DX人材が「活躍」するための条件

本連載の第2回で書いたように、あの松下幸之助を活かすことができなかったのが、日本企業の「変化を嫌う体質」の実態だった(連載第2回「イノベーティブ人材をいかに社内から選び出し育成するか【前編】」参照)。経営方針に従って全社員が同じ方向へ走ることで成果を最大化する「高度成長期の成功パターン」に、まだまだ現場レベルでは縛られている。しかし、その中にもイノベーションを成功させる企業は存在している。そこにはどんな秘訣が隠されているのだろうか?

【DXビジネスチームを組織する】
当たり前の話だが、「DX人材が活躍する」といっても、職場が「DXのビジネス領域」でなければ意味がない。しかし、現実には、組織の中に「DX専門のビジネスチーム」でも作っていない限り、新たなDXビジネスに専門的に取り組むことは難しい。裏を返せば、第一に「DX推進組織やDXビジネスチームを組織すること」が、DX人材が活躍する一番の近道なのである。

かつて筆者も新たな組織作りに関わったことがある。組織ができあがると、不思議と魂を得て機能しはじめるものだ。このような意味でもDX人材のモチベーションが高いうちに、組織を機能させることは重要である。

ここで忘れてはならないのは、DX人材をはじめとするイノベーティブな人材は、「自由」でいなければいけないこと、そして、拘束を嫌う傾向があるということだ。「自由な発想」を遺憾なく発揮するためには指示に縛られてはいけない、というわけである。とはいえ、イノベーティブ人材であっても何もかもを自由にしてよいわけではないので、勘違いさせてはいけない。あくまでも、本業に限って自由な発想を活かせるように環境を整えることが重要なのである。

日本人の多くは明確な指示を受けた方が安心できるし、楽だと考えがちだ。自由に考えてほしい場面でも、「指示が不明確」などと言われてしまうことも少なくない。人材育成を担当していると、この「指示待ち」という悪癖を骨身に沁みて感じる。「新規サービス」を考えるワークショップをおこなうとよくわかる。ほとんどのチームから何もアイデアが出てこないというのに、最終的には何かそれらしくまとめて発表する。普段から指示を受けて仕事をしていると、狭い発想の枠から出られなくなるのだ。実は、本人たちも、発表した内容が「新規」と呼ぶには創造性に乏しいことに気付いている。

もちろん、「短時間にアイデアがバンバン出ないからイノベーティブでない」などとは言わない。白いキャンバスだけを渡されても、何も描けない人の方が圧倒的に多数派である。しかし、そのことを理解したうえで「育成計画」を立てることが大切なのである。

【DX人材が自由に考え行動できる環境を作る】
DX人材本人には、自分の発想力を高める環境条件を認識していて欲しいし、できることなら自身が活躍できるステージを自分で作れることが理想である。だが、そのようなスーパーマンのような人物はほとんどいないのが現実だ。イノベーティブな人ほど、組織人であることが苦手な傾向があるので、まずは「心理的安全性が高い環境」を作ることが肝要である。いくつか具体的な環境条件をあげると、下記のようになる。

・失敗が許される
・多様性が大切にされる
・自由に発言できる
・みんなが受容する(批判しない)雰囲気
・人間関係で悩ませない
・事務処理がシンプル
・任せる技術をもつ上司
・リラックスできる環境
・顧客志向のスタッフ組織


これらは、GAFAといった先進企業では当たり前になってきているのだが、日本企業ではまだまだ一部のベンチャー企業でしか実践されていないかもしれない。

【DX人材を支える組織形態を整える】
DX人材は、DXを推進し実現することが役割だ。そのため、それぞれが得意なプロセスをこなすことに集中させなければならない。つまり、プロセスに集中できるようサポートするチーム編成が大切になる。

チームの全員がDX人材というわけではない。DX案件ではないコアビジネスやレガシービジネスを担う人であっても、日常からDX推進者を支えるサポート人材であっても、それぞれの役割を確実に認識して、既存のルールにとらわれず、アジャイル(※)的にDXビジネスに対応できるフォーメーションをもったチーム作りが必要なのである。いくつかポイントをあげると、下記のようになる。

・「DX人材」と「DX人材を支える人材」の明確化
それぞれが自己の役割をきちんと認識しており、そのシナジー効果が最大化されること。

・フラットな組織とシンプルな指揮命令系統
アイデアとは生物である。ヒエラルキーの深さがその新鮮さの障害になり、またイノベーティブ人材のモチベーションにも大きな影響を与えてしまうため、旧態依然とした組織論は避けたい。

・リーダーやマネージャーへの任用
「成果をあげれば任用する」というのがビジネス世界のルールであるが、イノベーティブ人材は、出世や昇給よりも「やりがい」や「達成感」によってモチベーションが上がる場合が少なくない。パターンにはまった報酬システムにとらわれないことが重要である。

※アジャイル:ソフトウェア開発を、従来の設計、製造と工程ごとに開発するのではなく、設計と製造の工程間を、チームで「イテレーション(反復)」というサイクルを回すことで、素早く開発する技法。最近はビジネスの進め方にも、計画フェーズに時間をかけすぎず、走りながら考えることを指して使われる。

【DX推進組織の役割】
DX人材の育成施策は、育成期間が終われば「維持向上モード」に切り替わる。なぜなら、DXの内容は常に変化しており、1回学んだくらいでぼんやりしていると置いていかれてしまうからである。前述のとおり、DX人材の育成期間を過ぎたら、その後の責任は育成担当ではなく、ビジネスを進める組織・DX推進組織の役割へと移る。

残念ながら、人事担当者であろうとも、新たな組織に完璧な人材構成(適材適所)が必ずしもできるわけではない。本人の向き不向きや希望など、パフォーマンスに影響が出る要素はたくさんあり、単純に人事異動すれば片付く問題だけではないからだ。人事担当は、組織のバランスを考えて人材を配置しなければならない。顧客の業種や企業規模はさまざまであり、DXへの取組み姿勢もバラバラだ。これらを考慮に入れて、最もパフォーマンスが高い組織を作りあげること、それがすなわち、DX人材に最も高い成果を上げさせることにつながる。

組織にDX人材を配置した後も彼らのパフォーマンスを向上させるために、人事担当は、育成や環境整備を継続する必要がある。育成後、あるいは育成中に、以下の5つの取り組みも可能な限り実施すべきである。 

(1)ジョブアサインと適正配置
DX人材にDXに関わる業務をきちんとアサインし、その後も引き続きDX業務に取り組めているかを把握する。そして、常に正解を目指さなくてはいけない。

(2)OJTルールの策定
肝心のDX案件が流れてこない場合、DX人材が、必要な案件に、一定期間「実務派遣」する仕組みが必要である。このOJTルールは組織や会社を超える場合もあるだろう。これこそ人事担当がしっかりとグリップして運用しなければならない。

(3)メンタリング
業務に入ってからも悩むことは多く、学びのチャンスはたくさんある。また、ある程度の上位層になったならば、後進の育成を通して「形式知」に変換する。自ら体系化を進めることで、より具体的になり、そのエッセンスは企業の財産となる。

(4)コミュニティ形成
イノベーティブなセンスをたったひとりで磨くことは、なかなか難しいものだ。かといって、コミュニティを主催するだけの発信力があるかどうかは、能力とは別の問題である。コミュニティを作るプラットフォームやフレームについては、効果的に維持・運営するよう、DX推進組織が責任を持たなければならない。

(5)1on1ミーティング
上司や、よりハイレベルなDX人材が、面談を通して本人のキャリア形成を支援する。DX人材は今や重要なキーパーソンであるが、技術資格といった「手に職がある」ような目に見えるスキルにならないことも多い。人材がパフォーマンスを最大限発揮するには、将来に不安があってはいけない。対話によるストレス解消といった「心理的安全性」への効果も期待して実施を組み込んでほしい。

日本企業の古い体質ではDXは推進できない

「DX人材のパフォーマンスを最大化させる組織」や「DXを成功させる組織」とは、規律とルールのかたまりで成り立っている古い体質の日本企業には、なかなか難しい。それどころかDX人材のモチベーションを保つことすらままならない。

コロナ禍の影響によって、企業活動は停滞し、社員の働き方も大きく変化を余儀なくされている。企業が、DXを推進しなければ生き残れない状況になっている中で、組織のあり方から、企業風土まで、確実に変えていかなければ存続はさらに難しくなるだろう。そしてDX人材を育成することと、DXビジネスに合わせて組織のあり方を変えることは、両輪で進めていかなければならない課題なのである。

しかし、現実は、企業の屋台骨を支えているのはまだまだレガシービジネスだ、という会社も少なくない。そのような中でDXを推進するには、建前や理屈ではなく、真に実行できる求心力をもった経営サイドであることが重要だ。なんとなく「DX」というキーワードを連呼するのではなく、レガシービジネスを含めた全社のベクトルをきちんと一方向に定め、思い切ったDXへの方向転換を具体化する事業方針を明確化することが、最適な組織作りのために、まずやるべきことである。
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