ALIVEの3ヵ月間の研修プログラムの最終日に、参加者が「自分がどれだけ成長したか」を自己評価したところ、分析力や理論的思考等、一般的なスキル研修や業務上鍛えられる項目の伸びは下位であることがわかりました。それに対し、通常のスキル研修ではあまり扱われず、業務上も明示的にトレーニングを受けることのない、「自己の特性理解」、「共感力」、「フィードバックの受け取り」、「社会的意義の意識」等、これからの時代にますます不可欠とされる一連のスキルは大きく向上したことを前回の記事で記載しました。今回は、そのスキルの向上に寄与するプログラムについて述べたいと思います。

体験を学びに変えるリフレクションとは

ALIVEの研修における4回のセッションでは「体験を学びに変える」という目的でリフレクションを行います。研修中の自分自身の行動をふりかえり、それをチームメンバーに伝え、チームメンバーからはその人の行動などがどのように見えていたのかについてのフィードバックを受け取る。これを何度も何度もセッション中にくりかえします。このリフレクションでは「ジョハリの窓」の考え方をベースに置いています。

ジョハリの窓をご存知でしょうか? アメリカの心理学者ジョセフ・ルフト氏とハリ・インガム氏が提唱したもので、自己には「公開されている自己(開放)」(openself)と「隠されている自己(秘密)」(hidden self)があるとともに、「自分は知らないが他人は知っている自己(盲点)」(blind self)や「誰にも知られていない自己(未知)」(unknown self)もあるという考え方です。
リフレクションでは、ありのままに、わだかまりなくプロジェクト中の自分自身の心の中を打ち明けていただく自己開示を、ご自身のできる範囲でチームメンバーにしていただきます。これは、自分しか知らない「秘密の領域」にあったものを「開放の領域」にもっていっていただくプロセスです。自己開示をうけた他のチームメンバーは、周囲から見えている世界を伝え、相手の自己認識を拡げるフィードバックを贈ります。このプロセスは、自分が知らない「盲点の領域」にあったものを「開放の領域」にもっていくというもの。ALIVEでのリフレクションでは、このようにして自己開示(秘密→開放)とフィードバック(盲点→開放)を交互にくりかえします。

ちなみに、自己開示を受け取る聴き手には、「正しい/正しくない、いい/悪いではなく、ただその人の自己開示を受け入れる」ことをお願いしています。そして、話し手にお伝えしているのは、自己開示する際に言いにくいことは無理する必要はないということ。ただ、自己開示された側は、好意を受けたときにお返しをしたいという返報性がでてきます。そこで、話し手には、3ヵ月間一緒に走った仲間だからこそ、少し勇気をもった自己開示をお願いしています。

このことを、ALIVEへの派遣を検討されている企業人事の方にお伝えすると、「安全・安心の場でないとできないですよね?」という質問をいただきます。まさしくその通りです。

「聴く」ことからはじまる「安全・安心の場」が「強みや弱みの認識」や「相手への共感」を育む

4回ある1回目のセッションで重点をおいているのは、チームの関係性を構築すること。そこでは、幼少期や青年期のライフストーリーをお互いに話すことを中心にすすめています。私たちは何を話すかよりも、どう聴くかを参加者のみなさんに大切にしていただいています。人の話をきいているときには、「自分はこうだったと自分のストーリーを思い出す」、「どうすべきか論理的に諭す」、「それは違うだろうと非難する」といった評価や判断になりがちです。そうではなく、その人の感情に寄り添って、その人の「らしさ」に着目し、じっくりと味わうような聴き方を参加者にお願いしています。そして、ライフストーリーを聴いたご自身が感じた「その人らしさ」を話し手に伝える。こういったプロセスを丁寧に繰り返します。

この聴き方は、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャース氏が提唱した「アクティブリスニング」といわれるコミュニケーション技法です。つまり、相手の立場になって話を聴く「共感的理解(empathic understanding)」と、善悪や好き嫌いといった評価をせず、肯定的な関心を持ちながら話を聴く「無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)」を聴き手にお願いしていることになります。

この技法は私が個人の方に提供しているパーソナルコーチングの前提になっているものと同様です。聴き手が話し手に集中し、話し手の発する言葉に興味をもち共感する。このような関わり方をされた話し手は、自分が聴き手に受け入れられたと感じ、不安から解放される。そして、安心して自分という存在に目を向け、自分の内面を吐露する。コーチングではこの流れを基本として進めています。

参加者のみなさんにはその技法について全く説明しておりませんが、知らず知らずのうちに普段とは違う聴き方をし、そして普段とは違う聴かれ方を体験します。そして、いつの間にか自分自身の話をしはじめる。

参加者の方からは度々「さっきであったばかりの人に、普段話さないようなことを話していました」という感想をいただきます。まさしく前述した体験をされていたのだと思います。ちなみに、初回セッションのときだけでなく、リフレクションの際もこの「共感的理解」と「無条件の肯定的配慮」を参加者には常にお願いをしてセッションを進めています。

ある参加者かはらALIVEでの経験を語っていただいた際に、リフレクションについて以下のようなコメントをいただきました。

「リフレクションにより、私の考え込んでしまう癖をメンバーが指摘してくれたことで、自分自身の弱み(Problem)を自覚し、改善するきっかけを得ることができました。答申先への提案は採択されずに悔しい結果でしたが、本音で話しあえるこのチームで取り組めて本当によかったと感じました。(中略)本音で共有しあうリフレクションは、自己肯定感を高め、お互いの関係性をより深めることができるので、ぜひ活用していきたいです。」

この方は、チームメンバーからフィードバックで「盲点の領域」にあった癖が「開放の領域」にいくことで改善するきっかけを得ています。そして、自己肯定感を高めお互いの関係性をより深めることができました。このことから、自己開示に対して共感的理解と無条件の肯定的配慮で聴いてもらい、「分かってもらえた」、「肯定された」という体験をされたのではないでしょうか。ちなみに、ALIVEの参加者からはこの方のように、「自分の強みや弱みを知った」、「一生のご縁を頂いた」というような感想もいただくことが多く、リフレクションの体験から、「自己の特性理解」、「共感力」、「フィードバックの受け取り」が向上したと感じた方が多いのではないかと思います。

ALIVEでは全てのセッションでリフレクションを行います。セッションを重ねることにより、より深いリフレクションとなり、そして最後には感極まりながらご自身の想いを伝え、フィードバックを受け取る場面を何度となく見てきました。まさに、自分の言いたいことを言える状況の先にある、自分の内面を自由に探究し開示できる。そんな「安全安心の場」にチームが進化しているという体験を参加者はされているのだと思います。

「人に眠る可能性を呼び起こし、社会の課題を解決する」

ジョハリの窓には開放、秘密、盲点とそして、未知の領域があります。この未知の領域があるということは何を意味しているのでしょうか? 自分もそして他人も知らない、世界中の誰も気づいていない可能性が全ての人には眠っているということを意味しているのではないかと私は考えています。自己開示(秘密→開放)とフィードバック(盲点→開放)をくりかえすことにより、開放の領域が大きくなるとともに未知の領域が小さくなります。それはまさしく、人に眠っている可能性が世の中に出現した瞬間なのかもしれません。ALIVEのコンセプト「人に眠る可能性を呼び起こし、社会の課題を解決する」は、リフレクションを起点にはじまっていきます。
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