かつて隆盛を極め、世界から注目された日本企業。しかし、バブル崩壊後の長い「失われたX0年」のなか、苦しい状態が続いている。そこで、日本企業の「いま」を探るべく、日本最大規模の経営学学術団体である組織学会とHR総研が共同で『組織調査2020』を実施。組織や制度といったマクロの観点はもちろん、ミドルマネジャーの置かれた状況などミクロ視点でも調査・分析していった。本講演では、ProFuture株式会社 取締役/HR総研 主席研究員 松岡 仁がファシリテーターを務め、神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 宮尾 学氏と神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 服部 泰宏氏が調査結果を発表する。

講師

  • 服部

    服部 泰宏 氏

    神戸大学大学院経営学研究科 准教授

    神戸大学大学院経営学研究科准教授。神奈川県生まれ。 国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、 2018年4月より現職。 日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に 関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。 2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞、2020年に日本労務学会学術賞などを受賞。



  • 宮尾

    宮尾 学 氏

    神戸大学大学院 経営学研究科 准教授

    1975年兵庫県生まれ。2000年京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻博士前期課程を修了後,サンスター株式会社にて研究開発や商品企画を担当。同社勤務の傍ら,2006年神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程,2010年同博士後期課程を修了し,博士(経営学)を取得。  2011年滋賀県立大学人間文化学部生活デザイン学科助教。2014年より現職。主な研究テーマはテクノロジー・マネジメント,製品開発,イノベーションで,特にイノベーションに対する組織的な抵抗を克服する方法を模索している。著書に『製品開発と市場創造』『ベーシックプラス 技術経営』(共編著)。



  • 松岡

    松岡 仁

    ProFuture株式会社 取締役 / HR総研 主席研究員

    1985年大学卒業。文化放送ブレーンで大手から中小まで幅広い企業の採用コンサルティングを行う。 ソフトバンクヒューマンキャピタル、文化放送キャリアパートナーズで転職・就職サイトの企画・運営に 携った後、2009年より現職。各種調査の企画・分析を担当し、「東洋経済オンライン」「WEB労政時報」に 連載中。

ミクロ・マクロの両視点からみる日本企業の「いま」――組織学会とHR総研が共同で実施した「組織調査2020」の分析結果とは

日本企業の「いま」を総点検する――「組織調査2020」の結果分析

松岡 今回、組織学会とHR総研が共同で実施した『組織調査2020』の結果をもとに発表します。組織学会とは、2,000名ほどの会員を持つ、日本最大規模の経営学の学術団体です。2019年に組織学会からHR総研にご相談をいただき、今回の大規模調査を行うこととなりました。その後、コロナ禍の影響があり実施が危ぶまれたのですが、逆にコロナ禍への対応や影響についても調査できるのではと考え、踏み切ることにしたのです。結果的に、2020年9月~2021年2月の間に、149社の企業、そして710名のミドルマネジャーの方々にご協力をいただくことができました。その調査結果から見えてきたことを、『組織調査2020』の中心メンバーである、神戸大学大学院の宮尾先生と服部先生に、発表していただきます。

宮尾氏 まずは、『組織調査2020』実施の背景からお話しいたします。1970~80年代、日本企業の元気の良さは、海外の経営学者からも注目されていました。そこには、日本企業の「三種の神器」のほか、ミドルマネジャーの力があったことはご存知の通りです。ミドルマネジャーが上層部にも意見を言い、部下も強力に引っ張る、「ミドルアップダウン」が、日本企業の高業績の一因といわれています。ところが、バブル崩壊以降、「失われたX0年」の時代が続いています。一橋大学の調査では、日本企業特有の”根回し”など、組織のなかで過剰にコーディネーションをすることが、日本企業の「組織の重さ」を招いているということが明らかになってきました。かつて隆盛を極めた日本企業に、何が起こっているのか。改めてちゃんと調査を行い、そこから新たな知見を得ることが必要だという議論から、今回の調査が企画されました。

続いて、調査の概要についてご説明します。まず、「企業ごとの成果の違い」には、様々な原因があるはずだと考えました。根本をたどると、「企業ごとの組織デザインや人事制度の違い」が、大きな影響を与えているはずです。一方で、ミクロの視点で見ると、組織デザインや人事制度は「中で働いている人の働き方に」も影響し、「その人たちの成果」にもつながります。ひいては、それが「企業ごとの成果の違い」をつくると考えられます。

そこで私たちは、本調査を組織レベルの「マクロ調査」、個人レベルの「ミクロ調査」に分けて考えました。「マクロ調査」では、組織デザインや人事制度などが、企業ごとの成果の違いにどう影響しているのかを探るべく、149社の企業人事の方々にご協力をいただきました。そして、「ミクロ調査」では、ミドルマネジャーの働き方の違いが、彼らの成果の違いにどう表れるのかを探るため、710名のミドルマネジャーの方々にご回答をいただきました。

私たちは30名ほどの研究者グループでデータ分析を実施し、その結果を、2021年7月に開催されたアメリカの経営学会で報告しました。ここからは、その発表内容を中心に、私から「マクロレベル(組織レベル)」を、そして服部先生から「ミクロレベル(個人レベル)」の分析結果をお話しします。

日本企業の実態を探るべく、様々な質問から組織構造を測定

宮尾氏 マクロ調査では、組織デザインや人事制度が、組織の成果にどう影響するのかを紐解きます。今回は特に、「パンデミックへの対応状況」や「イノベーション実現の度合い」にフォーカスして、そこにどのような組織デザイン・人事制度が影響しているのかを調査しました。

質問項目としては、新製品やサービス、プロセス革新を含むイノベーション、売上・利益の成長率、パンデミックへの対応といった「組織成果」について、そしてその原因となり得る組織デザイン・構造、人事施策、戦略などについて、さらには「組織能力」としてレジリエンスについても聞きました。

質問票では、組織構造を「測定する」という考えで構成をしました。これはどういうことを意味するのか。つまり、オープンな質問を投げかけるのではなく、例えば「水平方向の組織統合」の度合いを測るために、複数の質問を用意し、それぞれの質問に対して当てはまる度合いを1~6で回答していただき、スコア化して計測するという方法です。
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