マルチタスクが得意な日本人

稲垣:日本のミーティングの仕方も特殊ですか?

Jon:はい。海外のミーティングはアジェンダに沿って、アイデアAについてみんなしゃべっていて、それが終わってからアクションプランを決めて、次はアイテムBについて話します。でも日本人はそうではなくAとBとCを同時に話せる、ちょっと柔らかい印象です。ルールはそこまできちんとしていないですね。日本人は順番に話していなくても、頭の中でつながりを作れます。

稲垣:確かに。それはどういう能力なんですかね。

Jon:日本人はマルチタスキング能力が高いと思います。例えば子供の面倒を見ながら料理を作るお母さんですね。仕事場でも自分の仕事をやりながら、隣の上司が電話で話している内容を聞いて、この資料が必要だろうなとさっと差し出す。すごいですね。そもそも海外だとパーテーションがあってヘッドフォンをつけて集中します。なぜならマルチタスキングをすると頭脳に毎回違うデータをアップロードしなくてはならず処理が遅くなるからですね。日本人は効率が悪くてもチームワークのほうが大事だから、オープンプランのオフィスで自分の仕事だけではなく、周りを気遣いながら仕事を進める。結果残業がどうしても多くなるんですね。

稲垣:効率よりも助け合いだと。

Jon:ある意味では仕事は遅くなりますね。その代わりに報告しなくてもお互いが何やっているか分かりますね。

稲垣:日本の時間当たり労働生産性は、47.9ドルで、OECD加盟37カ国中21位と非常に低いです。

Jon:確かにマルチタスクをやるので時間あたりの労働生産性は低いかもしれませんが、常に情報を共有・収集していますから、新しく何かをする時はスムーズにチームプレーができると思うんですよね。その効率は良いと思います。

日本の課題は「意思決定の遅さ」と「クリティカルシンキング」

稲垣:日本の課題は何でしょうか。

Jon:その1つは「意思決定の遅さ」だと思います。

稲垣:なぜ意思決定が遅くなるんでしょう。

Jon:まずマネージャー達が一人で決められないからです。リスクを避けるんですね。日系企業はリスクを管理するというより避けるんです。先に事例はありませんかという感じで自分で初めての事をやろうとしない。時間のかかる根回しをしようとする。そうすると時間がかかってチャンスを失っちゃうんですね。日系企業で意思決定が速いのはオーナー社長の企業ですね。アジア中のファミリービジネスみたいな感じで意思決定が早いんです。ミーティングは意思決定のために行う。海外ではそれが当たり前ですが、日本人のミーティングは情報共有のためです。

稲垣:確かにリスクを恐れて決めることができない人が多いと思います。他にはありますか?

Jon:「クリティカルシンキング(批判的思考)」ですね。日本人はプロセスを大事にして、価値を大事にして、人間関係を大事にする。それだと大きな変化は起こりづらいんですね。海外では、相手の意見を聞いて私は反対の意見を言う。クリティカルに考える。そのあと議論して今までになかったアイデアを一緒にその場で作って意思決定して変化が起こる。これを学校の段階で学ぶんですね。

稲垣:確かにディスカッションやディベートの授業というのは学校にはなかったですね。

Jon:私たちは小学校のころからやっていました。例えばバルーンディベートといって空を飛ぶバルーンのバスケットに人間が入っているんだけど、空気が足りなくて海に沈んじゃうから、1人1人人間を外に捨てなきゃならない。誰を先にするか、そういうディベートを小さいころからやるんです。歴史の試験も何年に何が起こったというのは覚えなくてよくて、歴史的な書類を2つ比較して実際に何が起こったんだろうと判断しなさいとか、そういう教育なんですよね。

稲垣:覚えるのではなく考えさせる教育ですよね。

Jon:大学の試験では、図書館を好きに使っていい48時間の試験とかもありましたよ。

稲垣:そっちのほうがリアルですよね。仕事をしているときは、やる気があればいくらでも調べられますから。

データドリブンな意思決定が日本の組織を強くする

稲垣:J-GLOBALは海外の日系企業のコンサルティングも多く取り組まれていますが、成功している日系企業の特徴はありますか?

Jon:例えばアジアに展開しているある機械メーカーにいいケーススタディがあります。その会社は、日本のチームプレーを外国人に教えて現地の皆さんになるべく意思決定を任せて成功しています。つまり「ローカライズリーダーシップ」。そうすると日本の改善スキルを持っているローカルの皆さんとワンチームになれる。日本からの中央集権ではなく、グローバルスピードをうまく使うといいと思うんですね。外国人に日本の働き方を教え、現地に任せる企業は成功すると思うんです。「暗黙知」、「助け合い」、「ジョブローテーション」、「お客様重視」、「社会貢献」。NETFLIXしかり、そういう日本の良さを吸収する企業が海外で成功していくだろうと思います。

そして皮肉にも今新型コロナウイルス (COVID-19) がいい影響を与えている側面もあります。皆さんがクラウドソリューションを使い始めたので、日本の組織は強くなる気がします。本当に日本と海外のギャップがなくなって、徹底的に情報共有するオンラインシステムになって大きくパフォーマンスが変わると思います。日本人は経験で決めますね。データではなく経験。人間関係を大事にしているので、ほかの部署に迷惑をかけないようにとか、誰がそれに対してどう思っているかとか、そういう付き合いが必要なんですね。クラウドソリューションが中心のコミュニケーションになっていったときには、データがより重視される。データで決めると意思決定が速くなると思います。

稲垣:日本人は人間関係で決めるから、「彼はどう思っているの」とか「あの人はどうなの、直接会って話そう」みたいな確認が増えて時間がかかってしまうということですね。それがクラウドに置き換わって、データドリブンな意思決定になっていくということですね。日本を内外から見ているJonならではの、日本の強みや課題を認識できました。ありがとうございました。

対談を終えて

失われた30年といわれ日本経済の停滞は長く続いている。私の世代以下は「経済で強い日本」を知らない。グローバルHRの勉強材料は欧米中心のケーススタディばかりだ。しかし、本当は日本ならではの強さや失ってはいけない価値があるのは間違いない。NETFLIXの成功事例にも従来の日本の強みがあった。Jonは、日本の働く文化に対して課題を指摘しつつも、多くの部分では肯定的だ。今一度自分たちの強みを再確認し、日本人ならではの組織マネジメントを見出したいと思った。
取材協力:Jonathan Lynchさん
コンサルタント(国際ビジネス・異文化コミュニケーション専門)
英国出身国。英国ブリストル大学卒(英文学と哲学専攻)。1990年に来日後、1991年に株式会社インテック・ジャパン社(現社名:株式会社リンクグローバルソリューション)に入社。1994年からはマネージャーとして国際ビジネス・コミュニケーション・スキルの指導に当たる。1997年から東京理科大学で英文ビジネスライティング等の講師業も続ける。2010年に「コラボレーション・コンサルティング」やデータに基づくマーケティングソリューションを提供する株式会社J-Globalを設立。
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