「労務管理」の業務には、労働(雇用)契約、社会保険、給与、就業規則などの管理のほか、安全・衛生確保や労働環境の改善を通じて“働きやすい職場”を作ることも含まれる。多岐に渡る「労務管理」の業務について、その内容や、仕事を進めるにあたって注意すべきポイントなどを整理し、解説する。

「労務管理」の定義や目的とは何か

「労務管理」とは、従業員の“労働”に関するさまざまな事柄を管理する業務である。労働状況の記録、就業規則の作成、給与計算、社会保険の手続き、福利厚生など、その業務範囲は多岐に渡る。

「労務管理」の意義・目的は、大きく2つに分けられる。1つ目は“法令遵守とリスク回避”だ。労働条件、就業規則、労働環境、従業員の健康維持などに関しては、労働法と呼ばれる各種関連法に対応しながら管理することが求められる。法令遵守は企業としての社会的責任であり、これを疎かにしていては罰則を受け、企業としての価値や信頼も落としてしまう。また安全な職場環境を維持できないと、従業員の身にも危険が及ぶ。そうした事態を避けるためにも「労務管理」は必要となるわけだ。

もう1つが“生産性の向上”だ。労働環境の整備や従業員の健康維持などを通じて働きやすい職場を実現できれば、従業員のモチベーションは上がり、生産性も向上するだろう。従業員が安心して働ける企業は、企業価値も上昇し、それが優秀な人材獲得にもつながって、さらに生産性はアップするはずだ。

●「労務管理」と人事管理は、どう違う?

従業員の“働き方”と密接に関係する「労務管理」は、「人事管理」とともに、人事領域の業務における大きな柱になっている。

「労務管理」は従業員の“労働”に関連した業務であり、労働条件の定義・維持・改善、就業規則の作成、社会保険の手続きなど、組織単位の業務になることが特徴だ。一方、「人事管理」は、採用、異動・配置、評価、昇格、育成など、個々の従業員が業務対象となる。

人事部が「労務管理」と「人事管理」をともに担当するケースのほか、「人事管理」は人事部、「労務管理」は労務部または総務部と担当部署を分けるケースなど、企業によってスタイルは異なる。それぞれの業務には専門的な知識とスキルが求められるため、業務ごとに担当者を置くことがベターといえる。

●「労務管理」を司る担当者の存在

人事部、労務部(労務課)、総務部などの長が「労務管理」全体の責任者、いわゆる“労務管理の担当者”として業務にあたることとなる。ただし“労務管理の担当者”は、設置が義務づけられているわけではない。他方、「労務管理」において法的に選任が義務づけられている役割もある。

・衛生管理者
従業員の危険防止・健康増進、職場の衛生改善などを担う安全衛生管理は、「労務管理」業務の中でも重要なものである。労働安全衛生法において、常時50人以上の労働者を使用する事業者には「衛生管理者」の選任が義務づけられているのだ。

・管理監督者
労働基準法において「監督もしくは管理の地位にある者」を指すのが「管理監督者」だ。「管理監督者」は労働条件の決定などについて経営者と一体的な立場にある者とされ、労働基準法で定められた労働時間・休憩・休日の制限を受けないことが特徴である。

「管理監督者」と「管理職」はたびたび混同されるが、両者には違いがある。「管理職」の定義は企業によって異なるのに対し、「管理監督者」と認められるためには「労働時間などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容・責任・権限を持つ」といった条件を満たす必要がある。単に「管理職」というだけで、部下の労働条件決定などについて何の権限も持たない者は「管理監督者」とは呼べない。「管理職には残業代は出ない」は誤解であり、自らの裁量で経営上の判断や対応をする権限を有してはじめて「管理監督者」となり、労働時間などの制限を受けない立場となるのである。

【PDF資料】雇用保険/老齢年期/パワハラ防止法/育児・介護休業法など改正法を網羅
【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」〜社労士が12の法改正を解説〜

【HRプロ編集部Presents】令和4年度(2022年度)版「人事労務 法改正まとめ」〜社労士が12の法改正を解説〜

「労務管理」の具体的な仕事内容

「労務管理」の仕事内容は多岐に渡り、さまざまな役割を遂行しなければならない。ここでは基本的・代表的な業務を列挙しよう。

●労働契約に関する業務

従業員を雇用する際には、雇用する側(会社)とされる側(従業員)の間で、勤務時間や給与など細かな労働条件について合意したことを示す「労働(雇用)契約書」を交わすことになる。さらに、契約期間、就業時間・場所、休憩時間や休日、従事する業務、賃金など、契約に必要な情報を記載した「労働条件通知書」の交付も労働基準法によって義務づけられている。

「労働(雇用)契約書」と「労働条件通知書」は共通している部分も多いため、両者を合わせた「労働条件通知書兼雇用契約書」が作成されるケースも多い。

●就業規則の作成・管理

労働基準法では、常時10人以上の従業員が働いている場合、「就業規則」を定めて行政官庁に届け出ることが義務づけられている。休憩時間、食費、災害補償、表彰・制裁、制服の貸与など、職場におけるルールである「就業規則」を作成し、従業員に周知することも「労務管理」業務の1つだ。

●社会保険などの手続き

健康保険や厚生年金保険などの「社会保険」、労災保険や雇用保険などに関連した手続きも「労務管理」にあたる。従業員の入社時には保険の資格取得、退社時には資格喪失、育児による休職時には各種給付金の申請、異動時には住所変更……など、さまざまなタイミングで手続き・届け出が必要となる。

●勤怠の管理

始業時刻と終業時刻、時間外労働(残業や休日出勤)、遅刻・早退・欠勤、年次有給休暇など、従業員の勤務実績=「勤怠」を記録・管理する業務も重要だ。給与計算のほか、長時間労働の監視・防止などは従業員の健康を守るうえでも欠かせない業務となる。

●給与などの計算

労働契約や就業規則、勤怠のデータ、人事考課をもとに、従業員の給与・各種手当・賞与、社会保険料や雇用保険料とその控除額、税金などを計算することになる。従業員数が増えるにつれ、あるいは雇用形態が多様化するにつれて、業務量は多くなり、計算も複雑化する。

●福利厚生

給与・賞与とは別に、従業員とその家族に提供する報酬が「福利厚生」だ。健康保険や雇用保険などの各種社会保険は「法定福利」と呼ばれ、会社が保険料を負担することになっている。一方、「法定外福利」は各企業が独自に定める福利厚生で、社宅の提供、通勤手当、社員食堂の運営、育児支援、資格取得のサポート、福利厚生サービスを提供する事業者との契約などがあげられる。これら「福利厚生」の整備・管理も「労務管理」業務に該当する。

●法定三帳簿の整備

労働基準法では、以下の3つの帳簿を整備・管理・保管することが義務づけられている。適切に対応できていないと労働基準法違反となるため重要な業務だ。

・労働者名簿
従業員の氏名や生年月日など、人事・労務に必要となる個人情報を記録した帳簿

・賃金台帳
賃金計算期間、労働日数・労働時間、基本給・手当、税金の控除額など、従業員に対する給与の支払い状況を記載した帳簿

・出勤簿
出勤日、出勤・退勤時刻、労働日数など従業員の労働時間に関する記録をまとめた帳簿

●安全衛生管理

職場の安全衛生を確保し、また従業員の健康増進を図るための措置を講じることが労働安全衛生法によって義務づけられている。健康診断の実施、ストレスチェック、産業医や衛生管理者の選任などが該当する。

●職場環境・業務の改善

現場と連携しながら働く環境や業務を改善し、長時間労働の是正、ハラスメントの防止、高齢者・障害者の雇用促進、女性の活躍推進などを目指すことになる。

「労務管理」における新たな課題と注意すべきポイントとは

ここでは「労務管理」に関して近年特に課題となっているものについて紹介しよう。

●多様な働き方への対応

新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった前提が崩れ、通年採用や転職の増加、成果主義やジョブ型雇用の導入など、採用形態・雇用形態の多様化が進んでいる。働き方改革が叫ばれ、ワークライフバランスやセカンドキャリアに関する議論も活発化している。もはや既存の「労務管理」の方法論では通用しないケースも増えてきた。

さまざまな働き方、価値観に対応すべく、新しい形の労働契約や就業規則を作成・整備することが求められているといえるだろう。

●コンプライアンス

「労務管理」は、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法といった法令に則って業務を進めなければならないケースが多いため、「コンプライアンス」に対する意識を高く持っておく必要がある。法令違反によって企業価値を損ねることがないよう、リスクマネジメントには十分な注意が必要だ。

●情報管理

「労務管理」では、従業員の氏名や住所、給与、マイナンバーといった個人情報を扱う。これらの保護や適切な管理も重要なテーマだ。近年ではこれらの情報をデジタルデータとして管理する企業も増え、情報の外部流出・漏洩が明るみとなるケースも出てきている。データベースへのアクセス制限、セキュリティの確保など、質の高い情報管理に取り組まなければならない。

●ハラスメント対策

社会問題ともなっているパワーハラスメントやマタニティハラスメントへの対策も「労務管理」業務に含まれるものと考えられている。

2020年にはパワハラ防止対策を義務化した「改正労働施策総合推進法」も施行され、コンプライアンスの観点からもハラスメント対策は必須の業務となっている。対策・方針の明確化、発生してしまった場合の対応策立案、周知・啓発、従業員が報告・相談できる環境づくりなどに取り組む必要がある。

●テレワーク/ワーケーション

コロナ禍によって在宅勤務が増え、また休暇中(vacation)に旅先などで仕事(work)をする「ワーケーション」も注目され始めている。こうした新しい働き方に対応するためには、就業規則の変更が急務であり、交通費や諸手当に関するルール作り、出退勤の新たな定義づけ、ケガや病気の際に労災かどうかを判断する基準の明確化などにも取り組まなければならない。

また上司が従業員の働きぶりや様子をうかがい知る機会が減ることで、健康管理・ストレス管理が難しくなるという問題も指摘されている。これに対する施策も重要だ。

●副業・兼業

働き方改革の進展や価値観の多様化にともない、副業・兼業を認める企業が増え始めている。自社でも検討・取り組みを進める際には、2020年に改訂された『副業・兼業の促進に関するガイドライン』(厚生労働省)が参考になるだろう。

「労務管理」の業務に求められる資質や資格

「労務管理」の業務を進めるにあたって、求められる資質や役に立つ資格について整理しておこう。

●法令に対する理解力

「労務管理」の業務は、下記のような法律、いわゆる「労働法」と切っても切り離せない関係にあり、法律に対する知識は極めて重要なものとなる。

・労働基準法
・労働契約法
・最低賃金法
・労働安全衛生法
・男女雇用機会均等法
・労働組合法
・労働関係調整法
・労働者災害補償保険法
・育児・介護休業法
・パートタイム・有期雇用労働法
・労働者派遣法 など


時代の要請や労働環境の変化に合わせて各法律はたびたび改正されており、またマイナンバー法など「労務管理」に関連した法律が新たに制定されることもある。そのため、知識をアップデートし、労働条件、労働環境、就業規則などを迅速に変更していくことが重要だ。

●労働状況や業務の改善に対する意識の高さ

法律だけでなく、ライフスタイルや価値観の変化、働き方の多様化、雇用の国際化、少子高齢化など、激変するビジネス環境に対応する施策も積極的に進めなければならない。

現場と連携し、労働者の視点を大切にしながら、長時間労働の抑制、安全と健康の確保、女性・高齢者・障害者の活躍推進について考え、作業環境と作業方法を改善し、誰もが働きやすい職場を作り出すことが大切だ。

●「労務管理」業務に関連した資格・検定

「労務管理」業務を遂行するにあたって役立つ資格・検定には以下のようなものがある。これらの学習や資格の取得によってスキルアップを図りたい。

・労務管理士
「労務管理」の業務遂行能力があることを認定する民間資格(一般社団法人日本人材育成協会と一般社団法人日本経営管理協会が運営)であり、関連法規や実務に関する専門的知識が問われる。公開認定講座・通信講座が開催されており、Web資格認定講座の合格を目指すことになる。

・社会保険労務士
実務経験が必要など受験資格は厳しく、難易度も高い国家資格。社会保険労務士でないとできない業務(行政機関に提出する書類の作成代行、労働社会保険関係法令に基づく帳簿書類の作成)もある。

・衛生管理者
従業員の健康維持・増進、職場環境の整備、労働環境の改善など、社内の衛生環境を管理する役割として労働安全衛生法で選任が義務づけられている「衛生管理者」は、国家資格でもある。

以上のほかにも、人事・人材開発・労務管理の職務遂行に必要な知識と実務能力を評価するビジネス・キャリア検定試験、特定個人情報の適正な取り扱い方法を習得し、マイナンバー管理の専門職として認定されるためのマイナンバー実務検定/マイナンバー保護士認定試験なども「労務管理」に関わる試験・検定だ。

これからの「労務管理」が果たすべき役割とは

「労務管理」は企業運営にとって不可欠な業務である。しかも、関連法規は頻繁に改正され、また「人事管理」の領域とも密接に関わってくるため、煩雑かつ膨大な仕事が待っている。「労務管理」のあり方そのものの改善と効率化を進めるべく、近年では、勤怠管理や給与計算といった個別業務のアウトソーシング、あるいは「労務管理」業務全体をクラウドシステムに移行する動きが広がりつつある。

それゆえ、法律や手続きに関する専門的な知識だけでなく、ITリテラシーも求められるようになっている。また従業員のモチベーションアップや健康増進、ハラスメント防止など、現場で働く人々に寄り添った仕事の重要度が増し、それらに取り組むことで生産性や企業価値を高めることが期待されている。

その実現のためには、コミュニケーション能力や問題解決力を発揮し、経営者的な視点・長期的な視点で労働環境の改善に努めるような働きが、「労務管理」には求められているといえるだろう。
  • 1