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"第47回 グローバル時代に対応できない日本の人事 経営戦略と人事戦略が一致しないと、生き残れない"

右肩上がりの経済成長が続く中では、人事に関する問題はさほど重要ではなかった。放っておいても企業は成長できたのだ。しかし、右肩上がりの経済成長はとうの昔に終わり、少子高齢化による国内市場の縮小や人材不足、経済のグローバル化による海外企業との競争激化など、企業を取り巻く環境は厳しさを増している。アベノミクスや東京オリンピック開催決定など、多少、薄明かりは差しているものの、10年後はどうなっているか、不透明な状態だ。

 そんな時代に求められるのが「人事力」だ。限られた人的資産をいかに活用して、企業の成長に結び付けていくかが企業の命運を左右する。そこで、今回は、そもそも「人事力」とは何か、「人事力」を高めるためにはどうすればよいかなどを、人事コンサルティングのトランストラクチャ代表取締役シニアパートナーの林明文氏に聞いた。

右肩上がりの中、軽視されてきた「人事力」

──日本の人事は遅れていると最新の著作『企業の人事力』で書かれていますが、どのような点が遅れているのでしょうか。

 会計であれば国際的な会計基準がある。ところが人事については、そういったものがない。つまり、現状を正しく認識し、合理的、科学的に分析する指標や統一的な理論がないのである。また、「等級」「給与」といった言葉も企業によって定義が微妙に違い、一般用語として何の誤解もなく流通できているかというと、そうではない。指標となる基準や統一的な論理がなく、言葉もあいまいでは、とても進んでいるとはいえないのではないだろうか。

──なぜ、そういう状態になっているのでしょうか。

 経済状態がよい、あるいは企業業績がよい時は人事管理にかかわる問題は軽視されがちだ。企業には、大抵の場合、ほかにも問題があり、人事管理にかかわる問題は相対的に優先順位が下がるからだ。日本は、右肩上がりの経済成長の中、人事管理を特に重視しなくても企業は発展できた。そんな状態が長く続いたことが原因だと思う。

──人事管理に真剣に取り組まなくても、企業にとって大きな問題にならなかったということですね。

 そもそも職能資格制度など、日本の人事管理の骨格ができたのは高度成長期だ。成長に向く制度として作られたといっていいかもしれない。その後、すっかり定着し、当たり前のものとして誰も疑いを持たなくなった。

 しかし、右肩上がりの経済成長はとうの昔に終わり、一方でグローバル化の進展、少子高齢化による国内市場の縮小、人材不足等々、企業を取り巻く環境は厳しさを増している。そんな変化が起こっているにもかかわらず、人事管理は20年前、30年前と比べて進化しただろうか。

 確かに新しい概念が多少は出てきてはいるが、蒸気機関車が電車になったとか、新幹線が登場したといったレベルの変化は起きていない。残念ながら人事分野では新しいパラダイムが出てこない。そこが問題だ。

思い切ったことをする必要がある

──これからの時代、人事は変わらなくてはいけないということですね。

 やったことのないことをやらなくてはならない段階に入ったという気が強くする。たとえば、昔であれば理系の若い人材が次々と入社してきて、新しい技術が続々と生まれるというように、潤沢な労働力を背景に企業が成長し、人も成長するという好循環があった。

 ところが、現在は労働人口の減少と高齢化が大きな問題となっている。労働人口が減り、なおかつ高齢化する中で、今までなしえなかったグローバル化を果たし、成長していかなくてはならない。思い切ったことをやる必要があるだろう。

──日本の少子高齢化は世界史上類を見ない速度で進んでいるといわれます。ということは、企業は前例のない課題に直面しているといえますね。

 残念ながら日本企業はグローバル化で後れを取りつつある。少子高齢化が進む中でどのように戦うのか──大きな課題だ。日本には資源がない。今まで試さなかった「人事力」を試す以外にない。「人事力」がついたから会社が成長したという事例がたくさん出てきてほしいものだ。

──国内市場が縮小していく中、グローバル化は必須です。グローバル化を進めるうえで人事にとってどのようなことが課題となりますか。

 アメリカでは人事制度を扱うコンサルティング会社は少ない。なぜかというと制度を作る必要性がほとんどないからだ。ジョブディスクリプションを示し、それに合った人材を採用、もし駄目だったら解雇して、違う人を募集するというように、労働市場を前提とした人材フロー型の人事管理ができている。

 対して日本の場合は終身雇用が原則だ。企業を取り巻く環境が変化して、業務内容が変わったり、時には会社の業態すら変わるということが起こる中で、四十数年間雇わなくてはならない。この制約は非常に大きい。

 この制約がある以上、アメリカで行われている人事管理よりも計画的で高度な人事管理が求められる。40年間にもわたり、会社も個人も変化していく中、どんな職務に就け、どんなスキルを身に付けさせるのか、モチベーションをどのように維持・向上させるのかなど、さまざまなことを完全に計算して実行していかなくてはならない。

 ところが、日本の人事管理は極めて情緒的で論理性や科学性に乏しい。人材フロー型の人事管理が当たり前の国と渡り合っていくのは厳しいと言わざるをえない。だからこそ、これからは「人事力」が企業の重要な要素となるはずだ。

著者プロフィール

株式会社トランストラクチャ 代表取締役シニアパートナー 林 明文

青山学院大学経済学部卒業。 トーマツコンサルティング株式会社に入社し、人事コンサルティング部門シニアマネージャーとして 数多くの組織、人事、リストラクチャリングのコンサルティングに従事。その後大手再就職支援会社の設立に参画し代表取締役社長を経て現職。
【執 筆】
「人事マネジメント30講」(トランストラクチャ)、「人事の定量分析」 (中央経済社)、「よくわかる希望退職と退職勧奨の実務 」(同文館出版)、「適正人員・人件費の算定実務 」(中央経済社・共著)、「雇用調整実行マニュアル」(すばる舎リンケージ)、「CFOハンドブック」(中央経済社・共著)、「人事制度改革と雇用調整の実務 」(中央経済社) その他人事雇用に関する講演、執筆多数。

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