経済産業省は2024年3月1日、中小企業や地域経済産業の発注企業・受注企業を対象に、3月の「価格交渉促進月間」について通達した。本通達は、デフレからの完全脱却に向けた賃上げ実現が重要な時期に、サプライチェーン全体の積極的な価格交渉・価格転嫁を促すものである。
3月の「価格交渉促進月間」について経産省が呼びかけ。中小企業庁調査から見る価格転嫁状況や、政府の要請・取り組みとは?

日本経済の状況と価格交渉・価格転嫁の必要性

日本経済は、過去30年にわたってデフレが続いていたが、2023年は30年ぶりに高い水準の賃上げが実現し、2024年2月には株価史上最高値を更新するなど潮目が変わってきている。経産省は、デフレからの完全脱却に向けてまさに正念場を迎えている今、2024年も引き続き高い水準の賃上げを実現するには、その原資の確保に向けた価格転嫁を進めることが極めて重要だとしている。

一方で、中小企業庁の調査によると中小企業の価格転嫁率は45.7%(2023年9月時点)であり、引き続き転嫁率を上昇させていくことが必要になる。その中で、発注企業と受注企業の間でしっかりと価格交渉を行うことが、高い価格転嫁率の実現のカギとなる。特に3月は春闘が山場を迎え、価格交渉が本格化する極めて大事な時期だ。

発注企業・受注企業への要請内容

そこで経産省は、サプライチェーン全体での価格交渉・価格転嫁の促進に向け、発注企業・受注企業に対し、以下の通り協力を要請した。

<発注企業>
1.下請中小企業振興法に基づく「振興基準」に則り、受注側中小企業からの価格交渉の申し出には遅滞なく応じる、または自社から価格交渉の申入れを行うなど、価格交渉・価格転嫁を積極的に行い、サプライチェーン全体の競争力向上や共存共栄の関係の構築に向けて対応する。

2.「労務費に関する指針」に基づいて受注側中小企業との価格交渉に応じるとともに、当該受注側中小企業、さらにその受注企業に対しても価格交渉・価格転嫁を行うよう促す。

3.サプライチェーン全体の価値の向上や共存・共栄を目指すことを目的とし、政府が推進する「パートナーシップ構築宣言」に未参加の企業は参加について検討する。既に宣言している企業においては、自社のパートナーシップ構築宣言について調達担当者へ一層浸透させる。

<受注企業>
1.発注企業に対し積極的に価格交渉を申し出るとともに、中小企業庁等が作成するコンテンツや「下請かけこみ寺」、よろず支援拠点「価格転嫁サポート窓口」といった相談窓口を活用する。

2.「労務費に関する指針」を価格交渉の材料として活用する。

3.2024年4月以降、受注側中小企業を対象に、価格交渉・価格転嫁の状況に関するアンケート調査、および下請Gメンによる重点的なヒアリングを実施する予定であるが、当該調査はその後の価格転嫁対策に向けた重要な情報源となるため、対象者は積極的かつ正確に回答する。

価格交渉・価格転嫁の促進に向けた政府の取り組み内容

また政府は、価格交渉・価格転嫁の促進に向けて以下のような取り組みを行っている。

【「価格交渉促進月間」フォローアップ調査の実施】
●各「価格交渉促進月間」終了後、30万社の中小企業を対象に、価格交渉・転嫁の状況に関するアンケート調査を実施。

●上記調査に係る結果をもとに、発注企業ごとの価格交渉・価格転嫁の取り組み状況を記載したリストを公表。

●取り組み状況が芳しくない企業トップに対し、下請中小企業振興法に基づく所管大臣名による指導・助言を実施。



【「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の策定・周知・徹底】
●労務費を含む価格転嫁を強力に促すため、2023年11月、内閣官房・公正取引委員会において発注企業・受注企業それぞれがとるべき行動指針を定めた「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表。



●上記「指針」について、約900の経済産業省関連団体に周知するほか、発注企業・受注企業双方に対し全国8つの地方ブロックでの説明会や業界団体の会員企業向け説明などを行い、「指針」の周知・徹底に努める。

【受注企業の価格交渉を後押しするコンテンツの作成・相談窓口の設置】
●価格交渉のポイントをまとめたコンテンツ、コスト上昇状況等のエビデンスとなるデータベースといった受注企業にとって価格交渉の材料となる資料を整理するとともに、価格交渉に応じてもらえない等の取引上のお悩みを相談できる「下請かけこみ寺」や、よろず支援拠点「価格転嫁サポート窓口」を整備する。

3月は、賃上げ原資の確保に向け価格転嫁交渉が本格化する極めて重要な時期である。企業においては、政府の支援を有効活用しながら、サプライチェーン全体での価格交渉・価格転嫁の促進に向けて取り組んでみてはいかがだろうか。

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