近年、日本でも「コンピテンシー」を導入する企業が増えている。その目的は、社員一人ひとりの成長、生産性の向上などさまざまだ。「コンピテンシー」とは一体どういうものなのか、どのようなメリットがあるのか、どう活用して行けば良いのかなど、色々な観点から詳しく解説したい。さらには、「コンピテンシー」を用いた評価や面接で抑えておくべき点も列記する。導入を検討される場合には、ぜひ参考にしていただきたい。
コンピテンシー

「コンピテンシー」の意味や注目されている背景は?

●「コンピテンシー」とは

「コンピテンシー(competency)」とは、優れた成果・業績をもたらす業務遂行能力の高い人物(ハイパフォーマ―)に共通した考え方や行動特性を意味する。「仕事を進める上で何を意識しているか」、「どんな考えで、どういった行動をしているのか」など思考や行動を分析することで把握することができる。「コンピテンシー」で重視されるのは、行動そのものではない。むしろ、その行動をもたらす「性格」や「動機」、「価値観」といった要素に重きが置かれている。

●「コンピテンシー」が注目されている背景

もともと、「コンピテンシー」は1950年代に心理学用語として生まれた。その後、1970年代前半にハーバード大学のマクレランド教授が行った外交官に関する調査の結果、学歴・知能と業績にはあまり相関関係はなく、ハイパフォーマ―には共通する幾つかの行動特性が見られることが判明し、人事用語として広がった。

日本では、2000年前後から各企業に導入されている。その背景には、二つの要因がある。一つは、人事評価制度が「年功序列」から「成果主義」へと移行してきていること。「年功序列」であれば、評価基準はあまり問題にならないが、成果で評価となると確かな基準がないと誰も納得してくれない。その評価基準として注目されたのが「コンピテンシー」であった。

もう一つの要因は、生産性向上の手段とされていることだ。日本は少子高齢化が顕著になってきており、労働人口も大きく減少しつつある。少ない人数で、いかに高いパフォーマンスを上げるかとなると、一人ひとりの行動の質を高めていく必要があると考えられている。

●「コア・コンピタンス」や「スキル」、「アビリティ」との違い

「コンピテンシー」と類似した用語に「コア・コンピタンス」や「スキル」、「アビリティ」がある。それぞれどう違うのだろうか。

まずは、「コア・コンピタンス」とは企業が有する特色や技術を指す。「コンピテンシー」の対象が「個人」であるのに対して、「企業」や「組織」を対象としているのが、「コア・コンピタンス」となる。言い換えれば、「コンピテンシー」はハイパフォーマ―という「個人」が「企業」に優れた成果を導く力であり、「コア・コンピタンス」とは「企業」や「組織」が顧客や社会に提供しうる力となる。

次は「スキル」。「スキル」とは、社員が訓練や経験などで身に付けた専門的な能力や技能そのものを意味する。ただ、せっかく能力や技能があっても、それらを発揮しようという力、行動を起こす動機がなければ成果をもたらすことはできない。その力が、「コンピテンシー」といえる。

一方、「アビリティ」にも才能や技量、能力、力量などの意味があるが、スキルのような高度なレベル、専門性は求められない。持って生まれたもの、訓練して身に付けたものも含めて広く捉えられている。「コンピテンシー」との違いは、基本的には「スキル」と同様に、「コンピテンシー」は才能や能力を発揮しようと言う力や行動する動機であり、「アビリティ」は能力や技能そのものだと理解すれば良いだろう。

●「コンピテンシーモデル」とは

「コンピテンシー」を実務で活用していくためには、自分たちの組織や業種、職種に応じて具体的なモデル(「コンピテンシーモデル」)を作り出していかないといけない。これは、実際の業務で使用するためにコンピテンシーの概念をモデル化したもので、幾つかのパターンがある。

まずは、企業側が求める人材像に基づいて、評価モデルを設計していく「理想型」。社内にモデルとするべきハイパフォーマ―がいない場合に有効とされている。ただ、あまりにも理想を追求し過ぎてしまうと、現実とのギャップが大きい評価モデルや評価項目を設計しがちだ。あくまでも、自社の企業理念や事業状況にあった実務的なモデルを設計していく必要がある。

次は、実在するハイパフォーマーの行動特性を評価項目に落とし込んでいく「実在型」だ。「理想型」と比べて、現実に即したモデルを設計できるが、ハイパフォーマーの行動特性を正確に把握しうるか、他の社員にとっても再現性があるかの二点には注意を要する。

もう一つが、「理想型」と「実在型」の良い点は活かし、不足する部分は補完する「ハイブリッド型」。すべての社員はもちろん、ハイパフォーマーにとっても学べる点が多いモデルと言える。

「コンピテンシー」には、そもそもどのようなメリットやデメリットがあるか?

次は、「コンピテンシー」を導入するメリットやデメリットについて説明していきたい。

●「コンピテンシー」のメリット

メリットとして、二点を取り上げる。まず、一点目は生産性が向上すること。コンピテンシー項目が明確化されると、社員は企業が自分たちに何を期待しているのかがイメージでき、行動しやすくなる。もう一点は、人事評価や採用の質が高まることだ。「コンピテンシー」がいずれにおいても、判断の基軸・尺度となってくる。基軸が明確であれば、評価の公平性が高まるので、評価される側もより納得できるというわけだ。それは採用においても同様。自社に適した人材を採用しやすくなるといえる。

●「コンピテンシー」のデメリット

もちろん、メリットばかりというわけではない。デメリットも幾つかある。一つは、コンピテンシー項目の設定に時間がかかることだ。「コンピテンシー」を導入するとなると、部門や職種、役割ごとにハイパフォーマ―へヒアリングし、コンピテンシー項目を設定していかなければならない。それに、ヒアリングされたハイパフォーマ―自身が、「何故成果を導けているのか」があまり認識できていないケースも想定される。なので、どうしても手間暇は膨大になってしまう。もう一つは、「コンピテンシー」は一度設定したら終わりというわけではないということだ。時代の変化に合わせて改訂していかないと意味がない。「コンピテンシー」をいかに運用していくかをしっかりと考えた上で導入することをお勧めしたい。

「コンピテンシー」で気をつけるべき4つのポイント

「コンピテンシー」を活用するにあたって、どんな流れで進めたら良いのか。4つのポイントを説明していく。

(1)「コンピテンシー」の分析方法

まずは、優秀な成果を上げているハイパフォーマ―にインタビューし、その行動特性を分析すること。目標の達成に向けてどう行動しているか、コミュニケーションや他者との協力をいかに図っているか、どのように時間管理をしているかなどはもちろん、「なぜそうしたのか」といった本人の価値観も聞き出す必要がある。業績は出していなくても、必要なコンピテンシーを持った社員もいるので、可能な限りデータを集めることをお勧めしたい。モデルを作成するにあたっては、「WHOグローバル・コンピテンシー・モデル」や「コンピテンシー・ディクショナリー」が参考となる。

(2)チーム、事業部に合ったモデルの考案

企業の特性やビジネスモデルとマッチしているのは当然だが、部署やチーム、事業所などによって「コンピテンシー」は変わってくるので、それぞれに合わせた「コンピテンシーモデル」を構築する必要がある点も覚えておきたい。

(3)全社員に実施

「コンピテンシー」を導入する際は、全社員を対象にすること。一人ひとりが、「コンピテンシー」に沿った行動を起こすことで、より大きな成果が得られ、企業に対する貢献度も高まってくる。

(4)定期的に見直す

変化が激しい時代だけに、企業や事業を巡る環境はどんどん変化している。それだけに、「コンピテンシーモデル」は一定期間で見直しをして、必要があれば改善していこう。

「コンピテンシー」をどう活用していくか

「コンピテンシー」はどういった場面で活用することができるのか。使い方について説明していこう。

●人事評価項目

活用先として多いのは、人事評価項目だ。「コンピテンシー」に基づく人事評価は、「コンピテンシー評価」と呼ばれている。「MBO(目標管理制度)」や「360度評価」といった他の人事評価制度に比べて、「評価のブレ」が少ないということで良く用いられている。

●採用・面接

「コンピテンシー」は採用や面接などでも活用されている。まず、採用にあたっては基準が明確にされていなければいけない。その際に、自社で活躍している社員の「コンピテンシー」をベースに採用基準を設定すると、応募者が入社後に活躍できる人材であるかどうかが判断しやすくなる。また、面接でも「成果を導くためにどのような行動をしたか」といった、掘り下げた質問をすることによって、応募者の本質を確認できるとともに、自社の「コンピテンシー」に合致した人材であるかも見極めやすくなる。さらには、面接官が複数いたり、面接スキルに差があったりする場合にも、「コンピテンシー」を活用すると評価のばらつきが抑えられる。

●能力開発・キャリア開発

能力開発やキャリア開発にも「コンピテンシー」を活用できる。代表的な例が、「コンピテンシー」研修だ。ここでは、「どのような思考のもとで、どういった行動をすれば成果を導くことができるか」がテーマとして取り上げられている。それを社員一人ひとりに落とし込むことができれば、それぞれの行動がより積極的・自主的になっていくだけに、成長につながりやすいと考えられている。

「コンピテンシー評価」のメリットと課題を総ざらい

職務ごとに定義された行動特性(コンピテンシーモデル)に基づいて行う人事評価である「コンピテンシー評価」。そのメリットと課題を総ざらいしておこう。

●「コンピテンシー評価」のメリット

これまで日本企業で多用されてきた職務能力評価は、責任感や協調性、積極性など抽象的な項目で構成されており、評価基準があいまいであったり、上長の主観に左右されがちな面があったりした。

これに対して、「コンピテンシー評価」はリーダーシップ、コミュニケーション、専門性、チームワーク、意思決定能力、タイムマネジメントなどの評価項目から構成されている。評価基準が具体的かつ明確なので、上長としては評価がしやすい上に、戦略的に人材をマネジメントしていける。一方、社員も評価への納得度が高いだけでなく、目標達成に向けてどのような能力を身に付けていけば良いのかが分かりやすい。そのため、モチベーションが高まり、能力をより効率的に開発していける。さらには、組織単位でメンバーの評価を分析し、業績改善に向けた取り組みを進めるといったことも可能となる。

●「コンピテンシー評価」の課題

ただ、「コンピテンシー評価」もメリットばかりではない。課題が幾つかあることは理解しておきたい。

まずは、導入の負担だ。「コンピテンシー」を把握するには、社員へのヒアリングを十分に行わなければいけない。その時間をいかに確保するかは難しい課題となる。また、「コンピテンシーモデル」はかなり評価対象の項目がかなり細かくなるので、コンピテンシー評価者にとっては負担が掛かるという課題もある。他にも、改訂・メンテナンスが不可欠になってくるのでその負担にどう対処するかというのも課題だ。

「コンピテンシー面接」のメリットと課題を総ざらい

ここでは、「コンピテンシー面接」の概要やメリットと課題を整理してみたい。

●「コンピテンシー面接」のメリット

従来の面接では、面接官の感情や主観といったバイアスが掛かりやすく、評価にばらつきがあったり、多角的に質問するので応募者の本質が見抜けなかったりしがちだ。こうした弊害をなくせるということで着目されているのが、「コンピテンシー面接」だ。これは、応募者に対して過去の経験に関する質問を繰り返し、行動動機や思考回路、実務能力を判断していく面接手法といえる。

「コンピテンシー面接」のメリットは、第一に、応募者が企業に成果をもたらす行動特性を持ち合わせているかを客観的に見極められること。過去の行動やその行動動機を深く掘り下げていくので、応募者の価値観や行動特性を正しく評価できる。結果的に、企業に成果をもたらす行動特性を持った人材を採用しやすくなると言って良い。もう一点は、評価のぶれを抑制できること。自社が求める行動特性を評価者が事前に共有した上で質問することになるので、評価者による評価の差異は生じにくくなるといえる。

●「コンピテンシー面接」の課題

その一方、課題もないわけではない。実際、社内にハイパフォーマ―がいなければ、判断基準を設けることが難しくなってくる。また、これまで何度か述べてきた通り「コンピテンシーモデル」は、会社や業種、職種に合わせて作成しなければいけない。それを固めた上で、「コンピテンシー面接」を行うと言う流れになるので、どうしてもある程度の時間が掛かってしまう。

ハイパフォーマ―に共通して見られる行動特性を意味する「コンピテンシー」。業績との関係性が高く、人事評価や採用面接、人材育成などで広く用いられている。ただ、理想を求めすぎて現実に即したものになっていなかったり、経営環境に合わせて修正・更新しないといけなかったりなど、運用にあたって注意すべき点もある。自社の状況に合わせて設定するとともに、定期的に見直していくことを心がけてもらいたい。
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