日本のお家芸といわれた柔道だが、世界のレベルは上がり、かつてほどの優位性はなくなりつつある。実際、2012年ロンドン・オリンピックで日本男子柔道は史上初の金メダルゼロに終わった。そのどん底の状況のなか、全日本柔道男子監督に就任した井上康生氏。そして、2016年のリオ・オリンピックにおいて、見事1964年の東京オリンピック以来となる「全階級メダル獲得」という快挙を達成されています。文字通り世界で勝つための組織作りを成し遂げた井上氏にその極意をお話しいただきました。

講師

  • 井上 康生 氏

    井上 康生 氏

    東海大学 体育学部武道学科 准教授 / 柔道全日本男子監督

    1978年5月生まれ。宮崎県出身。東海大学付属相模高等学校を経て、東海大学体育学部武道学科卒業。同大学大学院体育学研究科修士課程修了。切れ味鋭い内股を武器に、大内刈、大外刈、背負投げなどを得意とする攻撃型柔道で数々の結果を残した。99、01、03世界選手権100キロ級で優勝。00年シドニーオリンピック100キロ級で金メダルを獲得。01~03年全日本選手権優勝。08年に第一線を退き、09年より2年間、英国に留学。帰国後の11年から全日本強化コーチ、12年11月より全日本男子監督を務める(現在2期目)。東海大学体育学部准教授。

世界で勝つための組織作り

監督就任時に掲げた三つの目標

私が柔道全日本の監督に就任したのは2012年11月、34歳でした。その時、目標を三つ掲げました。一つ目は一人でも多くの金メダリストを輩出するということ。
二つ目は、私は父の影響で五歳から柔道を始めました。柔道を通じて強い体、戦略・戦術を考える力、フェアプレイの精神など、いわば生きていくための力を養うことができましたので、選手たちにも、ぜひとも人生に活かせるものを身に付けさせたい──、ということでした。
そして三つ目は柔道で培ったものを社会に還元できる人間を育てること、あるいは組織を作ることです。選手たちがオリンピックの場で戦う姿を見せること、心に響く試合をすること、これも社会に対する還元だと思います。もちろん、メダルを取りに行くことは大事です。しかし、それだけではなく、社会への還元という視点を持つ選手を育てること──、これが非常に大事だと思ったからです。
さて、東京オリンピックが間近に迫ってきました。物事を進めるに当たって必要なのは明確な理念を掲げることです。私が監督として掲げたのは「最強かつ最高の選手育成と組織作り」です。やるからには強い選手を育成したいという思いがありますし、さきほどもお話ししましたが一人でも多くの金メダリストを輩出したいという思いがあります。これが「最強」です。
しかし、ただ勝てばいい、強ければいいというものではありません。人から認められ、尊敬される選手やチームを作ることが重要です。これが「最高」です。これは、十年後、二十年後の柔道界を見据えて、勝てる選手、組織を作っていくためにも必要だと思います。
「最強かつ最高の選手育成と組織作り」という大きな理念を掲げたら、次はより具体的な目標が必要です。私は「オリンピックの全階級制覇」を掲げました。これは相当大変な目標です。しかしながら、選手一人ひとりは金メダルを取りたいという思いで戦っています。監督がそれを信じなければ選手はついてきません。また、何をやるにしても究極なところに挑戦していきたいと思います。
とはいえ、やはり容易な目標ではありません。リオ・オリンピックから現在まで柔道界の様相は大きく変わりました。リオでは選手たちがよく頑張ってくれ、全階級でメダルを獲得できました。リオまで選手たちと歩んだ四年間、そして、あの大会で得たものは私の人生において宝物といっていいものでした。しかし、もう過去のことです。同じことをやっていたら東京での成功はないと強く思っています。

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