2022年4月から、「改正育児・介護休業法」が段階的に施行され、特に男性の育児休業取得を強く推進する施策として注目されています。まるで滝つぼに落ち込むかのようなスピードで少子高齢化が進むことが確実になった今、企業が「育児」のみならず「介護」や「治療」と仕事の両立をどう支援するかは、将来の日本の在り方を左右する要素になります。
「育児・介護・治療」と「仕事」の“両立支援策”とは。2022年4月開始「改正育児・介護休業法」を基準に解説

少子高齢化による生産年齢人口の減少とその影響

2022年4月1日現在の日本の総人口は約1億2,000万人ですが、今世紀末には4,000万人から6,000万人に減少すると推計されています。あとわずか30年足らずで、15歳以上65歳未満の人口(生産年齢人口)は現在の東京都の人口に匹敵する約1,300万人も減少する見込みです。一方で65歳以上の高年齢者は約300万人の増加が予想されています。

生産年齢人口が大幅に減少し、高年齢者が増加することで、年金の保険料負担者と年金受取人の割合は「1対1」に近づきます。そうなると、年金収支の帳尻を合わせるため、「年金減額」か「支給開始年齢の引上げ」を行なわざるを得ません。数年前、大議論を呼んだ「年金以外に老後資金2,000万円必要」説ですが、これは現在の水準での年金受給を前提としています。将来、不足額が2,000万円どころではない……という時代になりかねません。

このような状況において、企業による「育児・介護・治療」と「仕事」の両立支援の意義は、以下の2点があげられます。

(1)社会経済的側面の支援

上記の「就業者の減少」と「年金財源のひっ迫」への対策として、女性と高年齢者の労働参加を増加させようと、育児支援策や高年齢者の継続雇用義務年齢の引上げ策が取られています。また、介護や治療による離職防止策についても同様といえます。

(2)個人の経済的充足と幸福追求の支援

これらの支援策は上記(1)の社会的要請に答えるためという側面以上に、仕事を通じての個人の「経済的充足」や「幸福追求」を支援することに直結します。むしろこの側面を優先すべきものといえます。

これらをふまえ、実際に会社として実施すべきことは何か、具体的に解説していきます。

「育児・介護・治療」と「仕事」の両立のために会社が実施すべきこと

(1)育児と仕事

我が国でも「母親の負担を軽くするため父親が協力する」という考えがようやく一般的になりつつあります。しかし更に進んで、「育児は父親と母親の両性が共に行うことが大前提」という考えが主流になる必要があります。その観点から、2021年に「育児介護休業法」の改正が行われ、会社に新たに下記の義務を課しました。

1.周知義務
全社員に、育児休業制度について積極的に周知することが必要となりました。

2.意思確認義務
育児出産に係る社員に、育児休業制度を利用するか否かを文書等で確認することが必要となりました。

3.「出産時育児休業」の新設と「育児休業取得」の柔軟化
出産時育児休業は産後8週間の間に最長4週間取得可能(分割2回まで)で、労使協定締結によりその間の就労も可能に。また、1歳までの育児休業を2回に分割して取得することが可能になり、1歳半、2歳までの延長時の取得方法も柔軟化されました。これによって、両親が交互で育児休業を取得することが容易になりました。

(2)介護と仕事

介護でも、周知、意思確認の必要性は同じです。介護は育児より広い範囲の社員に起こり得、かつ開始も終了も予測不能という難しさがあります。

(3)治療と仕事

人はガンをはじめ、いつ重大な疾患にかかるかわかりません。治療が長期的かつ断続的に必要な場合に対して、治療のための有給の特別休暇制度や、所得補償保険への加入推奨等、収入面での支援が求められます。そのような支援を継続することで、その間の治療方法の向上により治癒の可能性も高まります。

(4)支援プランの作成

育児、介護、治療と仕事の両立支援は、場当たり的に行うと多方面で無理や不満が生じます。あらかじめ、支援プランを作成し計画的に行うことが必要です。大まかな手順は以下となります。

1.具体的支援内容の周知と相談体制の整備
育児・介護・治療について、会社として行う支援策を法律の求めに応じて示し、社員が気軽に相談できる窓口を設置し明示します。

2.支援方法を探るための状況の詳細な聴取
相談員が具体的な相談を受けたときは、実情を詳細に聴取することが大事です。そのためには、相談員にヒアリングや傾聴の技術を身につけさせる必要があります。

3.状況に応じた支援プランの策定
実情を把握して、相談者と共に支援プランを作成します。目先の事象に囚われず、網羅的、時系列的に効果の高いプランを立てることが大事です。そのためには、会社が専門家の手を借りて、会社や行政が行う支援策、法律や税金面での知識を網羅した「支援マニュアル」を整備し、相談員が正確にその知識を身につけることが前提になります。

支援プランでは、育児・介護・治療のスケジュール、休業・休暇、勤務日・勤務時間の希望、業務の引継ぎ分担などを明確にします。この際に、相談者に周囲の協力を得るために実情を開示することの了承を得ます。

4.具体的な支援
支援プランに則って実施します。実施状況を見て適宜修正すべき点が出てきたときは、積極的に対処します。

(5)支援プラン実施上の問題点と解決方法

支援プランを実施していくと、上司や周囲の社員から反発が起きる場合があります。その防止のために、支援を受ける社員も会社が教育指導することが重要になります。

1.ハラスメントの防止(支援してくれる周囲への感謝の表意)
支援を受ける社員が、それを当然の権利として声高に要求すると、マタハラ、パタハラの原因となることがあります。支援してくれる周囲の社員に満遍なく感謝の意を持ち、それを敢えて言葉に出すことを教育することが大事です。

2.休業、休暇等の取得目的に沿った利用の確認
各休業制度は、取得目的に沿って利用するよう指導することも重要です。立法上の問題で我々の力の及ぶところではありませんが、権利を与える法には、その濫用を咎める規定があって然るべきと考えます。


以上、国が求める会社の支援策を述べてきましたが、本来、少子化対策として最も必要なのは次のことです。即ち、人間はひとりの力で突然生まれたのではなく、両親、祖父母、曾祖父母と遡った人々から、命を引き継いできた存在であることの再認識です。真の少子化対策は、育児・介護・治療は人生にとって克服すべき意味のあるハードルであり、自ら忌避してはいけないという教育、まず「命のリレーランナー」であることの教育からです。このままいくと、100年足らずで日本人が誰もいなくなるということに対する、根本的教育が今、最も求められるのです。


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