近年、育児休業を延長するために、「落選狙い」であえて倍率の高い保育所へ入所を申し込んだり、せっかく決まった保育園の内定を辞退したりなど、不適切な育児休業の延長が問題視されるようになっている。そのため、厚生労働省は、明らかに制度趣旨とは異なる育児休業の延長の申し出があった場合の取り扱いを示した。
不適切な「育休延長」を防ぐ対策となるか? 育児休業延長時の取り扱いを考える

不適切な育児休業の延長とは

育児・介護休業法では、労働者は原則として、子どもが1歳になるまでの間、育児休業が取得することができる、とされている。

例外的な措置として、1歳になる時点で保育所などに入所できないなど、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限り、1歳6ヵ月月まで(再延長で2歳まで)育児休業を延長することができる。

雇用保険に加入していた場合は、一定の要件を満たすと育児休業期間は「育児休業給付金」の支給を受けることができる。給付金の支給額は育児休業開始から半年間は従前の給与の67%、以降は50%である。

育児休業期間中、会社から給与の支給がない場合が多いが、育児休業期間中は社会保険料の負担も免除されることから、休業前の手取りの6~8割程度を賄えるようになっている。

この延長についてはメディアでも取り上げられていたが、上記の通り、育児休業を延長するために不適切な対応を行う、という例もあるようだ。

これにより、保護者や自治体に不必要な事務的負担が生じ、希望の保育所に入所できたはずの児童が入所できない、公平な利用調整が困難になるなど、さまざまな問題が生じている。

インターネット上にも、「育休延長して給付金を子どもが2歳になるまで貰うマニュアル」といったサイトがあったり、「保育所落ちた、日本ありがとう」などのコメントが散見されたりする。

そういったサイトには、「育児休業は法改正で子どもが2歳になるまで取れるようになった」、「給付金は国から出るものだから貰わなきゃ損」といった情報が記載されており、子が2歳までの育児休業の取得や、給付金の受給を推奨している感もある。

筆者も、復帰の意思がないのに復帰する意思を見せ、育児休業を取得・延長、または給付金を全て受給した後、復帰せず退職、という従業員の対応の相談を受けることも多く、育児休業の延長には常々、問題を感じていた。

育児休業延長時の確認点について

原則、保育所などにおける保育の利用を希望し、市町村に対して保育の申込みを行っており、市町村から少なくとも子が1歳に達する日の翌日において保育が行われない旨の通知がなされている場合、育児休業の延長ができる。

しかし、育児休業の不適切な延長が問題となったことを受け、厚生労働省は2019年3月29日の通達により、その解釈について次のように扱うことを示した。

「保育所等の入所申し込みを行い、第一次申込みで保育所の内定を受けたにもかかわらずこれを辞退したことが、保育が行われない旨の通知がなされた書面により明らかである場合であって、その内定の辞退について第一次申込みを行ったときから内定を辞退したときまでの間に住所や勤務場所等に変更があり内定した保育所等に子を入所させることが困難であったこと等のやむを得ない理由がない場合も除くものであること。」

保育所などの入所申込みを行い、第一次申込みで保育所等の内定を受けたにもかかわらずこれを辞退し、第二次申込みで落選した場合には、落選を知らせる「保育所入所保留通知書」にこうした事実が付記されることがある。

こうした通知書を受け取った場合で、内定辞退にやむを得ない理由がなければ、育児休業を延長する要件を満たさず、育児休業の延長の申し出ができない。今後、会社は「保育所入所保留通知書」の内容を確認し、法に基づく適正な申し出であるかどうかを確認する必要がある。

筆者も同じ子を持つ母として、しばらく子育てに集中したいという気持ちが分からないでもない。しかし、復帰するつもりがないのに育児休業の申し出をすることは、法の趣旨に背くことになるばかりか、休業前に働いてきた職場の人員計画などに支障をきたし、同僚にも迷惑を掛けるため、やはり問題であると考える。

育児休業法の目的として、育児のために退職した労働者の「再就職の促進」もある。育児に専念したい労働者の選択肢として、「退職・再就職」制度の拡充も、問題解決の一手かも知れない。
松田社労士事務所
特定社会保険労務士
産業カウンセラー 松田 法子

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