HR総研は、人的資本経営への取組み状況の最新動向を調査した。経済産業省より今年5月13日に公表された「人材版伊藤レポート2.0」は、大企業を筆頭に日本の企業における経営の在り方に大きなインパクトが与えており、今後ますます「人的資本経営」に対する企業の動きが活発化することが予測される。
本調査結果について2本に分けてレポートする。1本目の本レポートでは、「調査結果の全体概要」について紹介する。

<概要>
●大企業での「認知度」9割近く、「重視度」は中小企業で8割近く
●「取り組み中」は大企業で36%、その目的は「組織力の強化」「エンゲージメント向上」
●「3つの視点」への取組み、「企業文化への定着」が比較的高い水準に
●「5つの共通要素」への取組み、「時間や場所にとらわれない働き方」が企業規模問わず高い水準に。コロナ禍により急速な進展か
●経営層・従業員・組織文化への好影響、取り組み企業で顕著に
●「従業員の意識・行動の良い変化」と企業方針の関係は?
●人的資本経営で得られるメリット、2位は「従業員エンゲージメントの向上」、1位は?

大企業での「認知度」9割近く、「重視度」は中小企業で8割近く

まず、「人的資本経営」に対する企業人事と従業員の認知度を見てみる。
企業規模別に見てみると、従業員数1,001名以上の大企業では「以前から知っていた」が最多で63%、「以前から少しだけ知っていた」が25%などとなっており、これらを合計した割合を「人的資本経営の認知度」とすると、認知度は85%と9割近くに上っている。なお、「今回初めて聞いた」は僅か2%となっている。301~1,000名の中堅企業では、認知度は70%と7割に上り、その内訳としては「以前から知っていた」が33%、「以前から少しだけ知っていた」が37%である。「以前から知っていた」の割合は大企業より30ポイント低く、内容の理解度が大企業より顕著に低い傾向にあると推測される。300名以下の中小企業での認知度は62%と6割程度で、中堅企業より8ポイント低い。その内訳は「以前から知っていた」が27%、「以前から少しだけ知っていた」が35%となっており、大企業と比較すると、中堅企業と同様に内容の理解度は低い企業が多いことがうかがえる(図表1-1a)。

【図表1-1a】企業規模別 「人的資本経営」に対する、人事の認知度

HR総研:人的資本経営への取組み状況に関するアンケート 結果報告(第1報)

従業員側の認知度は52%で、半数程度が「人的資本経営」をある程度認知していることが分かる。その内訳は「以前から知っていた」が27%、「以前から少しだけ知っていた」が25%となっている(図表1-1b)。

【図表1-1b】 「人的資本経営」に対する、従業員の認知度

HR総研:人的資本経営への取組み状況に関するアンケート 結果報告(第1報)

「人的資本経営」に対する重視度について、まず人事の認識を見てみると、大企業では「重要だと認識している」が49%で最多、次いで「やや重要だと認識している」が24%となり、これらを合計した「重視している派」は73%と7割以上に上っている。一方、「あまり重要だと認識していない」は8%、「重要だと認識していない」は4%で、これらを合計した「重視していない派」は12%と1割程度にとどまっている。「重視している派」は、中堅企業では65%、中小企業では77%と大企業よりも4ポイント高くなっている(図表1-2a)。

【図表1-2a】企業規模別 「人的資本経営」に対する重視度(人事の認識)

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「自社の人的資本経営への重視度」に関する従業員側の認識は、「どちらとも言えない」が最多で32%となっている。また、「重視している」が7%、「やや重視している」が25%で、これらを合計した「重視していると思う派」は29%と3割程度となっている。一方、「重視していないと思う派」は31%と「重視していると思う派」より僅かに2ポイント高い(図表1-2b)。
人事の認識では最も低い中堅企業でも6割以上が「重視している派」であるものの、従業員側の認識では「重視していると思う派」は3割にとどまっていることを踏まえると、「人的資本経営」に関する企業方針が、従業員側に十分には理解されづらい傾向となっていることが推測される。

【図表1-2b】「人的資本経営」に対する自社の重視度(従業員の認識)

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「取り組み中」は大企業で36%、その目的は「組織力の強化」「エンゲージメント向上」

「人的資本経営への取り組み状況」としては、大企業では「安定的に取組みを継続中」と「取組みを開始した段階」がともに18%で、これらを合計した「取り組み中」の割合は36%と4割近くとなっている。取組み中ではなくとも「取組への準備中」は16%、「取組みを検討中」は24%であり、これらと「取り組み中」を合計すると76%と8割近くが取組みに対して「前向きな意向」を示している。中堅企業では「取り組み中」が21%、「前向きな意向」は63%と6割程度となっており、「取り組む予定はない」(37%)は大企業より13ポイント高くなっている。中小企業では「取り組み中」が29%で中堅企業より8ポイント高く、「前向きな意向」は67%と7割近くで中堅企業より4ポイント高く、取り組みに対して前向きな企業が中堅企業よりやや多いことがうかがえる(図表2-1)。

【図表2-1】企業規模別 「人的資本経営」への取り組み状況

HR総研:人的資本経営への取組み状況に関するアンケート 結果報告(第1報)

取組みに対して「前向きな意向」を示している企業に対して、取り組む目的を企業規模別に聞いたところ、大企業では「従業員エンゲージメント向上」と「組織力の強化」がともに最多で69%、次いで「企業価値の持続的向上」が53%などとなっている。中堅企業では「組織力の強化」が最多で78%、次いで「従業員エンゲージメント向上」が74%、「企業価値の持続的向上」と「生産性の向上」が67%などとなっている。中小企業では「生産性の向上」が64%、次いで「組織力の強化」が54%、「従業員エンゲージメント向上」が52%などとなっている(図表2-2)。
「人的資本開示」は、投資家が財務情報以外のデータ(非財務情報)から投資の判断をするために有効な企業の取組みとなるが、「人的資本経営」に取り組む目的としては、上場企業の割合が比較的多い大企業においても、「投資家からの印象の向上」を挙げる企業の割合は少なく23%にとどまっており、投資家に向けた「人的資本開示」へと繋げることを意識している企業は、現段階では多くないことがうかがえる。

【図表2-2】企業規模別 「人的資本経営」に取り組む目的

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「3つの視点」への取組み、「企業文化への定着」が比較的高い水準に

ここからは、人的資本経営への取り組み状況について見てみる。
経済産業省から本年5月13日に公表された『人材版伊藤レポート2.0』(以降、レポート2.0)で、「3つの視点」と「5つの共通要素」の実現に向けて例示されている各項目への取組み状況について、回答企業全体と大企業を比較しながら確認していく。
ただし、これら各項目について、すべてに取り組むことが求められているわけではなく、各企業の経営戦略や事業内容、置かれた環境の違いなどを考慮し、自社の人的資本経営の実現に必要な取組みを、着実に実践していくことが重要となる。

「3つの視点」については図表3-1~3-3で、「5つの共通要素」については図表4-1~4-5で、レポート2.0で例示されている具体的な項目への企業の取組み状況を示している。
これらの図表を概観的に眺めると、すべての項目において、全体より大企業の方が「取り組み中」(「安定的に取組みを継続中」と「取組みを開始した段階」の合計)の割合が高くなっており、他の企業規模より大企業での取組み状況が先行していることがうかがえる。そこで、各項目に対する大企業での取り組み状況を中心に見ていく。

まず、「視点1:経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況を見てみる。
大企業で「取り組み中」の割合が最も高いのは「経営戦略の意思決定への人事部門の関与」で、55%(全体35%)と過半数に上る。一方、大企業での「取り組み中」の割合が最も低くなっている項目は「人材に関するKPIの役員報酬への反映」で23%(全体13%)となり、「経営戦略の意思決定への人事部門の関与」より32ポイント低く、項目により取り組み状況が顕著に異なることが分かる。
レポート2.0で最も重要なステップの一つとしている「CHROの設置」については、大企業においても「取り組み中」が32%と決して高くない割合となっている。CHROの役割は、「経営陣の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者で、社員・投資家を含むステークホルダーとの対話を主導すること」(レポート2.0より抜粋)である。したがって、人的資本経営の中で最重要視点かつ第一ステップである「経営戦略と人材戦略を連動」におけるCHROの有無が、その後の人的資本経営への取組み成果に影響してくることが推測される(図表3-1)。

【図表3-1】「視点1:経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況

HR総研:人的資本経営への取組み状況に関するアンケート 結果報告(第1報)

次に、「視点2:『As is(現在の姿) - To be(目指すべき姿)のギャップ』の定量把握」への取り組み状況については、「人事情報基盤の整備」の「取り組み中」の割合が最も多く、大企業で40%、全体で30%となっている(図表3-2)。他2項目は「人事情報基盤の整備」ができた上で、現在の姿と目指すべき姿のギャップを定量的に可視化するために必要な取組みであり、今後、各種の取組みが進む中で重要なステップとなってくるだろう。

【図表3-2】「視点2:『As is(現在の姿) - To be(目指すべき姿)のギャップ』の定量把握」への取り組み状況

HR総研:人的資本経営への取組み状況に関するアンケート 結果報告(第1報)

「視点3:企業文化への定着」への取り組み状況については、視点1,2に比べて大企業のみでなく全体でも「取り組み中」の割合が高いことが分かる。特に高いのは「経営理念、企業の存在意義、企業文化の定義づけ」で、全体で55%、大企業では71%に及んでおり、「経営理念等について、社員の具体的な行動や姿勢に紐づける取組み」は全体で46%、大企業で67%となっている(図表3-3)。これらの項目に関しては、人的資本経営を意識する以前から重視している企業が多く、近年では、人的資本経営の軸として「パーパス経営」の重要性が増してきている。企業のパーパス(存在意義)や企業文化を社員に共有し、社員から共感を得るための有効な手段の一つである「CEO・CHROと社員の『対話の場』の設定」に取り組む企業は、全体で25%、大企業では39%と4割程度となっている。

【図表3-3】「視点3:企業文化への定着」への取り組み状況

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:人事向け:【HR総研】「人的資本経営への取組み状況」に関するアンケート
        従業員向け:【HR総研】「自主的なキャリア形成への考え方と人的資本経営」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年4月18~27日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:人事向け:企業の人事責任者・担当者
     従業員向け:企業に勤務する会社員
有効回答:人事向け調査:179件
従業員向け調査:179

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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