多様性への取り組みは食品業界がリードする! ダイバーシティフォーラム「SPIRAL UP!」開催

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2015年に施行された女性活躍推進法を皮切りに、障害者雇用促進法、働き方改革関連法、外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法の改正など、労働の現場を大きく変える法律の可決・成立が相次いだ。各企業に、働く人の多様性・働き方の多様性に向き合うことが求められる時代だ。いや、単に「多様性への対応」だけでは不十分。「多様性を強みとして活かす」組織作りを推し進めようとする動きが、食品業界を横断して始まっている。

食品業界のダイバーシティは有志の集いから経営陣も巻き込んだビッグムーブメントへ

2019年2月、東京都港区において「ダイバーシティフォーラム『SPIRAL UP!』」と題するイベントが開催された。共同開催者として名を連ねるのは、サッポロホールディングス株式会社、株式会社ニチレイフーズ、日清製粉グループ、森永製菓株式会社、森永乳業株式会社、株式会社ロッテ。いずれも食品業界のリーディングカンパニーと呼べる6社だ。

従来から交流のあった各社人事担当者が、2017年2月に女性活躍推進セミナー「LADY'GO UP!」を合同で企画したのが、このイベントの始まり。当初は担当者が手弁当でスタートさせた、いわば“有志の集まり”だったのだが、いまでは経営陣まで巻き込み、また女性の活躍推進のみならずより広い課題にまで目を向けるようになって、すでに複数回のセミナー、研修、人事部長会議を開いてきた、という経緯がある。この「SPIRAL UP!」も2017年11月に続く2回目の開催だ。

「SPIRAL UP!」が掲げるテーマは、ダイバーシティ&インクルージョン。「従業員個々の多様性を単に受け入れるだけでなく、価値のあるものとして認め、活用していこう」という意味合いの言葉だ。近年、ダイバーシティへの意識が高い企業で盛んに叫ばれるようになった考え方である。こうした考えを実行へと移すためには、アンコンシャス・バイアス(人が無意識に持っている思い込みや偏見)を払拭し、すべての社員が前向きに能力を発揮できる環境を整えることが大切だと6社は説く。

フォーラム冒頭に行われた各社人事部長による記者会見でも、力強い言葉が並んだ。いわく「個々の多様性を生かして、まだお客様が気づいていない新しい価値を提供していきたい」(ニチレイ)、「一律一様のマネジメントではダメ。組織活性化のためにもダイバーシティ&インクルージョンの姿勢は不可欠」(日清製粉)。また「消費者の多様化に企業として対応できているのか」(サッポロ)、「創業時には“個”を大切にしていたのに、企業規模が大きくなるにつれてそうではなくなっていった」(森永製菓)、「古い会社なので固定観念に囚われていたかもしれない」(森永乳業)などと反省も吐露。だからこそ「風土を変える必要がある。このフォーラムで意識を変革していきたい」(ロッテ)というわけだ。

まだ取り組みは遅れている&顧客の層は多様多彩。だからこそ求められる意識の改革

今回の「SPIRAL UP!」における中核は、2つの基調講演だ。まずは大正大学心理社会学部・人間科学科准教授の田中俊之氏が登壇。田中氏は『男が働かない、いいじゃないか!』とのテーマで“男性学”を研究する立場から発言・提言を行った。

男性学とは男性をジェンダー化して捉え、男女間の問題や男性同士の力関係などを解明する学問分野だ。最近では見直されてきているが「女性はこうあるべき」という考えがあるように、「男性は働かなくてはならない」「男性は家庭を持って一人前」といった考えも根強くある。

田中氏はそんな考えに警鐘を鳴らしており、「単身者もダイバーシティの1要素」と語った。また、ダイバーシティ推進には「中高年男性の意識を変え、多様性を受け入れる土壌を作っていくことが必要だ」と、多様性の積極的寛容について力説した。
続いてはサイボウズ株式会社・代表取締役社長の青野慶久氏による『100人いたら100通りの働き方 チームで組織を強くする』。同社が離職率28%という危機的状況からいかにして立ち直り、“7年連続で離職率5%以下”という数字をマークするようになったのか、施策実例と苦心談が披露された。ユーモアを交えながら「人事制度は変えるものではなく足すもの」「経営者が覚悟しないと風土は作れない」と語る青野氏の言葉に納得する人が多かった印象だ。

これら基調講演やパネルディスカッションの模様は、インターネットを通じて各社の事業所にも生中継された。来場者とサテライト観覧を合わせれば、参加人数は600人をゆうに超すという。また執行役員・取締役クラスが出席していることからも、共催各社の本気度がうかがえる。

もともとこの6社は、管理職の女性比率や男性社員の育児休職取得率アップ、仕事と育児を両立させるための施策、介護の支援、海外からの留学生採用など、ダイバーシティ関連の取り組みを積極的に進めている企業だ。それでも「IT業界などと比べるとまだまだ遅れている」(ニチレイフーズ)という実感を持っているとのことだった。

いっぽうで「社内で普通にダイバーシティが語られるようになり、特別感がなくなってきた」との意見も寄せられ、こうしたイベントの開催が、まさに“意識の変化”という成果につながっていることも感じさせる。

商品ラインナップが多岐に渡る食品メーカーは、ターゲット層も広範囲。多様化する消費者のライフスタイルや価値観を確実にキャッチできるかどうかが、企業の命運を左右するともいえる。だからこそ「まずは自社内からダイバーシティ&インクルージョンを」と意識の変革や実際の取り組みにも熱心なのだろう。食品業界が、どのような形とスピードでダイバーシティ&インクルージョンを推進し、他業界の範となっていくのか。今後も注目して見守りたいところである。

HR Trend Lab所長・土屋 裕介 氏のコメント

ダイバーシティ&インクルージョンは日本だけでなく、世界各国で注目されているHR上の課題と言えます。2018年に米国・ラスベガス開催された「HR Technology Conference & Expo」で基調講演を務めた世界的に有名なHRアナリストであるデロイト社のジョシュバーシン氏もダイバーシティ&インクルージョンを「2019年の最も注目すべきトピックの1つ」、「ただの人事課題ではなく、ビジネス戦略である」として、ビジネスのあらゆる面で多様性と包括性を取り入れている企業は、同業他社よりも統計的に優れていると語っています。また、私も参加したATD2019(2019年5月、米国・ワシントンD.Cにて開催)においても10以上のブースがダイバーシティのカテゴリーで出展していました。

日本においても、以前からダイバーシティについての重要性が説かれてきましたが、近年では将来的な労働力不足という背景から、インクルージョンという言葉が加わり、標語として掲げるだけではなく本当に必要な概念として広がりを見せています。
本記事の取り組みのように、大手企業が先鋭的に取り組んでいくことで、皆がより働きやすい社会の実現に近づく事を期待しています。
土屋 裕介 氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長


国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。
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著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。

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