公的年金の「表と裏」 ―― 経営者も社員も知っておきたい実相とは(後編)

前編では、公的年金の仕組や支給額、所得代替率などについて具体的な例を挙げて解説し、公的年金が謳う「100年安心」のお粗末な実態を紹介した。この後編では、今後の公的年金の見通しと、企業としての対応を考えてみよう。

マクロ経済スライドで支給額は先細り

2004年の年金制度改革では、標準モデル世帯の所得代替率が60%前後と高止まりしていたことから、保険料水準を固定(厚生年金保険料率は平成29年度に18.3%で固定。国民年金保険料は平成29年度以降16,900円<平成16年度価格>で固定)するのと引き換えに、「マクロ経済スライド」という自動年金給付カット装置が導入された。所得代替率を50%まで低下させて、つまり、給付額を抑えて、年金財政を安定させた。

本来、公的年金は、物価上昇率や賃金上昇率に合わせて毎年度改定され、その給付額の実質価値を維持するところに大きな特徴がある。マクロ経済スライドは、年金改定率の基本となる賃金(物価)上昇率からスライド調整率(公的年金被保険者数の変動率×平均余命の伸びを勘案した一定率)を控除して改定する仕組みであるから、将来的な年金の実質価値を減ずる方法ということになる。この仕組みこそ、政権与党をして「100年安心な制度」だと宣(のたま)わせている代物である。

しかし、これもデフレ下では発動される仕組みではなかったため、これまで2015年度と今年度の2回しか発動されていない。要するに、所得代替率はほとんど低下せず、年金財政は全くもって改善されていないのが実態である。しかも、ここ数年のスライド調整率は、従前の見通しから大きく乖離しており、結果的にマクロ経済スライドが実施されても年金額の抑制効果は働かなくなっている。

これは、スライド調整率に影響を与える公的年金被保険者数が、当初の見通しほど減少しなかったためである。大方、高齢者雇用の増加や非正規雇用者への社会保険適用拡大が影響しているのだろう。現在の受給者にとっては結果オーライなのだろうが、将来世代にとっては大きなマイナス効果を及ぼすことになるだろう。

そもそも2004年当時の想定では、基準ケースで、2023年以降の厚生年金のモデル年金(夫婦の基礎年金を含む)の所得代替率は50.2%に低下するとされていた。それが、現在60%を超えているわけであるから、今後は30年を優に超える調整期間がないと、年金財政は維持できない状況にある。そうなれば、調整期間の終期には、受給開始後の実質的年金額が3〜4割は目減りしていくことになろう(世代で異なる)。

現状においても、年金給付額の実質的な所得代替率は低い状況に置かれているのに、さらに低下していけば、国民の老後生活の主要な財源とはなり得ない。2,000万円の不足どころか、3,000万円、5,000万円の問題と化していく。

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HRプロ編集部

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