2022年4月・10月施行の「アルコールチェック義務化」に対応するために、直行直帰や出張の多い会社では、電話対応のための人員確保、時間外手当支給等に大きな負担が発生する可能性があります。しかし、会社として飲酒運転撲滅への協力は不可欠です。本稿では、“できるだけ負担を増加させずに義務を果たす”ための工夫について考えます。
2022年4月・10月施行の「改正道路交通法」、直行直帰や出張時の「アルコールチェック義務化」にどう対応するか

改正道路交通法の「アルコールチェック義務化」の内容

本年4月1日から「改正道路交通法施行規則」が順次施行され、安全運転管理者の選任が必要な事業所では、次の業務が追加されました。

(1)4月1日から追加された安全運転管理者の業務

●運転前後の運転者の状態を目視等で確認することにより、運転者の酒気帯びの有無を確認すること。
●酒気帯びの有無について記録し、記録を1年間保存すること。

(2)10月1日から追加される安全運転管理者の業務

●運転者の酒気帯びの有無の確認を、アルコール検知器を用いて行うこと。
●アルコール検知器を常時有効に保持すること。

飲酒運転規制の厳格化とその背景

もともと日本は、「道路交通法」が整備された1960年前までは、飲酒運転に対して罰則はなく、飲酒に比較的寛容な国柄でした。ではなぜ現在のようになったのか、飲酒運転に対する罰則が強化された背景と、規制厳格化の流れを整理します。

(1)飲酒運転による重大事故の発生

1999年、東名高速で飲酒運転常習者のトラック運転より、夫婦子ども4名のうち子ども2名が死亡する事故が発生。また、2006年には福岡市で、男性の飲酒運転により追突された自動車が博多湾に転落し、子ども3名が死亡するという痛ましい事故もあり、マスコミにも大きく取り上げられました。更に、2018年にも、飲酒運転かつスピード違反の運転によって、4名の死亡事故が発生しました。

(2)規制厳格化の流れ

1960年の「道路交通法」の整備により、「呼気1リットルに対し0.25mg以上の状態」での運転は禁止されました。人による違いはあるものの、0.25mgというのは、心肺機能に影響が出るほか、運動能力や認知能力にも相応の影響が出るとされる水準です。

1990年代には、世をあげて「バブル時代」となり、夜遅くまでの飲酒後や、ゴルフ場での宴会後の運転が少なからず見られました。そのような風潮の下、悪質な飲酒運転事故も増加したため、2002年、2007年、2009年に、「呼気1リットルにつき、0.15mg以上の状態」を罰則の対象とし、加えて「運転者のみならず飲酒運転に同乗した人」、「酒を飲んでいると知りながらその人に運転をさせた人」、「自動車を運転すると知っていながらその人に酒を提供した人」も罰則の対象となりました。

今回の「改正道路交通法」で会社に生じる負担増とは?

これらの背景を踏まえ、改正法では、安全運転管理者に“目視で運転者の酒気帯びの有無”を確認する義務が課せられました。社員が出社後に自動車で営業活動等に出て、その後帰社する場合であれば、安全管理者の確認に大きな負担が増えることはありません。悩ましいのは、直行直帰や出張の場合です。

直行直帰や出張の場合、一般的には早朝や深夜、休日など「所定労働時間外」での確認になります。それを「リアルタイム」に「携帯電話などで声を聞くこと」で実施することが求められています。これは、アルコール検知器導入後も同様です。従って、自動車の保有台数が多く、直行直帰などが多い会社では、運転開始・終了時に運転者からの電話を受けるのは大きな負担になるでしょう。一方で、厚生労働省は「働き方改革」として時間外労働の上限規制を強めており、会社は必死でそれに応える努力をしています。

この電話を待つ時間や受ける時間が、「労働時間」、「手待ち時間」、「待機時間」、「指揮命令下にない時間」のいずれに当たるかについて、いくつかの労働基準監督署に確認してみましたが、「状況次第で見解が分かれる」との回答でした。もしこれが、「労働時間」だとすれば、かなりの時間外労働の負担が、労使ともにかかってきます。たとえ、それぞれの確認時間はわずかであっても、受ける側の拘束感は免れません。

直行直帰・出張時の負担増に対する工夫や対応のポイント

このような状況を踏まえて、会社として以下のような工夫が考えらます。

1)記録表のフォームの工夫

1年間保存すべき記録表のフォームを、従来から義務付けられている「運転日誌」と合体させる。このフォームは、警視庁、各県警などのHP上でも例示されており、自社に合わせた修正をして使用することができます。

2)記録表の入力方法の工夫

上記の記録表をExcel等で作成し、紙に落として使用する場合が一般的と思われますが、紙で使用すると確認・記録が事後にならざるを得ません。そこで、記録表自体を社内イントラ上に置き、スマホまたはPCで入力できるようにすれば負担は減少します。

3)確認者を増やす工夫

アルコールチェックの確認は安全運転管理者がしなければなりませんが、他の社員が安全運転管理者の補助者としてチェックを行うことは可とされており、例えば運転者や総務担当者が交代で行なえば、一部の社員に負担が集中することを回避できます。

4)時間外労働、及びその手当に関する工夫

始業前時刻での確認対応時間、終業時刻から電話がかかるまでの待ち時間や、その対応時間等が、時間外労働とみなされる可能があります。時間外上限規制の順守や、時間外手当の増加を抑える必要がありますので、会社の実態を踏まえて以下の工夫が考えられます。

●確認のため時間(1ヵ月間の合計時間)は、労働時間と認識することが原則ですが、1回1回は短時間であり、労使協議の上、若干の「オンコール手当」としての支給額を決めて対応すること。
●終業時刻から電話がかかるまでの時間は、社員が自由に使える時間とする。そのために、電話対応を当番制にして、最初の当番者が電話に出ない場合は、次の当番者に電話するように決めて、電話に出ることを義務化(拘束)しない体制とすること。
●休日の場合も、同様に当番制とすること。 

アルコールチェックの実態を、日々会社が細部まで見届けることは、とても困難です。だからといって、記録表をただ1年間保存するだけでは、形骸化する危険性があります。先日の知床観光船事故のように、実際に事故が発生してしまうと「航海日誌」等が厳しくチェックされ、会社の監督責任を問う根拠とされます。

飲酒事故が発生してしまった場合、“「形だけ整えておけばよい」という実態だった”と認定されると、厳しく責任追及されることを肝に銘じましょう。アルコールチェックを適正に運用するためには、会社が適切な頻度で、チェックの実態を抜き打ち検査することが必須です。

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