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人・組織にかかわる調査報告『人材開発白書』

なぜ部下が育たないのか 〜部下育成に必要な3つの観点〜(後編)

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京 大学院ビジネススクール 非常勤講師 坂本 雅明
2018/04/17

社会人は業務経験を通じて成長していきます。また、経験を通じて成長するためには、“他者”という触媒が欠かせません。とはいうものの、単に他者との接点を増やすだけでは、意味がありません。若手・中堅社員が成長できる“かかわり”とは、どのようなものなのでしょうか。また、そうした“かかわり”を育む組織は、どうすれば作れるのでしょうか。国内企業37社の若手社員2,304人への定量調査結果をもとに、周囲とのかかわりを通じて部下を成長させる方法を説明します。
●社会人の成長には経験が必要であり、経験から学ぶためには「他者」が必要である。
●他者からは「業務支援」「内省支援」「精神的支援」を得ることができる。
●この3つの中で特に重要なものは「内省支援」である。いくら良質の経験をしても、上手くいった要因や失敗した要因を振り返らなければ、経験を自分の力に変えることはできない。
●しかし、若手であるほど、自分で立ち止まって振り返ることが難しい。誰かが無理やりにでも立ち止まり、一緒に振り返ってあげなければならない。

前編では、こうしたことを説明しました。そして、こうした調査結果を踏まえて指摘したことは、軸足の置き方についてです。北村に対する和田マネジャーの育成方法の軸足を、業務支援から内省支援に転じるべきだと述べました。
しかし、業務支援に比べると、内省支援ははるかに難しいものです。どうすれば上手くできるのでしょうか。調査結果をもとに、後編では効果的な内省支援方法を考えます。

前編はこちらから

ケース(後編)

和田は北村への接し方を変えた。教えることは続けながらも、一緒に振り返る時間をできるだけ多くするようにした。自分で気づく力、自分で考える力を身につけてもらうためである。
失敗に対してはまずかったところを伝えるのではなく、なぜ失敗したのかを一緒に考えるようにした。詰問にならないように十分気をつけた。失敗だけ取り上げると滅入ってしまうかもしれないので、上手くいった事例も取り上げて、何が良かったのかも話し合うようにした。

しかし、北村はなかなか気づいてくれない。和田は、「なんで分からないんだ」と声を荒げそうになることも度々あった。
北村もかなり参っているようである。和田が何を考えているのかは、北村には分からないようだった。弱音を吐きたいこともあろうが、上司の和田や大先輩の元木に愚痴を言うこともできないし、年下の岡田に知られるのも恥ずかしい。北村の表情から、そう感じられることがしばしばあった。

ところで、和田の業務は北村の育成だけではない。岡田の育成もある。それだけではなく、自分自身もプレイングマネジャーとしていくつかの製品の生産管理を担当している。営業に同行して顧客企業に行くことも多い。さらには、安全衛生委員会のリーダー業務にもかなりの時間を費やしている。会社からは、コンプライアンスの遵守、セクハラやパワハラ防止の徹底という名の下に、様々な提出物を求められる。すべてがマネジャーの和田の肩にのしかかってくる。北村も参っているが、和田の方が先につぶれてしまうかもしれない。

和田のやり方には、どんな問題があるのか。どのような育成スタンスに変えればよいのだろうか。

職場における360度の関係性の大切さ

「業務支援」「内省支援」「精神的支援」は、それぞれ誰がもたらしてくれるのでしょうか。その分析結果を整理したものが図4です。
若手・中堅社員は、上司や先輩からは業務の支援をしてもらっています。とはいうものの、万能ではありません。特に上司からの精神的支援は、効果はあまり見られませんでした。いくら優しい言葉をかけてあげても、残念ながら部下の心が安らぐことはあまりないようです。

それでは、精神的支援は誰から得られるかというと、同期や同僚でした。共同研究者の松尾先生に聞いた話を紹介します。松尾先生はめずらしい調査をしています。過酷な職場の人へのインタビュー調査をしているのです。具体的には看護師さんです。夜勤もある上に、急患などで時間も不規則になり、また人の死に目に立ち会うこともある。そのような職場で働いている看護師さんに、「こんなに大変なのに、なんで仕事を続けているのですか」と聞いて回ったところ、最も多かった答えが、「同僚も頑張っているから」だったそうです。同僚の存在自体が、心の支えになっていたのです。

話を戻します。図4の中でまだ触れていない他者が、部下・後輩です。上司や先輩、同期・同僚に比べると、3つの支援の程度はあまり高くありませんでした。しかし、1つだけ引けをとらないものがありました。内省支援です。その理由を知るためにインタビュー調査をしたところ、以下の3つの答えが多くあがりました。

「組織に染まっていない部下・後輩の率直な意見がとても参考になった。」
「部下・後輩を指導して始めて、自分の能力があることやないことに気づいた。」
「部下・後輩を指導して初めて、上司の気持ちが理解できた。」

このように、若手・中堅社員は職場内の360度の関係性の中で成長していきます。昔であれば、放っておいても職場の中で成長できたのでしょう。なぜならば、360度の関係性がセットされていたからです。しかし、今は違います。採用削減のあおりで部下がいなかったり、フラット化によってメンバーが同列になったりと。つまり、誰かが介入しなければ、職場の中で成長しにくくなっているのが現状なのです。

プロフィール

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京 大学院ビジネススクール 非常勤講師 坂本 雅明

1969生まれ。1992年にNEC入社。NEC総研を経て2006年より現職。戦略策定・実行プロセスの研究に従事。また、戦略策定の研修・コンサルティング、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、子会社の経営支援にも携わる。首都大学東京では社会人学生向けに戦略策定コースを担当。一橋大学大学院修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期過程修了(博士(技術経営))。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015)、『事業戦略策定ガイドブック:理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016)
富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書』

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