しい人事施策を打つことは難しい。

 このような定量分析の手法を用いることで、人事領域の現在と将来のさまざまな問題・課題が数字として出てくるということは大変重要だ。それらについて議論する場合は、共通言語として、こうした数値の分析を基に行うのが一番わかりやすいのではないか。経営に携わる方々が今後の組織・人事について検討するときのひとつの視点として、ご参考にしていただければと思う。
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