日本に来た外国籍人材、もしくは海外の日系企業で働く外国籍人材の多くは、「日本企業の働き方」に戸惑いを覚える。遅刻や納期に関する「時間の意識」、職場のルールや社内規則に関する「ルール遵守の意識」など、日本人にとっては当たり前とされている事が、常識の異なる外国の人たちから見ると、特殊に見えるのだ。文化は「ただの違い」であり優劣は無いが、様々な文化の集合体が組織風土を作り、それが「自社独自の強み」や「会社が硬直化する課題」につながる。
第48話:日本の職場文化と国際比較調査 ~外国籍人材の離職防止のために日本企業がすべきこととは~
いずれにせよ、日本は特殊な文化を持つ国であるが、それは他国の文化と比べてどれほどの違いがあるのであろうか。CQ(異文化適応力)を研究する弊社は、「職場における仕事観・倫理観」というテーマで、社会心理学のモデルを用い、職場で日々起きる出来事に対する受け止め方の違いを明らかにする国際比較調査を実施した。社会人経験のある外国人・日本人を対象に、2023年6月に調査をおこない、最終的に1,407名の回答を得た。

今回のコラムは、弊社のCQI研究チームの上崎研究員との対談を通じて、同調査結果を解説する。

日本は「ルール意識」の傾向が強い

稲垣:上崎さん、改めて今回の調査の目的・概要を教えてください。

上崎:今回は、「職場における仕事観と倫理観」に関する国際比較調査を実施しています。調査の主な目的は、日常生活で異なる文化や価値観を経験することがある中で、実際にどのような違いが存在するのかを明らかにすることです。我々はCQI(異文化適応力)を使用して異文化適応力を評価していますが、お客さまから、「時間の感覚」や「金銭感覚」など異なる文化間でのさまざまな課題についての相談が寄せられることが多々あったため、実際にこれらの違いを具体的に定量化し、理解することを目指しました。例えば、日本の職場環境でどの部分に適応力を発揮させる必要があるのかの特定や、どんな点が違っているのか、価値観の違いがどのように摩擦を生むのかといったことについても深く掘り下げて調査しました。

稲垣:具体的にはどのような聞き方をされたのですか?

上崎:今回使用した「リターン・ポテンシャル・モデル」は、特定の出来事に対する、ポジティブまたはネガティブな感情の度合いを測定するものです。このモデルを使用して、特定の文化グループ、つまり“国籍”や“宗教”に焦点を当て、「人々が特定の行動や出来事をどのように評価するか」を可視化します。この手法では、一つの出来事に対して7つの評価基準があり、それぞれの基準について「ポジティブ」、「普通」、「ネガティブ」のいずれかの評価を7段階で行った上で、それらの平均点をグラフに表現します。これにより、リターン・ポテンシャル・モデルと呼ばれるグラフが生成されます。

稲垣:国籍や属性はどのようになったのでしょうか。

上崎:今回、パートナー企業の皆さまのご協力により、全部で48ヵ国1,407名の回答を得ています。その中で、回答人数の多かった日本、中国、韓国、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、アメリカの7ヵ国に絞ってデータ分析を行いました。
RPM資料の見方の例
稲垣:実際に、どのような結果になりましたか?

上崎:では、サマリーを見ながらお伝えしていければと思います。今回の調査レポートの最も大きな発見になるのですが、7ヵ国の皆さんがルールに対してどう思っているかを比較した結果、「規範」が一番強い国は日本であることが分かりました。要するに、「ルールを守らなければいけない」という感覚が強いということです。特に『会議の時間の延長』、『誤字脱字の数』、『ルールの不遵守』、『早期離職』の4つについては、日本が7ヵ国の中で最も許容範囲が狭く、すぐネガティブ評価になっていく。そういった結果が見られています。

“時間感覚”には厳しい一方、「集団同調圧力で会議を延長する」といった特徴も

稲垣:ではこの4つの結果を見ていきましょう。

上崎:そうですね。まず『会議の時間の延長』についてですが、これは「参加している会議の議論が白熱して延長した時にどう感じるか」という質問です。実は調査前には、日本人がポジティブに出るか、ネガティブに出るか想定しづらかったんです。日本人は時間に厳格でありながら、会議の時間を延長することが多いと海外の人々からよく指摘されます。したがって、日本人と海外の人々の反応の違いを明らかにすることが目的でした。

結論として、日本人とアメリカ人が『会議時間の延長』に対して最も厳格な姿勢を持っていることが示されました。グラフを見ると、10分から15分の間に2本線があるのですが、これが日本とアメリカで、約12~13分で「普通」の評価を下回っていることがわかります。会議が12~13分以上延長されると、ネガティブな評価に変わるということですね。一方、中国と韓国は15分くらいまで許容範囲があり、インドネシア、フィリピン、ミャンマーでは30分くらいでようやく評価がネガティブに変わります。つまり、会議の時間延長に対する許容範囲は、日本とアメリカが最も狭く、他の国々と比べて厳格であるという結論が得られました。
会議時間
稲垣:ありがとうございます。私の感覚ではとても共感できます。私はインドネシアに3年ほど住んでいましたが、インドネシア人は日本人と比較すると時間の意識が弱いため、ゆったりと長く会議をします。日本人は10分単位で予定を入れるため、きっちりスケジュール管理をするイメージです。そのあたりが結果に出ていることが、日本の特徴だなと思います。一方、「日本人は会議を延長する」という一般論はどう捉えますか?

上崎日本には集団同調圧力があるので、みんなが参加していたら仕方なく参加しますよね。基本的に時間に対しては厳しく、早く終わってほしいと考えているものの、「みんな参加しているから仕方ない」というのが、日本人の心理面に起こる変化かなと思います。そのため、アメリカ人と日本人がどちらも時間に厳しいと出ましたが、日本人は会議を打ち切るところまではやらない一方、アメリカ人は途中で退出したり、「もう終えましょう」という話をすると思うんですよね。

日本で働く外国籍人材は「ケアレスミス」に気を付けるべき

稲垣:なるほど、面白いですね。次に、2つ目の結果はいかがですか?

上崎『誤字脱字』ですね。いわゆる「ケアレスミス」に対する認識が、日本人と海外の人で違うのではないかという仮説から、この設問を入れています。結論としては、これも先ほどの時間と同じような傾向で、日本人とアメリカ人が最も誤字脱字に厳しい。2.5個を超えるとネガティブな評価になっていきます。韓国、中国は少し緩く、3個程度。インドネシア、フィリピン、ミャンマーは3個でもネガティブに振れません。4個手前のところでようやく「普通」になっていきます。この、“ネガティブに振れる”というところがすごく大事です。例えばミスが15個になってくるとさすがに皆さんネガティブになるのですが、5個と10個の時にネガティブな評価への振れ幅に結構差があると思うんですよね。例えば5個以上だと、日本人はマイナス1.5くらいの評価である一方、フィリピンはマイナス1までいきません。ネガティブに感じる度合いが違うということですね。

そのため、外国籍の方が日本で働く時に大事なのは、そもそもケアレスミスをしないことと、「日本人が許容する以上のミスをした場合に非常にネガティブに評価される」と認識することです。これは受け入れの時に苦労されるポイントだと思います。ミスが3個あるケースよりも、5個あるケースのほうが日本においては怖いですね。フィリピンの人なら、「まあまあこれぐらいいいよ」といった優しさがあるところでも、日本人は「なんで5個もあるの?」となると思います。
誤字脱字

職場ルールを“100%守って当たり前”の日本と、“50%でOK”の国

上崎:次は『ルール不遵守』についてです。これは設定として、「ある製造業メーカーの工場で、安全と品質管理のための作業ルールが細かく決まっている」としています。なかには必要性が理解できないルール、昔からずっとあって残っているルールがあって、それを守っている従業員の割合が以下の場合、あなたの母国のビジネスパーソンはどう感じると思うかという質問です。これは特に海外現地法人において、日本人が「ルールを細かく守ってくれ」と言う一方で、現地法人の社員は「そんなに重要じゃないのでは?」という感覚の違いがある場合、納得できないルールでもしっかり守るかどうかというところを見ています。これも日本人はすごく特徴が出たなと思っています。結論として、まず日本人が一番許容範囲が狭いです。100%から80%のラインで一番下のところにあるのが日本の線になりますが、ほかの国、たとえばフィリピンは80%だと1.5から2に近いぐらいの数字があるものの、日本人はもうそこではゼロなんです。

稲垣:これは分かりやすいですね。

上崎:そうですね。日本ではルールを100%守ることが普通。80%を下回った瞬間から日本人はネガティブに感じていきます。日本人からするとここは最低限のラインです。そこから60%に落ちて、さらに40%に落ちていくと、落ち幅が大きいと思います。

稲垣:他の国との差は出ていますか?

上崎:一番分かりやすいのは中国です。中国は反対で、遵守率0%でもそこまでネガティブに感じません。この“ルール遵守に関しての感覚”というのが、日本企業の様々な現場で問題となっていると捉えてよいと思います。

稲垣:これはすごく面白いですね。工場内のルールが10個ある場合、日本では10個守っても当たり前な感じ。一方、フィリピンやインドネシアなどでは、「10個守ったらすごい!」という評価ですね。日本では守るのが当たり前で10個のうち2つ違反したらアウトだが、インドネシア・ミャンマーは5つまでは許される

上崎:文化や考え方の違う方が、「組織内で決められたルールだが、自分には必要ないのでやりません」というマイルールを持ち出すときがありますが、日本人は「組織にはマイルールは持ち込まないでください」という感覚が強く、それが出ていると思います。
ルール順守

日本は「早期転職」を好意的に受け入れない

上崎:最後が『早期離職』ですね。これは、新しい職場に社員が入って、「仕事が面白くないので辞めます」と言うのが早かった時にどう思うかということで、1週間/2週間/1ヵ月/2ヵ月/3ヵ月/半年/1年という選択肢で聞いています。全体では、期間が短ければ短いほどネガティブで、半年から1年くらいで「普通」になってきます。基本的には「半年から1年は頑張ろうよ」という考えが、どの国でも共通であると捉えてよいと思いますが、“早く辞めた時の捉え方”が全然違っていました。この7つの国の中で、日本とインドネシアの人々が最も「1週間で辞めること」をネガティブに捉える傾向があります。1週目こそインドネシアが日本よりも下に位置していますが、その後はずっと日本が最も『早期離職』に対してネガティブな反応を持つ国となっていることが示されています。1ヵ月だろうが、2ヵ月だろうが、3ヵ月だろうが、短期間での離職を好意的に受け入れない傾向があることを示しています。

稲垣:では、転職に対して最も緩い国はどこなのでしょうか。

上崎:今回の調査では中国ですね。中国の人は早期離職や転職をあまり気にしません。また、アメリカも「半年続けばいい」という感じです。
早期離職

日本の考え方やルールを説明することで「理解・共感」は得られる

稲垣:これらの結果を総括して、日本の文化の特徴と、そこから生じる問題や外国籍人材の育成ポイントを教えていただけますか?

上崎:まず、外国籍の人々に対して、「仕事における感覚や倫理感に対する基準が非常に厳格である」という日本人の特徴を明確に伝えることが重要です。例えば「遅刻」に関しても、外国籍の方は5分遅れても気にしないかもしれませんが、日本では5分の遅刻でも評価がネガティブに影響することがあり、10分や15分以上の遅刻になると評価が一層低くなる傾向があります。日本で働く際には、日本の文化や価値観に適応し、適切な行動をとることが求められることを、外国籍の人々に明確に伝えることが重要です。

稲垣:例えばアメリカにおいて、自分の意見を言わない人は評価が低くなることと同じで、その国が大事にする考え方や価値観を知るということですね。

上崎:そうです。それぞれの国で大切にする考え方や価値観が違うため、外国籍人材を育成する際には、日本企業の基準を明確に説明する。「日本企業の安全基準や品質基準がなぜこうなっているのか」、「守らなかった時にどういった事故があるのか」など、ちゃんと背景まで説明してあげる必要があると思います

また、早期離職についても、日本人はネガティブに捉える傾向があるので、「早く離職を決断することよりも、一定の期間頑張ることのほうが重要である」ということも伝える必要があります。つまり、日本人の「キャリア観」や「仕事の向き合い方」の説明ですね。なぜ、入社した企業を2~3週間で見切ることがよしとされないのかを伝えることが必要でしょう。例えば、一生懸命取り組んで初めて仕事の魅力ややりがいを感じることを美徳としている点や、早期離職によって転職活動の面接において“信頼できない人”というレッテルを貼られるデメリットの説明などでしょうか。

稲垣:ありがとうございます。上崎さんには、CQを開発する段階から研究に携わってもらっていますが、今回の調査を実施して何か新たな発見や総括があれば教えてください。

上崎:よく「外国人が離職したが、理由が分からない」というお客さまの声を聞いていたのですが、そこに対して定量データをもとにした明確な答えを出せたなという手応えがあります。「ちゃんと指導しても駄目だ」とか、「何度言ってもやってくれない」と皆さんおっしゃるのですが、では具体的に何ができてないのか。受け入れ側の日本企業の人はやっていると思っている場合でも、実際には外国人社員に伝わっておらず、ズレが起きて離職・転職に至るわけですね。本質的にどこに目を向けるべきなのかを、具体的な部分まで示すことができた、とても手応えのある調査だったと思います。
育成ポイント
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