離職に関する理論と研究:なぜ若手は会社を辞めるのか?【62】
なぜ人は会社を辞めるのか。かつて終身雇用制が続いた時代では、会社を辞めることは希でした。しかし社会が大きく変化した現代では、自らのキャリアプランやライフプランの実現のために、「会社を去る」という選択をする人も少なくありません。一方で、人事側は「なぜ社員が会社を辞めるのか」について、原因や背景を深く考える機会を設けているでしょうか。そこで、これから2回に分けて「離職に関する理論と研究」をご紹介します。今回は20〜30代の若手社員に注目して、「なぜ若手が会社を辞めるのか」を解説します。

「3年以内の離職率」を、時代の変化とともに追う

かつて新入社員が「3年で辞める」ことが社会的な問題になった時期がありました。私の記憶では、「3年で辞める」問題がクローズアップされたのは、2000年代の初頭だったように思います。その頃はまさにITバブルの時代で、次々にIT企業が生まれ、「人々が大手企業よりもやりがいのあるITベンチャーに転職する」という流れがつくられました。

私が就職活動をしていた2006年頃は、同級生どうしで「ベンチャーにいくか、大企業にいくか」という二択について、よく話していました。また、就職後には、同期たちが「3年で辞める」をキーワードにして働いていたことを覚えています。しかし、2006年当時はまだ「3年で辞める」ことは当たり前ではなく、どちらかと言えばネガティブに捉えられ、批判されていた時代でした。

ところが、現在ではどうでしょうか。厚生労働省が公表している「新規学卒者の離職状況(※)」によると、2017年に従業員数1,000人以上の大企業に入社した大卒者(平成29年3月卒)で、3年以内に会社を辞めた人の割合は、全体の26.5%だったようです。さらにデータを遡ると、リーマンショック直後の2009年に入社した人(平成21年3月卒)の3年以内離職率は20.5%となり、そこから徐々に上昇して現在の水準に達しています。最も多かったのが2004年入社組(平成16年3月卒)の27.2%で、ちょうどITバブル全盛期の頃と重なります。

3年以内離職率は、従業員数が小さいほど高くなる傾向を示します。「従業員数5人未満の企業」では60%程度の離職率、「中規模の100〜499人、500〜999人の従業員数の企業」では30%程度の離職率です。

データから、「従業員数1,000人以上の大企業」や「100〜999人の中堅企業」では、景気の上昇に合わせて、3年以内離職率が増えていると考えられます。しかし、少人数規模の企業は常に離職率が高い傾向にあるため、大企業と中小企業では「3年以内離職の理由が異なる」と推測できます。

ベンチャー企業などの「小規模な企業」では、入社後に即戦力としての活躍が求められます。実際のところ、残業時間も多く、責任も求められる仕事が多いのではないでしょうか。そういった意味で、小規模な企業では「能力水準がまだ低い新卒社員」と「即戦力を求める企業」の間でミスマッチが起き、3年以内離職につながっていると考えることもできます。一方で、「大企業」では20%程度の3年以内離職が常に発生しているものの、その増加は景気状況に左右されています。

つまり、新入社員が「3年で辞める」ことの原因は、学生と企業とのミスマッチに加え、景気によるものだと考えられるのです。

「3年で辞める」のは何がいけないのか?

景気が良くなれば求人も増え、転職の選択肢も広がります。求人が増えること自体は経済活動が良好である証拠であり、働く人自身がよりよい待遇を求め、自己実現のために転職することは、一般的には良いことだと言えるでしょう。

それでは「3年で辞める」こと自体に、どのような問題があるのでしょうか?

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の研究「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成II」によれば、新卒者が「初めての就職先」を辞める理由には、大きく以下の3つがあると示唆されています。

(1)企業が正確な職業情報を提供したつもりでも入職後にミスマッチが発生したこと
(2)職場で法令違反や倫理的に不適切な行為が放置されていたこと
(3)職場におけるマネジメントの不行き届き


つまり、職場では一定のミスマッチが発生しているのです。法令やマナー違反が無視されているのは論外ですが、(1)と(3)は企業や職場の努力で十分に改善できる内容ではないでしょうか。「3年以内離職」は、景気変動などの状況に左右される自然発生的な現象のため、完全にゼロにすることは難しいですが、“企業側の努力で改善できる部分も十分にある”ということです。

また、新卒者全体の2〜3割が入社後3年以内に離職しているということは、100名採用すれば20〜30名程度が離職しているということです。大企業では1人あたりの採用費がだいたい100万〜150万円程度と推定されるため、2,000万〜3,000万円以上のコストが毎年無駄になっていると考えられます。これは5年間にすると1億円程度の費用が無駄になるということで、こうした面からも“3年以内離職を極力減らす努力をすること”は、企業にとって「非常に意義がある」ことだとわかります。

「若手が辞めない会社」ではなく、「戻ってきてもらえる会社」をつくるには?

経営学者のチェスター・アーヴィング・バーナードは、「組織均衡理論」の中で、組織が成立する方程式として「貢献≦誘因」を提唱しました。この方程式では、人が組織に所属するのは、自らの貢献が組織から得られる利益と同等水準、もしくは利益が上回っている場合であることを示しています。

特に貢献できる力がまだ少ない新卒者は、簡単な理由で会社を辞めます。先述したように、就職活動の際に聞いていた情報と入社後の現実に「ギャップやミスマッチがある」と感じれば辞め、また「上司や同僚からのサポートがない」、「職場のコミュニケーションが不充分」と思えば辞めるでしょう。

最近の研究で、離職は複合的な要因で起こることが示唆されています。若手社員は、単純に仕事にやりがいがあれば会社を辞めないわけではありません。また、人間関係が良好であれば会社を辞めないわけでもありません。転職市場の活性化などの「外部環境の変化」や、職場の人間関係や給与水準などの「内部環境の変化」、そして社員自身の自己成長意欲の高まりといった「個人の変化」など、「複合的な要素」が早期離職へとつながっていきます。

このような変化は常に起こっており、全ての離職をコントロールすることは不可能かもしれません。もし社員に辞めてほしくないのならば、外部市場よりも高い賃金に加え、やりがいがあり自己実現できる仕事を与え、さらに職場の人間関係を改善する、といったことを同時に行う必要があります。ただ、こうした取り組みをすぐに行うのは、多くの場合難しいのではないでしょうか。

今回ご紹介したように、離職はある程度、自然現象としても発生します。もちろん改善できる離職は防ぐべきですが、どうしても起こると割り切ったうえで「もう一度、この会社で働きたい」と思ってもらえることが重要ではないでしょうか。

余談ですが、現在多くの大企業が若手異業種交流会を実施してまで、社外の環境に触れさせようと努力しています。しかしそれよりも、一度辞めて「外で成長した社員」を、出戻りでまた採用するほうが、実は有益かもしれません。

これからの時代は、3年たったら外に社員を送り出し、また数年後に戻ってきてもらえるような仕組みをつくることが必要なのではないでしょうか。


【参考】
論文「日本企業における若年者の早期離職―組織コミットメント概念による増加要因の考察―」(野津 創太、2019)
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