1985年に男女雇用機会均等法が制定されて以来、「女性と仕事」についてはさまざまな局面で取りざたされてきました。2015年には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行され、従業員301人以上の企業には(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析、(2)その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、(3)自社の女性の活躍に関する情報の公表、の実施が求められるようになり、2019年5月の改正で、さらにその範囲は101人以上の企業まで拡大されました。
しかし、実際に女性活躍やイクボスなどの研修をしていると、現場の声は決して明るくはありません。そこで今回は、「女性を活かす」ということを改めて考え直すとともに、働く女性の悩みについて考えてみたいと思います。
「女性活躍推進」の背景にある、一般職の女性・管理職の女性それぞれが抱く悩みとは

「女性を活かす」とはどういうことか

内閣府男女共同参画局では、男女共同参画社会の実現に向け、「社会のあらゆる分野において2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%になるように期待する」という目標を出しました。しかしそもそも、「女性を活かす」とは、女性管理職を増やすことなのでしょうか?

これまで男性社会でやってきた企業が、いきなり女性役員を生み出そうとしても、それは根本的に無理があります。この法律ができてすぐに役職が上がった女性に対し、「女性だから」と男性からの嫉妬が生まれたり、女性自身も「役職に就きたかったわけではない」という声が出たりという話をよく聞きます。

また、働く現場の女性からは「活躍しているのは一部の人だけで、私たちは何も変わらない」という声も挙がってきています。一部の選ばれた女性だけを活かしていくのではなく、やる気のある一般の女性社員に道を拓くことこそ、女性活躍につながります。

その中で「この人なら」という女性を管理職につけることはあるかも知れませんが、それはあくまで結果に過ぎません。女性管理職の人数を増やすこと自体を目標とすることは、本末転倒と言えるでしょう。

企業側が女性を活かすためによく行う施策は、福利厚生や制度の整備です。育児休暇の充実や、時短勤務制度を作ることももちろん必要です。ですが、そうした制度にばかり目がいってしまい、女性社員の本当の悩みに対応できていない企業も多々あります。

では、女性は一体どのようなことに悩んでいるのでしょうか。以下、キャリア研修や面談で出てくる女性たちの声をご紹介します。

「働く女性の悩み」とは?

一般職女性社員の悩みと、女性管理職の悩み、大きく2つに分けて取り上げてみます。

【一般職の女性社員の悩み】

・自分のキャリアの描き方がわからない
特に一般職として働いている女性からよく聞くのが「自分が何になりたいのか、何に向いているのか分からない」という声です。言われたことをただ真面目にこなすことのみを求められ、自分の能力や可能性を自主的に発揮した経験がないため、自分に自信がないという女性も多いです。

また、20代、30代の女性は仕事に加え結婚も考慮に入れ、出産などでキャリアが中断する可能性も考えると不確定要素が多く、男性のように、仕事に対して明確なキャリアプランを描けないと感じているケースも多々あります。

・頑張っても会社の風土が変わらない
実際はまだまだ男性中心の業界が多く、こうした企業に勤めていると、どんなに頑張っても現状は変わらないケースがほとんどです。各種メディアには、女性が活き活きと働く環境のある企業が取り上げられ、それを見ては自分の勤める企業と比較し、焦燥感を感じている女性も少なくありません。

こうした女性の中には、何かしら資格を取得したり、自己啓発セミナーや女性起業家セミナーに通ったりしながら、転職活動や独立準備をする傾向もあります。しかし本気で転職や独立を考えているわけではなく、これらの行動が焦燥感を紛らわすための気休めであることも多いのです。

・ロールモデルがいない
ロールモデルとは、生き方や働き方のお手本となるような人のことです。身近に「目指す女性」のモデルがいないことは、女性にとって大きな悩みです。組織の中で責任あるポストに就いている女性がいても、残業ばかりしていたり、なりふり構わず仕事に忙殺されていたりすると、「あんな風にはなりたくない」と感じ、かえってモチベーションが下がってしまいます。

仕事で認められたいから頑張ろうと思っても、周りの女性たちと同じように生きているのが無難なのではないか、と自らあきらめてしまうケースもよくあります。

【管理職の女性社員の悩み】

・他の女性たちから孤立してしまう
女性管理職は、基本的に孤独です。まだまだ女性管理職の割合は少なく、管理職同士の横の関係から特別視されるだけでなく、女性同士の中でも遠い人間と思われ、孤立してしまいがちです。

さらに会社から、最前線のロールモデルとして期待をかけられ、重いプレッシャーがつきまといます。女性管理職は、男性よりもはるかに大きなプレッシャーを感じて働いています。

・「女だから」と思われることを怖れ、制度が使えない
時短制度や育児休暇は、本来、社員であれば自由に使える制度です。しかし、制度自体は存在しても「周りの働く人の状況によっては、まだまだ使いづらい」との声もよく聞きます。一般社員ですらそう感じるため、管理職となるとますます使いづらくなってしまいます。実際に女性管理職の中には、結婚や出産をあきらめて、キャリアを優先するしかないと感じている人もいます。

・メンターがいない
メンターとは、人生の師匠のことです。仕事や生活に行き詰まったときにアドバイスをくれたり、影から支えてくれたりする存在のことをいいます。働く女性にとっては非常に大きな意味を持ちますが、女性管理職にはそのようなメンターがほとんどいません。

またなぜか、若い一般職女性社員には理解ある男性が、女性管理職が相手になると、無意識に「男だったらそんな甘えは通用しない」と男性の理論を押し付けていることもあり、女性管理職は横からも縦からも重圧を感じていることも多いのです。

女性が無理なくフレキシブルに働き続けるような環境整備を

女性活躍推進と騒がれる中、女性の働き方は、以前よりも実に多様化しています。上記のような悩みを解決するには、企業側も、男性も、そして女性自身も、意識を変えていく必要があります。

特に女性は、働き方の多様性を人生の選択肢のように捉えてしまっているケースが多々あります。女性のキャリアは、どこかで選択したら、以降もそれで固まってしまうようなものではありません。年代によって、ライフスタイルは大きく変化します。たとえば、結婚すると妻という役割ができ、子供ができると母というさらに大きな役割を担うようになります。

しかし、子供が中学生にもなると、時間的にも精神的にも余裕が出てきます。その時にまた、仕事のボリュームを増やしてもいいのです。子供を産んでもずっと独身時代と同じペースで、同じテンションで働かなくては男性に遅れを取ってしまう、と考える女性もいますが、それが可能なのは、よほど環境が整っている場合に限られます。

企業側も女性も、キャリアプランに対する理解を深め、女性が無理することなくフレキシブルに働き続けるような環境整備をすることで、真に女性が活躍する社会となるでしょう。

「女性を活かす」といった取り組みを意識する必要もなく、当たり前のごとく「女性も男性も活き活き働き続ける組織」が増えることを切に望みます。
人を育てる人、を育てる。
採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」
代表 社会保険労務士 田中亜矢子

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