近年、欧米を中心に「人的資本経営」を推進する企業が増えている。人的資本経営とは、従来コストとして捉えられてきた人材を経営に必要な資本として捉え直し、人材の価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上を目指す経営手法の一つである。

今、人的資本経営が注目される理由とは何か。人的資本経営を行うためには、どのようなKPIやデータが必要となるのか。同分野の第一人者である慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏と株式会社フェアワーク 代表取締役 吉田健一氏がオンラインセミナーに登壇し、人的資本経営の鍵となる「従業員エンゲージメント」と「ウェルビーイング」、さらにはそれらをデータとして活用する手法などについて解説した。

本記事は、11月25日に開催されたオンラインセミナーの内容を編集してお届けする。

プロフィール


  • 岩本 隆 氏

    岩本 隆 氏
    慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

    東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。 HRテクノロジー大賞審査委員長、HR総研アドバイザー、(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事などを兼任。2020年10月、日本初のISO 30414リードコンサルタント/アセッサー認証取得。

  • 吉田 健一 氏

    吉田 健一 氏
    株式会社フェアワーク 代表取締役

    精神保健指定医・精神科専門医 / 指導医・日本医師会認産業医
    1999年 千葉大学医学部卒業
    東京医科歯科大学医学部附属病院精神科
    東京都立荏原病院精神科
    千葉県がんセンター緩和医療科 医長
    千葉県精神科医療センター 医長をへて
    2008年9月 りんかい豊洲クリニック開設
    2013年4月 りんかい月島クリニック開設
    2019年9月 株式会社フェアワーク設立
    産業医としては参議院事務局ならびに国土交通省東京航空局ほか
    複数の東証1部上場企業をはじめ20社ほどの民間企業に勤務歴がある。

岩本教授・吉田様

人的資本が経営戦略として注目される理由

最初に岩本氏は、米国を代表する500社で構成される株価指数S&P 500に採択されている企業の企業価値に占める無形資産の割合を紹介した。1975年には17%、1985年には32%だった無形資産は、2020年には90%に達した。このような傾向は日本企業でもサービス業を中心に顕著であり、産業構造の変化により無形資産の重要性が年々高まっていることが窺える。一方、既存の財務諸表では有形資産の情報しか開示されないため、投資家からは人的資本も含めた無形資産の開示を求める声が増えているという。
S&P 500・企業価値に占める無形資産の割合

211125-岩本教授「今、日本の企業に求められる人的資本経営とは?」 (2)P7参照

現在、一般に語られる人的資本経営とは、無形資産の中心を為す人材資本をROI(Return On Investment/投資利益率)で捉える考え方であり、概念自体は2009年に出版された「ROI of HUMAN CAPITAL/人的資本のROI」に登場している。同著では人的資本全体、さらには採用・育成・健康経営など領域毎の活動を数値化・データ化するための測定モデルが提示されている。

続いて岩本氏は、欧米を中心とした人的資本経営の潮流や人的資本開示に関する政策の動きについて解説した。米国では80年代、90年代から変化の兆しがあったものの、最大の契機となったのは2008年のリーマンショックであり、このときに金融資本主義から人材資本主義への流れが生まれたという。その後、2011年にISOに人材マネジメントのTC(Technical Committee)であるTC 260が創設され、EUでは2017年に従業員500名超の企業で人的資本開示が義務化された。さらに2018年には人的資本経営のガイドラインとなるISO 30414が出版され、2020年11月より米国でも上場企業の人的資本開示が義務化された。イギリスは2019年会計年度から人的資本含めた開示メトリック(測定基準)を拡大しているほか、米国でも人的資本の開示を義務化するメトリックについての法案が審議されているという。

このような欧米での流れを受け、日本政府も人的資本経営の促進や人的資本投資の強化に関する提言を始めている。岩本氏は、岸田内閣発足後の「新しい資本主義実現会議」において「人的資本等に関する適時開示を促進しつつ四半期開示を見直すことを検討する」との内容が盛り込まれた事例を紹介した。



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●欧米の流れから紐解く、「人的資本が経営戦略として注目される理由」
●従業員エンゲージメントとウェルビーイングが
 人的資本経営を実現する重要なKPI〜その理由とは
●人的資本経営を戦略的に進める3つのメソッド
●企業経営においてポストSDGsと期待される「ウェルビーイング」
●人材マネジメントの潮流を解説
 2020年代中盤以降は「HRデータに基づくアナリティクスの時代」

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