2020年5月、少子高齢化、若年労働者層の減少といった社会の変化を年金制度に適切に反映すべく「年金制度改正法」が成立し、2022年4月から段階的に施行開始となった。年金の受け取り開始時期に関する選択肢の拡大、在職中の年金の受け取り方の見直し、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等が行われたが、特に注目すべきは、2022年10月から開始となる「社会保険の適用拡大」ではないだろうか。本稿では、法改正による社会保険の適用拡大で、適用対象がどう変わるのか、ポイントを整理して紹介する。
2022年10月から実施される「社会保険の適用拡大」のポイントと注意点を解説

社会保険の加入条件とは

社会保険の加入条件は、「厚生年金保険の適用事務所で働く正社員および正社員と同様に働くパート・アルバイト」とされている。パート・アルバイトにおける現行の加入条件は下記のとおりである。

社会保険の加入条件
(1)週所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、同じ事業所で同じ業務を行う正社員など一般社員の4分の3以上
(2)もしくは、下記の要件をすべて満たしている
・週の所定労働時間が20時間以上
・勤務期間1年以上またはその見込みがある
・月額賃金が8.8万円以上
・学生以外(ただし、休学中や夜間学生は加入対象)
・従業員数501人以上の企業に勤務している


なお、(2)における所定労働時間は、週所定労働時間が40時間の企業の場合の条件である。あくまでも契約上の所定労働時間であり、残業時間等は含まない。契約上は所定労働時間が20時間に満たない場合でも、雇用後の実労働時間が2ヵ月連続で週20時間以上となり、かつその状態で雇用されることが続くと見込まれる場合には、3ヵ月目から社会保険の加入対象者となる。また、(2)の月額賃金とは、基本給及び諸手当のこと。ただし残業代、通勤手当、賞与等は含まない。

2022年10月からは、「従業員数101人以上」の企業においても短時間パート・アルバイトの社会保険加入が義務付けられることに加え、勤務期間要件が「1年以上(見込み)」から「2ヵ月超(見込み)」に変更となる。さらに2024年10月からは、「従業員数51人以上」の企業においても同様に適用が拡大される予定である。詳しく見ていこう。

「年金制度改正法」による社会保険の適用拡大の内容

先述のように、2022年10月からの社会保険の適用拡大の対象企業は、従業員数101人~500人の企業である。従業員数の数え方は、「正社員と、週所定労働時間がフルタイムの4分の3以上のパート・アルバイトの合計」となる。これは、「実際に社会保険の加入手続きをしている被保険者の人数」ではなく、「本来は適用対象となる従業員(何らかの理由で社会保険の加入手続きがなされていない従業員も含む)」の合計を意味する。

●従業員数が変動する場合の判断:

基本的には企業単位ではなく事業所単位で社会保険の適用対象者を判断し、加入手続きを行う。2022年10月以降のある時期に、社会保険に加入している被保険者数が101人以上となったとしても、すぐに拡大が適用されるわけではなく、直近12ヵ月のうち6ヵ月以上の期間において基準を上回っている場合に適用される。企業をはじめとする法人の場合、同一法人番号内の対象者を合計するが、個人事業の場合は事務所ごとに対象者をカウントする。

●社会保険の加入条件における変更点:

2022年10月以降は、次の5つの要件を全て満たす短時間パート・アルバイトが新たに社会保険の対象者となる。

(1)週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
(2)月額賃金が8.8万円以上
(3)2ヵ月を超える雇用の見込みがある
(4)学生ではない
(5)従業員数101人以上の企業に勤務している

●社会保険加入のメリット:

適用対象者が社会保険に加入する場合のメリットとしては、「将来の年金(老齢、障害、死亡時)受給額の増加」と「傷病手当金や出産手当金などの給付」の2点があげられる。

社会保険の適用対象者の加入手続きをしていない企業は、罰則として6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金のほか、2年遡及加入命令などを受ける可能性もある。社会保険加入後は当然社会保険料が発生し、加入する従業員の給与から引かれる(手取り給与の減少)。「年金制度改正法」の施行により、新たに社会保険の適用対象となる労働者には、説明会や個人面談等を設けて、社会保険加入による変更点やメリットを説明すべきだろう。そのうえで、これまでと同じように働くことによって社会保険に加入するのか、もしくは労働時間を調整することで社会保険に加入しないのか、対象者と企業の双方の意向を話し合い、慎重に検討する必要がある。

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