「ポートフォリオ」は、業界やシーンによって意味合いと使われ方が異なる用語である。ここでは人事担当者や経営者が接することの多い3つの「ポートフォリオ」、すなわち“クリエイター採用時に見る作品集”、“人事戦略のベースとなる自社の人材情報”、“経営状況を把握するための自社事業関連情報”を中心に、「ポートフォリオ」の内容や活用するメリットなどを解説する。
「ポートフォリオ」とは? 採用・転職、投資やビジネスにおける意味をわかりやすく解説

「ポートフォリオ」とは?

「ポートフォリオ」とは、クリエイターが自身の実績とスキルをアピールするための“作品集”と認識されることが多い用語ではあるものの、それ以外にもさまざまなシーンや現場で使用され、それぞれ異なる意味合いを持つ言葉といえる。

「ポートフォリオ(Portfolio)」の元来の意味は「書類を入れて持ち運ぶためのケース」だ。クリエイターが自分の実績やスキルをアピールしやすいよう、相手や状況に応じてケース内の資料を差し替えたり、あるいはアップデートしたりし、最適・最新の作品集として機能させる、というイメージである。

ただ前述の通り「ポートフォリオ」は、金融、教育、人事関連の戦略・施策、企業経営などさまざまな場面で用いられ、それぞれ意味が違う点には注意が必要だ。

3つの業界・シーンにおける「ポートフォリオ」の違い

まずは、クリエイティブ分野、金融・投資分野、教育分野で用いられる「ポートフォリオ」について、意味の違いを確認しておこう。

●クリエイティブ分野における「ポートフォリオ」

クリエイティブ分野における「ポートフォリオ」は、“自身のアピール用素材集”を意味する。

デザイナー、イラストレーター、カメラマン、建築家、作曲家といったクリエイターが、特定の企業や組織に就職・転職しようと考えたり、あるいは仕事を得たりしようとする場合には、これまで手掛けた作品を提示し、自分をアピールする(売り込む)ことがほとんどである。

用意した“作品集”をもとに、自身の実績、能力、センス、個性や強みを相手に知ってもらうことが「ポートフォリオ」の機能となる。相手企業などが何を求めているかによって「ポートフォリオ」に組み入れる作品は変化する。WEBサイトを開設して自身の作品を公開するクリエイターも多い。クリエイターにとっては履歴書以上に大切なものであり、自身の価値を最大限まで高めるために、その作成・提示には細心の注意と工夫が必要だといえるだろう。

●金融・投資分野における「ポートフォリオ」

金融・投資分野における「ポートフォリオ」は“所有する金融商品のラインナップ”を指す。投資家は運用を目的として各種の金融商品(外貨を含む現金・預金、株式、債券、貴金属や農産物などの先物、不動産……)を保有しており、その内容や組み合わせが「ポートフォリオ」と呼ばれることになる。

大きく儲かるからといって特定の金融商品や銘柄だけに投資していると、戦争や天変地異など予測外の出来事によって市場が大きく動いた際、資産を一気に失ってしまうリスクがある。そのため「複数の金融商品に分散して投資する」、「銘柄を分ける」といったリスクヘッジは欠かせない。「ポートフォリオ」を通じて、資産分散の具合、それぞれの保有数や投資額がわかり、その投資家は安定したリターンを得られているのか、リスクに備えているのかなどが判明する。

●教育分野における「ポートフォリオ」

教育分野における「ポートフォリオ」は“生徒を評価するための資料集”のことである。学生・生徒の能力を総合的に評価するため、学習の過程で作成したレポート、テストの答案、活動の様子を記録した写真・動画などをファイリングしたものが「ポートフォリオ」または「パーソナルポートフォリオ」と呼ばれる。科目ごとのテスト結果(点数)だけでは測れない、生徒個々の総合的な能力や質を評価する方法として、学校教育の現場などで活用されている。

就職・転職・採用における「ポートフォリオ」の重要性

クリエイティブ分野における「ポートフォリオ」は過去作品の“寄せ集め”であってはならない。経験やスキルを相手に理解してもらい、人材としての価値を認識してもらえるよう工夫を凝らし、効果的・印象的な「ポートフォリオ」を作成すべきである。

そのため、ただ完成品を羅列するのではなく、制作の目的や意図、制作へと至った理由・背景、制作過程や制作時の状況、盛り込んだ技術要素などを併記し、仕事への姿勢や進め方、強みなどを確かにアピールできるものへと仕上げることが肝要となる。また、たとえば「自社WEBサイトの構築」を目的として人材を探している企業にWEBデザイナーが応募するケースであれば、同様の仕事を中心に「ポートフォリオ」を構成する、すなわち相手企業や状況に合わせて内容を最適化することが求められる。

企業によっては特定分野のクリエイターを採用するケースもあるだろう。“採用”となれば人事部もノータッチではいられず、履歴書・職務経歴書のほか「ポートフォリオ」を確認する必要が出てくる。次章を参考に「ポートフォリオ」から読み取る要素を検討すべきである。

採用担当者が「ポートフォリオ」から読み取るべきポイントとは?

クリエイティブ職を採用する場合、採用担当者には「ポートフォリオ」からさまざまな要素を読み取り、その人材の価値を評価することが求められる。

●作品の完成度とバリエーション

各作品のクオリティとデザインスキルが最重要であることは言うまでもない。また個性、作品のイメージ・作風、ジャンルの幅やバランスなども確認して「自社で活躍できるレベルと個性を備えているか」を判断しなければならない。

どれだけ技術やセンスが優れていたとしても、自社が求める方向性と合致していないと入社しても十分に活躍できない恐れがある。当然ながら、まずは「いま求めている人材」を明確化したうえで「ポートフォリオ」を評価すべきである。

●成長への期待度・将来性

まだ作品の数もクオリティも十分ではない新卒や経験の浅いクリエイターを採用する場合には、いますぐ仕事を任せられるかどうかではなく、今後の成長に対する期待度・将来性が重要となる。「ポートフォリオ」からは、その仕事に必要とされる基本的なスキルを身につけているか、過去の作品を時系列で見た際に成長を感じられるか、といった点を読み取ることになるだろう。

●自社への志望度・入社意欲

クリエイターが提示する「ポートフォリオ」は、相手企業や状況に合わせて内容が最適化されていなければならない。もしも複数の企業に同じ「ポートフォリオ」を提示している事実があるようなら、とりたてて自社への志望度・入社意欲が高いわけではないと判断できる。自社が求めている人材や仕事内容を求職者と共有したうえで「ポートフォリオ」を確認することが大切である。

●最適なアピールのための情報整理力・論理的思考力

相手企業や状況に合わせて内容を最適化した「ポートフォリオ」を作成するためには、「自分にはどんな仕事が求められているか」、「何をアピールすべきか」を理解しなければならない。また今後仕事を進めるうえでは、「その作品を、どんな目的で、どのように制作したか」を論理的に説明し、相手に納得してもらう作業が必要となる。

こうした能力を見極めるために、作品を整理する手際と全体的な構成力、必要な情報の網羅、制作意図やデザインの論理的な説明力を重視して「ポートフォリオ」をチェックすべきである。

●「ポートフォリオ」そのものを作り上げる際のUIスキル

全体のイメージが統一されているか、ボリュームや製本は適切か、見やすいレイアウトとなっているか、文字の色やフォントの種類・大きさは読みやすいものか、説明文の文言・口調は適切か、といった点に配慮した、いわばユーザーインターフェース(UI)の観点で優れた「ポートフォリオ」であれば、入社後も同様に、相手への配慮のある仕事ぶりを見せてくれると期待できるだろう。

人的資本を可視化する「人材ポートフォリオ」とは

「人材ポートフォリオ」とは、自社内のどこ(部署・部門、場所、ポジション)に、どのような人材(職種、保有スキル、行動特性・思考特性)が、どれくらい(人数)いるかを示したものである、「人的資本経営」への注目度が高まるにつれて「人材ポートフォリオ」の作成を重視する企業が増えてきている。

「人材ポートフォリオ」活用のメリット

「人材ポートフォリオ」の活用は人事施策のベースとなり、下記のような効果を企業人事にもたらしてくれる。

●適切な人材マネジメントを実現できる

社員のスキル、強みや欠点、志望・志向性などを把握できれば、事業戦略や業務内容に合わせた最適な人材配置に取り組める。社員に足りないスキル、自社に足りない人材が明らかとなれば、教育・育成システムの整備や採用戦略の見直しが必要となる。こうした適切な人材マネジメントの実現のためには「人材ポートフォリオ」が不可欠といえる。

●多様なキャリアパスを支援できる

「人材ポートフォリオ」には、自身のキャリアに対する各社員の志向・意向も含まれる。近年では「ワークライフバランスを大切にしたい」など、キャリア観は多様化している。そうした志向に応えるため、適切な異動・配置、学習機会や経験の付与などを企業は心がけなくてはならない。

●モチベーションと生産性が向上する

「人材ポートフォリオ」に基づいて適材適所を実現できれば、当然、業務効率は上がり、成果が出やすくなり、生産性の向上を見込めるはずだ。事業戦略や経営目標の効率的な達成へと近づけるだろう。また自身のスキルを存分に発揮できる配属、希望に沿った部署・業務への配置、キャリア支援などを通じて社員のモチベーションとエンゲージメントは上がり、離職率の低下も期待できる。

●人材および人件費の過不足を可視化し対策を打てる

自社に足りない人材、不足しているスキル、タイプ、レベルを明確にしておくことで、効率的かつ効果的な採用方針・育成方針を打ち出すことができるようになる。逆に「このタイプが多すぎる」という事実があれば、余剰タイプの再配置やリスキリングといった施策に取り組むことになるだろう。

人材に不足・余剰がある場合、スキルに見合わないポジションで働く社員が増え、人件費に“歪み”が生じている恐れがある。短期間だけ必要な人材を正社員として雇用した事実が明らかとなるかもしれない。無期雇用と有期雇用の使い分け、外注、人材の補充や育成など、さまざまな人事施策のベースとなるのが「人材ポートフォリオ」なのである。

経営戦略・経営判断を左右する「事業ポートフォリオ」とは

企業の多くは複数の事業を運営し、複数の商品・サービスを市場に投入している。各事業の資産や売上高、利益といった経営状況を一覧にしたものが「事業ポートフォリオ」だ。「事業ポートフォリオ」によって各事業の安全性、成長率、収益率、シェアなどを確認することができる。それを基に、将来的な見込み、今後注力するべき事業、撤退を検討すべき事業などを判断するわけである。

「事業ポートフォリオ」作成のメリット

「事業ポートフォリオ」には下記のようなメリットや意義があり、企業経営において不可欠なものだといえる。

●スピーディで確かな経営判断が可能となる

個々の事業を単独で見るのではなく、「事業ポートフォリオ」を通じて全社的な経営状況を俯瞰的・総合的に把握することにより、間違いの少ない経営判断をスピーディに下すことが可能となる。

●偏った資産配分や金融危機に対するリスクヘッジを図れる

コロナ渦やウクライナショックといった予測しにくい要因によって、株価、為替レート、エネルギー価格、物価が大きく動いている。こうした出来事や金融危機が自社の事業を直撃すれば、たちまち経営不振に陥ることもありうる。リスクを最小限にとどめるためには「事業ポートフォリオ」を見直し、資産や投資の再配分や財務体質の強化など、リスクヘッジに取り組むべきである。

●事業再編やM&Aに活用する

不採算事業や非効率的事業から撤退するため、他社に当該事業を売却・譲渡するケースがある。逆に他社の事業を取得・継承することもありうる。そうした大きな判断には、社会情勢、市場の動向、そして「事業ポートフォリオ」が拠り所となる。

まとめ

「ポートフォリオ」はシーンによって意味や用法が異なるため、それぞれの適切な使い方を知っておかなければいけない。特に人事担当者が接する機会の多いものは、人材の観点から自社の現状を把握するための「人材ポートフォリオ」だろう。社員のスキルや特性の評価、ジョブの定義、適材適所の配置、不足・余剰人材の洗い出しと対策、採用計画の立案・実行、人材育成、経営戦略・事業戦略と人事戦略の連携など、ありとあらゆる人事の仕事と密接に関係し、人事施策の起点となる「人材ポートフォリオ」は、「人的資本経営」の本格的な取り組みに向けても、早急に手をつけなければならない領域といえる。

設計・実施にかかる工数や費用、分析ミス・分類ミスによる人事施策の失敗、不適切な運用がもたらす社員のモチベーション低下など、「人材ポートフォリオ」の整備・活用にはさまざまな課題とリスクが存在する。これらの問題を避けるためにも、客観的・科学的な根拠をもとに作られたアセスメントや適性検査、それらサービスの提供事業者によるアドバイスやフォローを積極的に利用することを考慮したい。「人材ポートフォリオ」を上手に活用できれば、企業の体質や経営状況を大きく改善することも可能であるはずだ。

よくある質問

●「ポートフォリオ(Portfolio)」とはビジネスでどういう意味?

ビジネスにおける「ポートフォリオ」は、シーンによってさまざまな意味を持つ。クリエイターの就職・転職・採用時においては「自身のアピール用作品集」、人的資本を可視化するため自社の人材情報をまとめた「人材ポートフォリオ」、経営状況を把握するために自社事業の関連情報をまとめた「事業ポートフォリオ」などがある。

●「人材ポートフォリオ」とは何?

「人材ポートフォリオ」とは、自社内のどこ(部署・部門、場所、ポジション)に、どのような人材(職種、保有スキル、行動特性・思考特性)が、どれくらい(人数)いるかを示したもの。人事施策のベースとなり、適切な人材マネジメントや多様なキャリアパスの支援、モチベーションと生産性の向上などに役立つ。

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