なぜ、経営人材へと飛躍できないのか〜行動、意識・思考の転換(前編)

人・組織にかかわる調査報告『人材開発白書』

「課長はたくさんいるのに、経営を任せられる人材がいない」―こうした問題を抱えている企業は少なくないはずです。その要因の一つには、リーダーは線形に成長するのではなく、途中に断絶があるということがあります。つまり、過去からの延長線上で努力しても必ず壁にぶつかり、その壁を乗り越えなければ、経営リーダーへと飛躍できないのです。現場をまとめるリーダーから経営リーダーへと飛躍する過程ではどのような断絶が待ち受けているのでしょうか。どうすればその壁を乗り越えることができるのでしょうか。経営リーダーとして活躍されている91人に対する定性調査、およびビジネスパーソン約600人に対する定量調査の結果を説明します。

はじめに

ここに一匹の青虫がいるとします。この青虫が成長したら、どうなるでしょうか。大きな青虫になるというのは、半分しか正解ではありません。そうです、蝶になるのです。
昆虫などの成育過程で形態を変えることを、変態といいます。図鑑やテレビの映像でその過程を見たことがある人も多いでしょう。一方で、あまり知られていないこともあります。実はすべての青虫が変態できるわけではないのです。青虫が蝶に変態する途中で、挫折してしまうことが結構多いのです。自己組織化理論(注1)で有名な今田高俊氏(東京工業大学名誉教授)によれば、変態する前には自分で自分を壊さないといけないことが挫折の要因になるといいます。さらに同氏はこう続けています。このことは人間も同じだと(注2)。

■成長に必要なトランジション
もちろん人間は、形態が変わるような変化を経るわけではありません。しかし、人生にはいくつかの節目があり、その節目を越えていかなければなりません。例えば小学生になって義務教育を受けるようになったときや社会人になって自分で稼ぐようになったとき、あるいは結婚や身内との離別など、私たちは様々な節目を経て成長していきます。
職業人生でも同じです。キャリア論では節目を越えるような変化を、トランジションと呼んでいます。そして、青虫の変態が容易ではないように、トランジションも容易ではありません。その大きな理由は、節目の前の成功要因が、節目の後の成功を保証してくれないことにあります。青虫が自分自身を壊しながら変態するように、以前の成功体験を否定しなければならないこともあるのです。それができなければ、いつまでたっても蝶になることはできません。ニーチェの言葉を借りれば、「脱皮することのできない蛇は、破滅する(注3)」のです。

■リーダーシップ・トランジション
最も分かりやすい節目の1つは、管理職への昇格でしょう。プレイヤーとして優れた実績が認められて、管理職に登用されることになります。その際に少なからずの管理職が失敗するのは、昇格をもたらしてくれたプレイヤー時代の強みに固執してしまうことにあります。それまでの成功体験を捨て、“自分で仕事をする”から、“他人に仕事をさせる”に変わらなければならないのです。
プレイヤーから管理職への節目を越えれば、それで終わりというわけではありません。その後も節目が訪れることを忘れてはいけません。大きな節目は、現場をまとめるリーダーから、事業や会社を舵取りするリーダーへの転換点です。いくら現場をまとめる上手いやり方を身につけていたとしても、そのやり方で事業や会社を舵取りできるとは限りません(図表1)。

経営リーダーへと飛躍するには、何を変えなければならないのでしょうか。またどうすればそうした飛躍を遂げられるのでしょうか。本コラムにて、調査結果を紹介します。

著者プロフィール

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京 大学院ビジネススクール 非常勤講師 坂本 雅明

1969生まれ。1992年にNEC入社。NEC総研を経て2006年より現職。戦略策定・実行プロセスの研究に従事。また、戦略策定の研修・コンサルティング、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、子会社の経営支援にも携わる。首都大学東京では社会人学生向けに戦略策定コースを担当。一橋大学大学院修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期過程修了(博士(技術経営))。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015)、『事業戦略策定ガイドブック:理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016)
富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書』

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