部下育成のための上司の役割

別のデータを紹介します。
業務支援によって部下に仕事を教え、内省支援によってその業務経験を部下の力にする。上司がこうしたことにしっかり取り組んでいるほど、部下の成長感は高いはずです。図5は、そのことに関するデータです。調査に協力いただいた企業37社の平均データがプロットされています。なお、守秘義務の関係上、あえて正確なデータにはしていません。
なぜ部下が育たないのか
直接的な部下育成ではなく、間接的な部下育成に取り組んでいたのです。
非常に良いやり方だと思えます。マネジャーはただでさえ多忙です。プレイングマネジャーとして自らが業務をこなす上で、部下のマネジメントがあり、その上で、会社からはコンプライアンスの徹底だの、リスク管理だの、いろいろな指示がおりてきます。さらに部下全員を育成しなければならないとなると、上司が先につぶれてしまいます。
一方の部下にとっても、たった1人からしか学べないという状況はあまりよくありません。すべてに秀でている上司などはないからです。上司は、自分以外の人から部下が学ぶ機会を奪ってはいけないのです。

ケース(後編)を考える

こうした観点から、ケースを考えます。
どうすれば、北村に対する効果的な内省支援ができるのでしょうか。調査結果を当てはめると、重要なことが2つ考えられます。ひとつは、先輩の元木に任せることです。元木はいまでこそ優秀な社員ですが、そこに至るまでには多くの苦労をしてきました。上司の和田よりも北村の状況や気持ちが分かるかもしれません。
そしてもうひとつは、岡田の育成を北村に任せることです。岡田はサポート的な業務が中心でしたが、そろそろ主体的に業務をしてもらわなければなりません。うまく移行させることを北村に任せれば、その育成過程で、自分自身のことでも何らかのヒントが得られるかもしれません。パナソニックの事例調査(弊社報告書『人材開発白書2010』)が役立つものと思われます。

さらには、次の2つの取り組みが援護射撃になるはずです。
ひとつは、メンバー間の関係性作りです。お互いに他者から学ぶ機会を増やすためには、メンバー間の関係性が大切です。もう少し具体的にいえば、互酬関係です。互酬関係とは、一対一のGive and Takeの関係とは違います。例えば、AさんがBさんに何かをしてあげたら、BさんはAさんに恩返しをするのではなく、Cさんに何かをしてあげるというような関係です。こうした関係が醸成されるほど、相互の学び合いは確実に進みます。残念ながら、互酬関係の醸成に即効力のある方法はありませんが、カネボウの事例調査(弊社報告書『人材開発白書2010』)がヒントになるかもしれません。
そしてもうひとつは、これは和田がやるべきことではなく、事業部として取り組むべきことでしょうが、同期での交流の場をつくってあげることです。北村は苦しい状態でも、愚痴を言える相手や悩みを聞いてもらえる同期がいません。苦しいときに悩みを打ち明けられるのは同期だということは、既に説明した通りです。技術や製造に配属された同期との接点を意図的に増やした方がよいでしょう。
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富士ゼロックス総合教育研究所では、1994年より人材開発問題の時宜を得たテーマを選択して調査・研究を行い、『人材開発白書』として発刊しています。
2009年には中原淳先生(立教大学 経営学部 教授)、松尾睦先生(北海道大学 大学院経済学研究科 教授)の監修のもと、国内一部上場企業・関連会社37社にご協力をいただき、28歳から35歳の2,304人に対する定量調査を実施しました。その分析結果は、『人材開発白書2009』にまとめられています。本コラムは、調査・分析結果にもとづいて書かれています。
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