近年、「LGBT」といった性的マイノリティ(少数者)について、厚生労働省のセクハラ指針に明記され、社会的にその問題が認知され始めた。こういった動きにともない、企業にも対応が求められるようになってきた。しかし、多くの人事労務担当者や管理職にとって、まだまだ他人事であることも事実だ。そんな状態で、なんの備えもないところに、とつぜんカミングアウトされたら、不適切な言動をとってしまうかもしれない。いつでも起こりうることなので、心の準備をしておこう。
「トランスジェンダー」の従業員にカミングアウトされたら

職場での支援が必要な「トランスジェンダー」

性的マイノリティ(少数者)については、よく「LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)」という言葉が使われる。「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル」は、性的指向(自分がどの性の人を恋愛や性の対象と考えるか)についての用語であるが、「トランスジェンダー」だけが、「自分は男である/女である」といった自己の感覚・認識に関する「性自認」についての用語である。

トランスジェンダーとは、性自認が出生のときに割り当てられた性別(戸籍上の性別)とは異なる人のことで、通称名・トイレ・更衣室などについて、職場で対処が必要な場合が多い。

以下、従業員から、「わたしはトランスジェンダーです」と明かされ(カミングアウト)、なんらかの具体的な対応を求められた場合の対処方法を考えてみよう。

まず、もしあなたが、性的少数者について否定的な考えを持っていたとしても、管理職または人事労務担当者という自分の立場を鑑み、個人的な考えは胸の中にしまっておく必要がある。妊娠した女性や、がんにかかった人、介護を担う必要がある人など、「いままでとは働き方を変える必要はあるが、会社で働き続けたい」と相談に来る従業員は、いままでもいたし、これからもいるだろう。トランスジェンダーの従業員もそのひとりである。相談に来た人が、仕事を続けられるよう考慮するがあなたの役割だ。

相手を傷つけるような心無い言葉で対応すると、相手はモチベーションをなくすばかりか、退職してしまうことも考えられる。マイノリティに偏見や差別をぶつけることは人権問題であり、それと同時に、あなたの業務についても大きなマイナスとなる。

決して否定的な言葉で受け止めず、相手が何を望んでいるのか、落ち着いて傾聴することが、第一である。会社の関係者にカミングアウトすること自体が、よい職場環境をつくっていこうというとする前向きな意思表示なのだと考えるとよいだろう。

マイノリティへの対応は、個人ではなく職場全体の問題として考える

管理職や人事労務担当者が、性的マイノリティの問題に対して持つべき視点は次の2つだ。

まず、「個人ではなく、職場環境全体の問題ととらえ、従業員の困りごとを解決して、より仕事に打ち込める環境をつくるにはどうしたらよいか」という点だ。これをしっかり頭に入れておこう。

相談を受けたら、その人が何に困っているのか、どのような対処を望んでいるのか、まず聞くようにする。「こういう対処を望んでいるだろう」と勝手に想像して、本人に確認せずそのまま先走ってはいけない。カテゴリーで判断するのではなく、その人自身の仕事に対する思いや、個別の事情をしっかり聞き取るようにしよう。

そして、何より注意しなければならないのは、「プライバシーの尊重」という点である。管理職や人事労務担当者にはカミングアウトしたとしても、社内のだれにでもその情報が伝わることを望んでいるとは限らない。本人の許可なく、別の人に伝えることは「アウティング」といって、重大な人権侵害になりうる。

具体的な困りごとは、下記の3点に関することが多い。

・通称名の使用
・制服など服装の規定
・トイレ、更衣室


通称名については、結婚改姓後、旧姓の継続使用を希望する従業員の場合と同等に考えればよいだろう。服装の規定については、そもそも制服といった着衣で性別を可視化することが業務上必要か、という点から考えたい。

トイレについては、最も多く出てくる課題であり、解決しないと健康にも影響がある。自身の性自認に合ったトイレを使いたいのか、誰でも使える多機能トイレを設置してほしいのか、ニーズによって対処は異なるが、毎日何度も使用するトイレが、自分の性自認と一致していないことが、大きなストレスになることを理解すべきだ。

更衣室についても、トランスジェンダーだけではなく、他人に体を見られたくないというニーズは案外あるものだ。カーテンで仕切られたスペースを設けるといった対応を考えてみよう。


李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org

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