去る2020年12月3日、「『Z世代の個人力を育むには?』【HRCreative Fes】次世代の人材育成の最適解を探究する」と題したオンラインイベントが行われた。HRCreative Fesとは、Original Point株式会社と株式会社俺が主催する、人材育成をテーマにしたイベントのこと。今回はまず、若い世代の育成に造詣が深いOriginal Point株式会社 代表取締役の高橋 政成 氏、元笑い芸人という異色の経歴を持ち、現在は株式会社俺の代表取締役を務める中北 朋宏 氏、ライオン株式会社 ビジネス開発センター統括部で新規事業の提案制度を取り扱う猪谷 祐貴 氏の3名が、それぞれZ世代に対する知見を語った。そして、締めくくりには元・日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員で『個人力』などの著書がある株式会社圓窓 代表取締役 澤 円 氏が登壇し、上の世代がZ世代に対して恣意的な見方をすることに警鐘を鳴らすなどした。

冒頭、高橋氏が「人材育成に絶対解はなく、あるのは最適解です。働き方や価値観が変化している今、これからの人材育成を共に考えましょう」と挨拶。Z世代とのコミュニケーションに悩む人事や上司陣に対して、参考になるアドバイスが数多く展開される、非常に中身が濃い3時間となった。以下、高橋氏、中北氏、猪谷氏、澤氏の講演内容をお伝えする。

講師


  • 高橋 政成 氏

    高橋 政成 氏

    Original Point株式会社 代表取締役

    2010年人事コンサルティング会社へ入社。研修プログラム開発、コンサルティング営業として、100社以上の人材育成に携わる。トップセールスを達成した後、最年少マネージャーへ昇格。2016年「やりたいをカタチにできる社会」を目指し、大学と企業向にキャリア開発支援を行うOriginal Point株式会社を設立。現在は動画メディア“ハタチのトビラ”の運営やキャリアを軸に研究活動も行う。


  • 中北 朋宏 氏

    中北 朋宏 氏

    株式会社俺 代表取締役

    浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年活動する。その後、人事コンサルティング会社やスタートアップの人事責任者を経験した後、2018年株式会社俺を設立。“夢諦めたけど人生諦めていない人のために”をコンセプトに、お笑い芸人の転職支援「芸人ネクスト」や笑いの力で組織を変える「コメディケーション」を展開し、笑いのコンサルタントとして活躍中。メディアにも多数出演。著書に『「ウケる」は最強のビジネススキルである』がある。


  • 猪谷 祐貴 氏

    猪谷 祐貴 氏

    ライオン株式会社 ビジネス開発センター統括部

    2013年、ライオン株式会社入社。オーラルケア研究所にて歯ブラシ、および歯磨剤の開発を担当し、NONIO歯磨の開発を主導。2018年イノベーションラボの立ち上げメンバーとして参画し、口臭リスクを見える化するアプリ開発のサービスデザインを主導。


  • 澤 円 氏

    澤 円 氏

    株式会社圓窓 代表取締役

    元・日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員で技術営業の業務執行役員を2020年8月まで務めた。現在は、スタートアップ企業の顧問やオンラインサロン運営など、複業のロールモデルとして情報発信している。


Z世代の育成に悩む上司に、4名の個性派講師がイベントで“最適解”を提案。鍵は「自己開示」と「世代を言い訳にしない」こと

Z世代と接するときに効果的な「内的キャリア開発支援」とは

高橋 政成 氏(Original Point株式会社 代表取締役)
【講演1】テーマ:Z世代のキャリア観を紐解く
高橋 政成 氏(Original Point株式会社 代表取締役)


まず本日のテーマ「Z世代」について、当社で行った調査結果をもとに、特徴やキャリア観をご紹介します。Z世代とは1995年以降に生まれた人の総称で、特徴として、小型あるいはウェアラブルデバイスと身近に接しており、ビデオやスタンプといったビジュアルでのコミュニケーションを好むことなどが挙げられます。キャリア観は、「会社のために尽くす」というよりは「自分のしたいことをより大切にする」、「シームレスな移動(転職)に抵抗がない」など、これまでの世代とは異なる傾向があるとされています。

キャリア観についてさらに詳しくご紹介すると、当社が行った調査では、「現状勤めている会社に満足しているが、長く勤める気持ちはない」という傾向が見られました。また、「仕事を通じて何を実現したいか」との問いには、「自分の人生の目標」と合わせて、「顧客や社会への貢献」という答えも多かったです。反面、「仕事を通じて貢献実感ややりがいは得られていない」との回答が目立つ結果ともなっています。そして、約半数が「希望通りの仕事をしていない」と答えました。

放っておけばどこかへ行ってしまいそうなZ世代に、上司たちはどう接すればいいか。ひとつの最適解を紹介すると、上司が若手に対して「内的キャリア開発支援」を行うことが挙げられます。内的キャリア開発支援とは、上司が自らのキャリア観を語るのと同時に、若手のキャリア観に耳を傾けることです。当社が調査したところ、内的キャリア開発支援を受けた新入社員は、現在の職場に前向きな気持ちで順応している傾向が見られました。また、社内に自身のロールモデルとなる先輩社員がいると、キャリア満足度が高くなることもわかっています。ロールモデルの働きぶりを動画コンテンツにするなどして可視化し、研修で見せることも有効です。

その他、Z世代にはどのようなアプローチが有効でしょうか。ポイントとなるのが「権利と義務」のバランスです。最近の風潮は、ともすれば自身のキャリアを充実させることばかりに重きを置きがちです。しかし、会社組織に所属する以上は仕事に対して責任が発生し、対価を得るための価値を生み出す義務が生じます。権利と義務のバランスを整えるために、現状の仕事について「興味を持って取り組めるマイテーマを設定する」というものがあります。数年後の理想を描くといったアプローチがまだまだ主流ですが、変化の激しい昨今においては、多くが絵に描いた餅に終わります。現在の環境の中で、自分なりのマイテーマを暫定的に見つけ、業務での意味づけを行う。こうすることで、Z世代の仕事に対する姿勢も変わってくるはずです。参考にしていただければ幸いです。

Z世代とのコミュニケーションの分断を打開するのは「イジられる力」と「返しの技術」

中北 朋宏 氏(株式会社俺 代表取締役)
【講演2】テーマ:笑いの力という要件定義
中北 朋宏 氏(株式会社俺 代表取締役)


私は元芸人ということで、「笑い」をひとつのテーマとして企業研修などを行っています。笑いの効果はあちこちで言われており、例えば「ハーバードビジネスレビュー」は、「エンゲージメントや幸福感を向上させる」、「創造性を高め、協力を促すうえ、分析の精密さや生産性の向上をもたらす」などと紹介しました。ぜひ日々の業務の中でも、笑うことを意識していただければ思います。

笑いの効果を活用しながら、より良い職場環境、若手も含めた全員がパフォーマンスを発揮しやすい環境を構築してほしいと思いますが、職場では今「ある問題」が起こっていると感じています。それは上の世代と若い世代とのコミュニケーションの分断です。

こうした状況を打開するため、私たち上の世代に必要なのは、若い世代から「イジられる力」だと考えています。これは「懐に入られる力」と言い換えることもできます。この力を身につけるために、重要なことがふたつあります。

ひとつは過去の失敗をオープンにすること、つまり自己開示です。若い世代から見ると、上の世代には近づきがたい雰囲気があり、中には「完璧に見えてしまう」という声もあります。しかし、上の世代も失敗したことがあり、コンプレックスもあるでしょう。それらをオープンにすることで、若手も親近感を覚えて距離が縮まります。

もうひとつは「返しの技術」。「返し」はお笑いのスキルのひとつで、言われた言葉に対して巧みな受け答えをし、笑いを生み出す力です。上の世代は、例えば若い世代から相談や報告を受けた時、強い言葉で返してしまいがちです。そうするとネガティブな印象を与えてしまい、距離を置かれます。それを避けるため、ちょっと笑いがあるような返しをすることを心がけてください。結果、相手にポジティブな印象を与えて心理的安全性が担保され、ひいては職場の雰囲気も変わっていくはずです。

そして、今回のイベントのテーマに「変化が激しい時代に、どんな環境でも突破できる“個人力”を育む」がありますので、最後に当社が考える「個人力」とリーダー像について述べさせていただきます。今までは、「旗を持ち、人を巻き込んでいく」のがリーダーでした。しかし、これからは「変化を面白がりながら旗を刺し、人から助けてもらう力」が大切になると考えています。でこぼこでもいい。さまざまなコミュニティと関係を構築し、助け合いながら前に進んでいく。そんな姿がこれからのリーダー像であり、個人力ではないでしょうか。

以上、本日お伝えしたことをひとつでもふたでも持ち帰り、最適解を見つけるヒントにしていただければと思います。

個人力が高いZ世代こそ「企業変革」の中心に据えるべきだ

猪谷 祐貴 氏(ライオン株式会社 ビジネス開発センター統括部)
【講演3】テーマ:新規事業を生み出す個人力
猪谷 祐貴 氏(ライオン株式会社 ビジネス開発センター統括部)


私は、社内で新規事業の提案制度を取り扱う部署にいます。よくある制度ですが、応募は個人に限定しており、あくまでも強い意志とパッションを持つ人を対象に、事業化に向けて共に推進していくプログラムを行っています。毎年、若手から多くの応募があり、優れた結果を残しています。今年は47件の応募のうち、6件が新入社員、そして一次審査を通過した8件のうち3件が新入社員、さらには最終的に選ばれたのも新入社員でした。

このように、Z世代からは非常に高い個人力を感じます。個人力を「視座の高さ」と「多動性」だと定義すると、若い世代は上の世代に比べ、社会や世界のことを非常によく観察していて、洞察力にも優れています。また、本業だけでは飽き足らず、社内外での課外活動にも積極的です。もちろん、上の世代にも視座の高さと多動性を持つ人はいます。しかし、割合でいうと、若い世代が圧倒的に多いのではないでしょうか。

私は、新規事業は個人力がないと生まれないと考えています。このため、「若い世代」と「企業変革」は相性がいいのではないかと見ています。実際、当社にも経営陣に承認を得た上で、組織風土を変える活動を進めている入社2年目の社員がいます。しかも、その多くを業務時間外に行っており、ものすごいエネルギー量を発揮しています。

ここで、講演1でも出ていた「権利と義務」の話をしましょう。確かにZ世代は権利主張をしがちです。しかし、それはエネルギーがある証拠とも言えます。上の世代は、下の世代の声に耳を傾けながら、そのエネルギーを上手に活かすのがひとつの方策となります。若い世代に、良い意味で「自分が会社を動かしている」と勘違いさせ、企業変革に向けて動いてもらいましょう。対して上の世代は、権利と義務で言うと、どちらかといえば義務を重視しがちです。しかし、知恵や経験、人脈はあるのだから、若い世代にそれを貸してやる。ブレーンや、時にはやっかみを言ってくる人から守るガードマンとして、役割を果たすのが適切ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、時代に適応した個人力を持つZ世代こそ、企業変革の中心に据えるべきです。上の世代と下の世代の力が噛み合うことで、会社はもっと強くなり、活動的でいい場所になると私は信じています。ぜひ力を合わせていきましょう。

「○○世代」と十把一絡げにするのは個人の意図や意識を...

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