2020年に突如として現れた新型コロナウイルスの感染拡大で、ビジネス環境は激変した。働き方も変化を余儀なくされ、リモートワークの導入が一気に進んだ。多くの企業が慣れないリモート環境下での人材育成、マネジメントに戸惑い、そのあり方が問いただされている。

しかし、リモート環境の広がりが新たな人材育成、マネジメントの課題を生み出したのではなく、日本企業が抱える人材育成、マネジメントの真の課題があぶり出されたと見るべきではないだろうか。

今回、リーダー・マネージャーのアセスメントや能力開発のリーディングカンパニー、マネジメントサービスセンター(MSC)コンサルタント統括本部 理事の三村修司氏と、日本経済新聞社にて教育事業を手掛ける人材教育事業局 局次長の上杉栄美氏に、コロナ禍によってあぶり出された日本企業が抱える人材育成、マネジメントの真の課題とは何か、その課題解決のためにどうすれば良いか、議論してもらった。


講師


  • 三村 修司氏

    三村 修司氏

    株式会社 マネジメント サービス センター コンサルタント統括本部 理事
    1963年生まれ。官庁系・金融系システムでSEを経験後、1996年MSCに講師として入社。執行役員・取締役を経て、現在は同社理事。年間50社(公共機関を含)近くで、経営者から管理者・若手リーダーまでの各層で人材育成や診断評価に携わる。現場の実態に合わせたカスタマイズと、実践的な能力診断や率直なフィードバックが定評。クライアントは、
    メーカー・金融・エネルギー・鉄道・IT・マスコミ・教育(大学等)・官公庁と幅広い。
    DDI認定ファシリテーター、キャリアコンサルタント

  • 上杉 栄美氏

    上杉 栄美氏

    株式会社 日本経済新聞社 人材教育事業局 局次長
    事業局でビジネスパーソン向けのセミナー企画、講演会、表彰事業、広報イベントを担当。2000年8月から2001年3月まで出産・育児休業を取得。復職後は日経ビジネススクールオンライン講座(e-learning)の立ち上げに参画。
    2009年、日経の記者経験者が講師を務める育成プログラム「日経 経済知力研修」を開発。2014年、ウィルソン・ラーニング・ワールドワイドに出向し、HRD第一事業本部営業部長。
    2015年、人材・教育事業局研修事業部長を経て2018年より現職。公開セミナー、e-learning、企業(カスタマイズド)研修、アセスメントサービス(日経TEST、Versant)、グローバルリーダーシッププログラムなどの法人企業向けソリューションを統括する。
    (一財)生涯学習開発財団認定コーチ、DiSC(C)認定コンサルタント
日本経済新聞社上杉様 MSC 三村様

コロナ禍であぶり出された人材と組織の課題

MSC三村様
三村氏:日本経済新聞社はメディア企業として教育事業に力を入れておられますが、どのようなことを行っているのか、まずはご紹介いただけますか。また、報道機関である新聞社が、人材教育に力を入れる理由もお聞かせください。

上杉氏:人材教育事業局は、「グローバルにビジネスを推進し、社会に変革と活力をもたらす人材を育成すること」をミッションに、日経ビジネススクールというブランドで様々な研修サービスを提供しています。

当社は日々報道機関として最新のニュースを追いかけ、分析し、記事としてアウトプットしています。その情報を読者のみなさまは自社の経営戦略や事業計画の策定、マーケティングのヒントとしてご活用いただいていると思っています。

一方、私たちは教育事業を担っているので、記事を書くわけではありません。企業の人材育成に携わるHRのご担当の方に、メディアとして入手した情報を教材として再加工したものを研修として利活用いただいたり、人材育成や能力開発の分野でのビジネスの外部環境の変化や、人と組織をめぐる課題を発信したりしています。

さらに、公開セミナーやeラーニング、企業研修や会員制の研究会の提供により企業の人と組織をめぐる課題解決の一翼を担っています。少々話は飛んでしまいますが、当社のミッションは「時代の変化を先取りしながら経済的・文化的それぞれに豊かさを求める人々のため、徹底した実証主義に基づいた価値ある情報を提供し続ける」ことです。

これに呼応し、編集局は報道コンテンツを発信し、教育事業は教育・育成ソリューションの形で価値提供をしています。このため、それぞれが日本経済新聞社のミッションに応じた事業を展開していることから、メディア事業も教育事業も同じ理念に基づいた事業ととらえています。

三村氏:なるほど。上杉さんたちが洗練された人材育成の素材を提供していただくお立場であれば、私たちマネジメントサービスセンターは、その素材を日々の業務の中で上手く活用するために必要なスキルや考え方を、お客様に提供していくことが役割であると言えるでしょう。
 
私どもは、これまで多くの企業のリーダーや管理職、及びその候補者の方の能力診断(アセスメント)や能力開発に携わってきました。具体的には、組織で活躍する方に求められる能力(コンピテンシー)を見極めるとともに、各種スキルの醸成に向けたトレーニングやコンサルティングを通じて、適切な人材の採用・活用・育成に寄与してきました。また、グローバルに人材コンサルティングを展開するDDI社(本社・米国)とも長年提携することで、国内外に通じるタレントマネジメントのソリューションを提供しています。

上杉氏:そうですね、マネジメントサービスセンターさんのプログラムは当社の若手社員研修でも利用させていただいています。とても練られたインストラクションデザインで安心感があります。

ところで、当社が最も重要視する「経済の発展」は人材なくして語れません。現在は、高度経済成長期のころと比べてビジネスがとても難しくなっています。既存の商品をマイナーチェンジする、価格を工夫する、選択のバリエーションを増やすといった「強み伝い(づたい)」ではなかなかビジネスが成功しません。非連続で革新的な、新しいマーケットを創出できる人を育て、事業に変革を起こす必要に迫られていると言えます。

1を10にすることは得意な人が多いかもしれませんが、いわゆる「ゼロイチ人材≒変革人材」の育成が企業のみなさまの課題としてあがっていると強く感じます。

三村氏:おっしゃる通りですね。2020年を振り返ってみると、新型コロナウイルスの影響で企業のビジネススタイルは急速に変化し、組織やマネジメントの変革に迫られました。但し、多くの企業で以前からデジタル化の促進や多様な働き方を求める声は大きく、時代の流れに合った機能的な組織の仕組みを整える必要性はずっと叫ばれていました。

それがコロナ禍になり、錯綜する事態を切り抜けるため強力なリーダーの存在が、より強く求められていると言えます。しかし、適性のある人材が思うように育っていない現状や、組織運営上の阻害要因が明るみになっているようです。

上杉氏:同感です。リモートワークによる柔軟な働き方、それに伴う新しいリーダーシップスタイルの必要性やエンゲージメント醸成といった組織課題は、もう何年も前から言われてきたことで特段新しいイシューとは思えません。

ですが、コロナ禍で極めて短期間でリモートワークが進み、働く仲間が常に目の前にいるわけではない環境の変化に放り込まれたことで、あらためて人材や組織の課題が一挙にあぶり出されてきたんですね。

1年に及ぶインバスケット研修を受けているような感覚

日本経済新聞社上杉様
上杉氏:私の経験で言うと、ここ1年間ずっと、時間的な制限がある中で様々な問題を処理するインバスケット研修(一定時間内に設定された業務を処理するマネジメント演習)を受けているような感覚でしたね。状況は常に変化し、朝令暮改も当たり前。自分もメンバーも強いストレスにさらされるため、人間の「素」の部分も見えてきました。

これまで指示待ちで、地味な存在と思われていた人が大胆な発想で高い能力を発揮し、頭角を現す一方、ハイパフォーマーだと思っていた人が既存のルールを変えることを躊躇し、ビジネスのタイミングを逃したこともありました。また、リモート環境になり、誰が何をやっているか、アウトプットの質と量にフォーカスして評価した結果、普段は見えづらかった仕事の取り組みの具体までもあぶり出されました。

この後、「人材が育たない組織の真の問題」をはじめ、「日本企業に合った人材育成やマネジメントの制度・仕組みづくり」「コロナによって変化していく、求められるリーダー・マネージャーの役割」など気になる話が続きます。続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。

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