2021年4月1日、「高年齢者雇用安定法」が改正され、70歳までの就業機会の確保が、企業の努力義務となりました。今後も、労働力人口総数に占める、シニア社員の割合は、上昇することが予想されています。そのため、企業が成長を続けていくには、シニア社員の活躍が欠かせません。しかし、現状では、シニア社員の意欲低下が、多くの企業で問題に挙がっています。そこで本記事では、意欲低下の原因を構造で捉え、そこから見えてくる関わり方のポイントを解説いたします。
多くの企業を悩ます「シニア社員」の意欲低下問題。向上に必要な4つの“関わり方”のポイントとは
「シニア社員」に明確な定義はありませんが、この記事では、55〜70歳で、管理職ではないビジネスパーソンと、管理職ですが部下がいないビジネスパーソンと定義します。以下が年齢の下限・上限の理由です。

・高年齢者雇用安定法において、高年齢者を55歳以上の者と定めている
・高年齢者雇用安定法の改正により、努力義務として70歳までの就業機会の確保が求められている

「シニア社員」はどのような時に意欲が低下するのか

弊社リクルートマネジメントソリューションズによる役職を外れた経験(ポストオフ経験)のある50~64歳の会社員766人への調査において、ポストオフ後の仕事に対する意欲・やる気の推移を見ると、「下がったまま」と回答した人が4割前後に上り、「一度下がって上がった」は2割前後にとどまりました。
多くの企業を悩ます「シニア社員」の意欲低下問題。向上に必要な4つの“関わり方”のポイントとは

出所:リクルートマネジメントソリューションズ「ポストオフ経験に関する意識調査」2021年

このようなシニア社員の意欲低下という課題は、報酬・処遇に対する不満もさることながら、「周囲との関わり」が原因で起きていることが、シニア社員へのインタビューで分かってきました。インタビューをもとに、意欲低下の原因を構造化したものが、下記の図です。多くの企業は、シニア社員の意欲低下だけに焦点を当てますが、「疎外感」、「自信喪失」、「周囲からの期待低下」、「意欲低下」というBadサイクルの構造になっています。
多くの企業を悩ます「シニア社員」の意欲低下問題。向上に必要な4つの“関わり方”のポイントとは
このサイクル図は、シニア社員だけではなく、若手社員にも当てはまると思います。ただ、シニア社員の特徴として、自己を犠牲にしてでも積み重ねてきた会社への貢献や実績といった自負がある分、敬意の感じられない視線や言動に対して、より敏感になり、疎外感を強めるものだと考えます。

これは、シニア社員の「年長者は、敬うもの」という若い頃から大切にしてきた価値観も関係しているのかもしれません。

「シニア社員」の意欲を上げる4つの関わり方とは

シニア社員の意欲低下が起こるサイクルは、先ほど紹介した通りです。つぎに、シニア社員の意欲向上が起こる「Goodサイクル」をご紹介します。こちらは、現在、活躍されているシニア社員とその上司にインタビューをして、構造化したものです。
多くの企業を悩ます「シニア社員」の意欲低下問題。向上に必要な4つの“関わり方”のポイントとは
このようなGoodサイクルになるために必要な関わりが下記の4つです。

(1)参加感を高めるために、シニア社員と上司で相互理解に努める

具体的な関わり方として、「上司自身の仕事観」、「シニア社員に対する想い」、「助けてほしい領域」等を、上司から自己開示することをお勧めします。そして、シニア社員に対しては役割や属性ではなく、一人の人間として向き合いましょう。シニア社員の「強み」、「持ち味」、「仕事上のこだわり」を聞く、見つけることに加え、プライベートにも関心を向けるのです。最後に、シニア社員の持ち味、強みが発揮でき、若手と交流できる出番を意図的につくりましょう。例えば、シニア社員の持ち味、強みが生かせる役割やプロジェクトにアサインすることが考えられます。

(2)自信の回復に向けて、メンバーのナレッジを共有する場を定期的に設定する

具体的な関わり方として、「仕事のナレッジ」と、その裏側にある「仕事への考え方、思い、こだわり」についても共有しましょう。そこで、シニア社員の経験や考え方が、組織や周囲に役に立つことを、若手との交流を通じて実感してもらうことが大切です。

(3)意欲を高めるためにシニア社員のあり方に焦点を当てて、認知をする

三つ目として、シニア社員の仕事ぶりを、結果、行動、あり方に分けた場合、「あり方」に焦点を当てて認知しましょう。そうすることで、シニア社員の自己肯定感が高まり、意欲が高まりやすくなります。「結果」、「行動」、「あり方」の具体例は下記のとおりです。

結果:(例)「新規大型プロジェクトの受注、さすがですね」
行動:(例)「10社を越える新規提案。そのアクションを素晴らしいと思いました」
あり方:(例)「私は、○○さんを、目標に向かって、決して諦めることなく、真摯に取り組む人だと、感じています。そのあり方が、周囲に良い影響を与えていますよね」


さらに、自己肯定感を土台に、どんなことに貢献したいかを問い、その先の目標を一緒につくりましょう。このとき、上司からの「こうあるべき」だけではなく、シニア社員の「こうありたい」も尊重することが大切です。

(4)シニア社員への期待に照らして、明確に要望する

四つ目として、シニア社員の「強み」、「持ち味」のどの部分なら、周囲に貢献できるかを共有しつつ、期待をかけましょう。認知や頼る関わりをメインコミュニケーションとした上で、一対一でしっかりと要望することが必要です。要望する際のステップは、下記のとおりです。

【1】期待を明確に伝える
(例)「○○さんには、経験豊富なシニア社員として、ナレッジを若手・中堅社員に展開してほしいと考えています」
【2】現状を客観的に伝える
(例)「自身の仕事は真摯に取り組まれておりますが、そこから得たナレッジを積極的に展開することを、やや避けてしまう傾向があるように私は見えています」
【3】具体的に要望する
(例)「まずは、自身のナレッジの言語化に取り組み、言語化したものをグループ会の場で、展開してほしいです」
【4】相手の意図や認識の尊重をする
(例)「このような期待や要望を聞いて、どのように思われますか?」

以上のことを、まとめたものが下記の図です。
多くの企業を悩ます「シニア社員」の意欲低下問題。向上に必要な4つの“関わり方”のポイントとは
ただ、シニア社員の「持ち味」、「強み」がどうしても見つからない場合もあるかと思います。正直なところ、その状況から活躍の場を提供することは難度が高いでしょう。そのため、企業の対応として、最も重要なことは、社員自身の人生において大切なことをまず見つける。そして、それに照らして、人生を選択して、必要な知識やスキルを習得するといった自律性を高める機会を若手の頃から社員に提供してみてはいかがでしょうか。
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