経営計画を実現するためにあるのが人事

──「人事力」が高い企業というものも存在すると思うのですが、高い企業の特徴とはどのようなものなのでしょうか。

 たとえば、最近、興味深いことをやったのがユニクロだ。日本で成功して世界にも進出した企業が非正規社員を全員、正社員にする計画を発表した。人件費コストが2割増しになると言われているようだが、今後の経営環境の変化を考えれば合理的だ。これからは確実に人材難になる。そんな中で人材を確保し、なおかつ彼らのモチベーションを上げ、より質の高いサービスに結び付けようと考えたのだろう。

 しかし、ほかの会社ではそういう判断がなかなかできない。そこが、「人事力」のある会社か、そうでないかの分岐点だ。つまり、経営環境や市場を冷静に分析した結果出てきた課題に人事として対応できるかどうか──。言い換えれば経営に直結した人事になっているかどうかだ。直結していれば、その企業は「人事力」が高いといっていい。

──経営戦略と人事戦略が連動しないと駄目ということですね。「人事力」を高めるためには、何を変えていくことが必要なのでしょうか。

 まず重要なのは経営幹部の認識だろう。人事管理の良し悪しが企業の成長を左右するという認識を持つことだ。そして、人事には、自社を冷静に分析して問題点を洗い出し、経営と連動して対処していくことが求められる。

 ほかの分野──、たとえば営業であれば、消費税率が上がり、売り上げが落ちるとなったら、すぐにキャンペーンを打てという話になるだろう。ところが、人事の場合、消費税が上がれば、従業員の実質的な所得が下がり、場合によってはモチベーションダウンや離職者の増加で生産性の低下にもつながるかもしれないにもかかわらず、ほとんどの企業がほったらかしだ。

 問題にはスピーディに対応する。その前提として現在の経営の状態、人事の状態を認識する──。これからは人事分野における現状認識力とスピード感を持つ企業しか生き残れないだろう。

ポートフォリオとパフォーマンスで考える

──人事組織は縦割りで、育成は育成、採用は採用と別々にやっていて、全体を見渡して現状分析するのが難しい状態です。

 われわれは人事管理をポートフォリオとパフォーマンスの2つから考える。ポートフォリオとは戦力配置だ。これから1年の戦いのために、この拠点には将校を何人、兵隊を何人、戦車を何台配置すれはいいかを考える。そして、いざ戦いが始めれば、兵士のモチベーションや健康状態を高いレベルに保つためのパフォーマンスマネジメントが必要となる。

 人事管理もこれと同じだ。ところが、日本の人事管理ではポートフォリオに関する議論が少なすぎる。逆に多すぎるのがパフォーマンスに関する議論──、特にモチベーションに関する議論だ。いかにモチベーションを上げるかという議論はもちろん重要だが、そもそも自社の戦力は足りているのか、足りていないとすれば人数なのか、個々の能力なのかといったことに関心が向けられることは少ない。

 人事組織をこの2つに編成すればいいと思う。ポートフォリオを担当する組織は採用、教育、配置、退職──要するに戦力を整え、配置をするのが仕事だ。

 一方、パフォーマンスを担当する組織は評価、給与、福利厚生など従業員のモチベーションアップや健康管理を担う。ポートフォリオを担当する組織は経営計画に従って戦力を整え、パフォーマンスを担当する組織は経営目標達成のためのパフォーマンスマネジメントをする。こうすれば、全体を見渡しての現状分析もしやすくなるだろうし、スピーディな対応もしやすくなるはずだ。

──日本ではポートフォリオに関する議論が少なすぎるというお話が出ましたが、それによって、どのようなことが起こっているのでしょうか。

 日本の労働市場の中で大企業、外資系企業の占める割合は2割程度だ。にもかかわらず、大卒者は大企業とその関連会社、あるいは外資系にしか行かない。その結果、中堅中小やベンチャーはもっぱら中途採用に頼ることになる。どんなによい技術を持っていて、どんなによい会社でも、中堅中小、ベンチャーは人材難だ。ポートフォリオについて、もっと真剣に考えるようになれば、人材の流動化が今以上に進むだろう。

 リストラというとイメージが悪いが、要するに大企業で潜在的に優秀だと思われていた人が活躍の場を失って外に出るということだ。活躍の場はその企業になくなったというだけで、中堅中小やベンチャーの中にいくらでもある。

 リーマンショック直後の日本の失業率は5%程度だった。今は3%程度だ。日本は人手不足の国なのだ。リストラは、これから伸びる中堅中小やベンチャーに対して人材を供給する行為といえる。非常に重要な社会貢献といってもいいと思う。

進む少子高齢化、年齢に関係ない処遇も

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