「越境学習」という学習形態が、企業をはじめ様々な場面で注目を集めている。しかし、その実態については、いまだ企業や人事担当にとってなかなか捉えにくい。越境体験を通じて、学習者にはどのような学びが生じるのか? そしてそれはどんな場面で生じるのか? 本記事では、越境学習の代表的な実施形態であるALIVEプロジェクトの約3ヵ月間について、キックオフ〜プロジェクト完了までを追うことで、越境学習プロセスを連載形式でレポートしていく。

ALIVEに埋め込まれた2種類の「越境」

異業種混合次世代リーダー育成プロジェクト「ALIVE」は、異業種のメンバーがチームとなって、社会課題に取り組むNPOや企業などと約3ヵ月間の協働をするプログラムだ(プログラムのステップ図は下記参照)。今期のプログラムには、30社から110名以上が参加し、運営メンバーも合わせると約150名で取り組むプロジェクトとなる。
そんなALIVEの取り組みには、大きく2つの「越境」が見て取れる。一つはチームメンバー間での越境。背景や知識の違うメンバーが集うことは、参加者にとって、普段の業務とは全く異なる考え方やモノの見方に触れることになる。もう一つは、チームメンバーと団体(ALIVEでは、答申先と呼ぶ)間の越境だ。チームメンバーはそれぞれ異業種でありつつも、ほとんどがビジネス領域で活動してきたメンバーである。そこでは、企業の事業活動の考え方は一定程度共有されている。一方、答申先の団体はNPO法人など、社会課題を目的としたソーシャル領域で活動している。つまりビジネスとソーシャルの間で大きくモノの見方や考え方の違いがあり、この違いこそが参加者にとって大きな越境体験につながる。

プロジェクトキックオフ――プロジェクトの土台となる「共通認識」を作る

上述の2種類の「越境」状態にある中で、ALIVEプロジェクトはどのようにスタートしていくのだろうか? 以下、ALIVEのキックオフにあたる「セッション1」の様子を見てみたい。

ここで筆者が見たポイントの一つは、「徹底的な目線の共有」であった。それを象徴するのが以下の図である。
ここで明記されているのは、ALIVEの目的として、参加者が自分のモノの見方を振り返り、自身や周囲に対して新しい視点を獲得することだ。一方、社会課題に取り組むことは、それを実現するための手法であり、これに本気で取り組むことで、参加者自身の成長が実現される。

ALIVEの参加者は多様なバックグラウンドがあり、それゆえに参加の動機も様々である。その中であっても、ALIVEの目的については明確に目線合わせをしていることが筆者には印象的であった。「異業種プロジェクトでも、取り組みに対する共通認識は必要である」。そんなポイントが、上記の図に集約されているように思う。

異業種メンバーの「チームビルティング」

このような共通認識を作った上で、「セッション1」は、チームビルディングのプロセスに移る。ここで重視されていたのは、参加者同士の考え方を出し合うこと。例えば、メンバー一人ひとりの生い立ちを語り合うワークや、答申先団体の課題状況をつまびらかに報告する。これらを通じて、いきなり具体的な活動に取り組むのではなく、まずはその場にいるメンバーの多様性を認識し合う。このプロセスに、約半日間がかけられていた。

異業種のメンバーが居合わせると、どうしても自分の考えや見方が相手にどう映っているのか不安になり、居心地の悪さを感じやすい。その状態を乗り越えるために、セッション1では、お互いがどのような考え方の人間なのか見せ合うことにじっくり時間を使う。このプロセスを通じて、メンバーがチームになる一歩目を踏み出すのだ。

加えて、セッション1の終盤にはチームでのリフレクションの時間も設けられていた。そこでは、「チームの状態をどう見ているのか」について、改めてお互いの考えを議論・共有する。メンバーの背景が異なれば、同じ場にいても、それをどんなものとして理解しているか、全く違っている可能性がある。そのため、あえてセッションの終わりにも今の自分たちがどんな状態にいるのか、お互いの認識を開示することで、共通認識を作ることが促されていた(下記図は、チーム状態の認識における一例の紹介)。
このように見てみると、セッション1は全体として、「認識共有」を図ることに重きを置かれていたことが分かる。この点は、越境学習における大きなポイントではないだろうか。メンバーの多様性が大きく、それぞれの考え方が異なる環境では、その多様性を活かすためにもまず、お互いの共通認識、目線合わせをする。越境学習を実現するためには、越境の前にまずお互いの共通性を作ることが重要なのだ。それが出来て初めて、その後のプロジェクト活動で多様性が活かされるようになる。

もう一つの「チームビルディング」:ALIVEを運営する事務局チーム

ここまで、参加メンバーの認識共有やチームビルディングについて紹介してきたが、もう一つの「チームビルディング」にも触れておきたい。それは、プロジェクトを運営する事務局チームだ。

上述の通り、今回のALIVEプロジェクトは110名以上の参加者が集い、合計20チームのプロジェクト活動となる。そのため、これを運営する「事務局メンバー」も、下図のような様々なメンバーが関わっている。
この中でも「チームサポーター」は、20のチームにそれぞれ1名ずつ配置され、チーム状況を観察したり、チームメンバーに学びが生じるようフィードバックしたりする役割であり、チームにとても影響ある存在だ。チームサポーターの他にも、答申先と3ヵ月の活動テーマを設定する「テーマ担当」や、活動の中で適宜アドバイス支援を行う「フェロー」・「アドバイザー」もプロジェクトの活動を支援する。

実は、この「事務局」も様々な企業からの参加者で構成されている。つまり、事務局のメンバーもまた越境を体験しているのだ。特に、事務局メンバーは参加者に対して、一枚岩となってプログラムを提供していく必要がある。そのため、事務局メンバーは参加者よりも先んじてALIVEの目的や方針・考え方について目線を合わせ、そのうえでプロジェクトを運営していくことが求められるのだ。実際、ALIVEでは、プログラム参加者のキックオフであるセッション1の前に、「サポーターオリエンテーション」という、チームサポーターを中心とした事務局のチームビルディングの場も設けられていた。

このような事務局の取り組みは、参加者が活動するプロジェクトに加えて「もう一つの越境プロジェクト」ともいえる。つまりALIVEは、様々な越境が多重に行われる中で、次世代リーダー育成という目的に向かっていく活動であるといえる。参加メンバー同士の越境、参加メンバーと答申先の間での越境、そして、事務局と参加メンバーの間での越境。まさに多様なメンバーで構成される取り組みからどのような成果が創発されるのか要注目である。

今後の注目ポイント:多様性を活かす協働プロセスとは?

本記事では連載の第1回目として、ALIVEプロジェクトのキックオフであるセッション1や、それに先立っての事務局セッションに注目し、「チームビルティング」のプロセスを取り上げた。そこでは、越境の場であるからこそ、お互いの共通認識を作ることの重要性が見て取れた。

一方、筆者としては今後、メンバー間の多様性がどのように活動の中で活かされていくのかに注目していきたい。チームメンバーは、共通認識を作ることでお互いの多様性を活かした活動を進めることができるだろうか。もしくは、メンバー間の違いがあまりにも大きく、チームとして「崩壊」してしまうようなことになってしまうのだろうか。プロジェクトの進み方の違いによって、メンバーの越境学習の様相も大きく変わってくると思われる。まさにここからが、メンバーの学習プロセスを見るポイントになっていきそうだ。加えて、もう一つ注目したいのは、チームサポーターの越境学習である。上述の通り、事務局もまた、もう一つのチームである。その中にいるメンバー、特にチームサポーターにはどのような学びが生じるのか、注目していきたい。

様々な背景を持つメンバーが、様々な越境を経験するこのプロジェクトは始まったばかりである。ここからどのような学びのプロセスが生まれてくるのか。次回は、プロジェクト活動から中間報告までのプロセスについて報告する予定だ。筆者としても楽しみにしながら、ALIVEプロジェクトに参画していきたい。
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