「自律分散型組織」とは、役職による指示系統がなく、各メンバーがそれぞれに意思決定権を持ち、自律的に動くことで運営する組織を指す。「Decentralized Autonomous Organization(DAO)」とも称され、上司の指示ではなくMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を軸にして、個人が自らの行動を決定していくフラットな集合体である。将来の見通しが不透明なVUCA時代において、柔軟性があり変化に強い組織形態として注目を集めている。「自律分散型組織(DAO)」のあり方は、企業価値向上の有用なヒントだといえる。本稿では、「自律分散型組織(DAO)」のメリットや構築のポイントを詳しく解説する。
VUCA時代に強い「自律分散型組織(DAO)」のメリットと作り方とは? ティール組織の事例や成功のポイントを紹介

「自律分散型組織(DAO)」の意味と求められる背景

「自律分散型組織(Decentralized Autonomous Organization :DAO)」とは、各従業員が自らの意思決定による自律的な活動で運営される組織のことである。経営層や管理者などの指示によって動くピラミッド型の「管理型組織」とは異なり、役職などの上下関係がないフラットな組織のことを指す。

●「自律分散型組織(DAO)」が求められる背景

テクノロジーの進化やグローバル化、少子高齢化やコロナ禍など、不確実性が高く、社会や企業の在り方が大きく変わる「VUCA」の時代では、迅速な意思決定と変化に対応できる柔軟性が求められる。その中で、メンバー各自が権限を持つ「自律分散型組織(DAO)」は、従来の「管理型組織」のように上司の指示を待つ必要がなく、一人ひとりがよりスピーディーかつ効率的に組織として最適な行動を選択できることから、変化に強く企業価値創出を続けられる組織の形として注目が高まっている。

「自律分散型組織(DAO)」の事例

「自律分散型組織(DAO)」のあり方にはいくつかの種類がある。その中でも、代表的な「ティール組織」、「ホラクラシー組織」、「アジャイル組織」を紹介する。

●ティール組織

「自律分散型組織(DAO)」には、フレデリック・ラルー氏が提唱する「ティール組織」という組織モデルがある。「ティール組織」には「上司・リーダー」や「部下・メンバー」といった階層はなく、各メンバーが企業や部署の目的をどのように達成するのかを自分で考え、動く。組織進化の最終形態といわれている。

「ティール組織」を上手に運営するためには、各メンバーが、自主性を持って経営に参画していることを意識しつつ、他メンバーの考えを尊重することが重要となる。同時に、組織(企業・部署)が何を目指しているかもしっかりと認識しておく必要がある。

●ホラクラシー組織

「ティール組織」の一種。ティール組織同様、上司や部下といった階層がなく、役割によって関連づいたグループがそれぞれ意思決定権を持ち自律的に活動する組織形態である。このグループを「サークル」といい、「サークル」の結成や解散のルールを定めた「ホラクラシー文書」に従って活動を行うのが特徴。組織全体にヒエラルキー構造はないものの、「サークル」にはまとめ役となる管理者が設けられる。

●アジャイル組織

「アジャイル型」とは、もともとシステム開発における1つの手法であり、小規模単位で開発とテストを繰り返すことを指す。「アジャイル組織」は、このアジャイル開発を実行し、改善を続ける組織形態のことである。それぞれに意思決定権のある小規模のチームの集合体であり、機動性を重視しながら開発とテスト、軌道修正を繰り返していく。チーム間は対等な関係であり、上下関係はない。問題の解決・改善もチーム単位で行えるため、柔軟性がある経営も可能となる。

「自律分散型組織(DAO)」のメリットとデメリット

●「自律分散型組織(DAO)」のメリット

「自律分散型組織(DAO)」の主なメリットは以下の3点があげられる。

・変化に対応しやすくなる
・モチベーション、従業員エンゲージメントが向上する
・業務効率化につながる

・変化に対応しやすくなる
「自律分散型組織(DAO)」では、個人やチームに意思決定権が委ねられている。そのため、現場の声を組織運営に活かしやすい。ヒエラルキーによる圧力もないため、各メンバーの能力を効率的に発揮できる。それぞれが自律的かつスピーディーに動けることで、変化が激しい時代であっても、その時々の時流に合った企業経営に柔軟にシフトしていくことができる点は大きなメリットだ。

・モチベーション、従業員エンゲージメントが向上する
「自律分散型組織(DAO)」では、各メンバーに権限や責任が与えられているため、それぞれが企業経営への参加意識を強く持つことができる。同時に、「自分は自社に必要な人材だ」という自己有用感を持ちやすく、仕事に対してのモチベーション向上が期待できる。

また、「自律分散型組織(DAO)」では、各自の意見が企業の経営にダイレクトに伝わる。自分の意見が取り入れられるところを見て、「自社に貢献したい」という従業員も増えるだろう。よって、従業員エンゲージメントの向上というメリットもある。

・業務効率化につながる
従来の管理型組織では、経営陣が会社の方針を決定し、それを管理職やチームリーダー層が具体的な業務に落とし込み、メンバーに指示を出すという方法で仕事を行っていた。しかし、この方法では、方針決定から実際の業務までの時間がかかるというデメリットがあった。また、メンバーが改善点に気が付いた場合も、直属の上司を通じて報告し、それを上司が経営陣に伝えた後、具体的に改善に動くというように、非常に時間と手間がかかるという問題があった。

「自律分散型組織(DAO)」では、メンバーの意見がダイレクトに業務や経営の方針に反映されるため、幾度もの報告や承認は不要であり、誰もが業務改善を進めることができる。仕事の機会損失の懸念もなくなり、業務効率化の面からも「自律分散型組織(DAO)」は非常にメリットが大きいといえる。

●「自律分散型組織(DAO)」のデメリット

「自律分散型組織(DAO)」には、従業員のモチベーションアップや業務効率化のようなメリットがあるが、下記のようなデメリットもある。メリットと同様に理解しておきたい。

・高い自己管理能力が求められる
・情報共有がおろそかになりがち

・高い自己管理能力が求められる
「自律分散型組織(DAO)」には、管理型組織とは異なり、上司やリーダーが存在しない。よって、各自が自らの行動を自己管理する必要がある。従業員の自己管理能力が低いと、企業運営自体が滞る恐れがあるため注意が必要だ。

従業員の自己管理能力が低下する可能性も考えて、チーム単位で業務の進捗状況の確認をする、経営陣と従業員で面談し、業務上の問題がないか等を確認する、などの対策も考えておきたい。

・情報共有がおろそかになりがち
「自律分散型組織(DAO)」は、各メンバーに権限が与えられているため、上司の承認を得ることなく自分の意志で動くことも可能だ。しかし、それぞれが自らの意思決定により自律的に行動するため、自分の抱えている仕事を部署で共有するという「情報共有」がおろそかになりがちという問題がある。

特に、取引先とのトラブルが起きても、他のメンバーが気付きにくいといった点は企業経営のリスクになる恐れがある。大きな問題になる前に、困りごとや問題点を相談できるチームミーティングの機会を設けるなど、修正できる仕組みづくりを考えておく必要がある。

「自律分散型組織(DAO)」の作り方

「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、単に上司・部下の枠組みを外し、各メンバーに権限を与えるだけでは上手くいかない。適切な「ガバナンス(統制)」が必要となる。どのような点に気を付けて構築すればいいのかを確認する。

●MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透と実践

各メンバーに権限があるといっても、自社が何を目指しているのかが理解できていないと、業績や企業価値の向上につながらない恐れがある。そのため「自律分散型組織(DAO)」の構築には、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定と浸透が不可欠である。MVV浸透のためには、経営者とのミーティングなど、経営者の声を従業員に直接伝える機会を設けることも考えたい。

また、浸透させるだけではなく、各自が自社のMVVに共感し、何をすべきか自ら考え、それを実践していくことが重要である。

●目標と成果指標(OKR)の設定

「自律分散型組織(DAO)」では、上司から目標を与えられて業務を行うわけではないため、従業員は自らの目標達成度や成果が分かりにくいといった問題もある。「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、目標の設定方法や成果指標(OKR)も同時に整備しておかなければ、各従業員が同じ方向や目標に向かって仕事ができないという問題が生じる恐れがある。成果発表会の開催など、目標と成果をはっきりさせる仕組みづくりを行うことが有効だ。

●積極的な情報共有

「自律分散型組織(DAO)」のデメリットの一つに、上司・部下といった枠組みがなく、各自が自らの意思決定で行動するため、報連相の機会が少なく、メンバーがどのような仕事をしているかが見えにくいという点がある。このような状況が発生するのを防ぐために、組織やチーム内での積極的な情報共有を心掛けたい。ランチミーティングや社内SNS等の導入など、従業員同士が積極的に意見交換できる場の設定を検討すべきだろう。


「自律分散型組織(DAO)」とは、従来の管理型組織とは異なり、メンバー一人ひとりが意思決定権を持ち、自律的に動くフラットな個人の集合体である。従業員の意見が直接経営方針に反映されるため、業務改善や開発などが柔軟に、そしてスピーディーに行えるというのが大きなメリットだ。不確実性の高いVUCA時代において、時流に合った経営を行っていきたい企業ならば注目したい組織形態といえる。また、各従業員に権限があることで、それぞれが「自分も経営に参加している」といった意識を持ちやすく、モチベーションアップや従業員エンゲージメントの向上につながる点も大きなメリットである。

ただし、上司やリーダーといった立場から管理されることがないため、情報共有の遅れが発生しやすく、各従業員には高い自己管理能力が求められるところも注意点といえるだろう。「自律分散型組織(DAO)」を構築する際は、MVVの策定・浸透はもちろん、こうしたデメリット部分の対策についてもしっかり考えておく必要がある。
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