「労働協約」とは、労働組合と使用者が、労働条件などの労使関係に関する事項について合意した取り決めを、労働組合法に則って締結されたものをいいます。

労働組合による団体交渉により労使双方が労働条件やその他の事項を取りまとめた場合、労働協約と認められるためには、書面に記すことと、締結両当事者の署名または記名押印が必要とされる、と労働組合法第14条に記載されており、契約としての一般的な機能の他、規範的効力や一般的拘束力などといった特別な効力が付与されています。労働協約は、公正で安定的な労使関係を築くことに主眼が置かれているのです。

労働協約に有効期間を定める場合は、上限は3年とされており、これをこえる期間の定めは、3年の期間を定めたものとみなされます。また、期間を定めない場合には、予告期間を設けた上で解約することになりますが、労働協約については、この予告の日数は90日とされています。したがって解約当事者は、解約すべき日の遅くとも90日前に解約の意思表示をしておく必要があります。

労働基準法を元に作成された労働協約は、就業規則や労働契約よりも効力があります。労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり、労働契約に定めのない部分についても、同様とされています。また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならないと規定され、労働協約の就業規則に対する優先性を明らかにしています。

労働協約の「労働者の待遇」に関する定めはそのまま労働契約上の合意と同じ意義を有するということになります。これについての問題はいくつかあり、一般には労働協約の「余後効」の存否という形で論点とされています。これは新協約が締結されない間の労働条件をどうするか、といった実際上の問題にもなりえます。いまだ定説といえるものはありませんが、判例では、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべきであるという事例判断を提示しています(最一小判平成1・9・7香港上海銀行事件)。

また、具体的な労働協約の内容が、どれほど労働組合員にとって不利益であっても規範的効力が及ぶか、といった問題も、労働条件切り下げの手段として労働協約の規範的効力が利用されるような場合には重要な問題となります。これについては、判例では、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は規範的効力に支障はないとしています(最一小判平成9・3・27朝日火災海上保険(石堂)事件)。

労働協約は労働組合と使用者側との契約であることから、基本的に締結した労働組合に加入している組合員全員に適用され、例外を除いては、非組合員に対して効力が及ぶものではありません。