障がい者雇用の悩みと解決のヒント

コロナ禍でも「雇用率0.1%引き上げ」となる障がい者雇用の現状とは【特別寄稿】

今まで、労働政策審議会障害者雇用分科会で検討されてきた「障害者雇用率0.1%引き上げ」の時期が、2021年3月となる見込みです。最終的には9月予定の分科会で諮(はか)られる必要があるものの、ほぼ決定でしょう。新型コロナウイルス感染症の影響で、いろいろな分野における支援策や施策の延期がおこなわれてきました。しかし、「障害者雇用率の引き上げ」は、当初計画していた、2021年1月よりも2ヵ月遅れたとはいえ、年度内に実施されることになります。

今回から数回にわたり、コロナ禍における障がい者雇用の現状について、見ていきたいと思います。

「障害者雇用率0.1%引き上げ」の時期に関する検討と障がい者雇用状況

前回、「障害者雇用率」が引き上げられたのは、2018年4月でした。このときに雇用率は2.2%に上がり、同時に、それから3年を経過しないうちに0.1%引き上げられることも発表されていました。そのため多くの企業では、この雇用率アップを見込みながら、障がい者雇用の準備を進めています。

労働政策審議会障害者雇用分科会では、この「0.1%引き上げ」の時期について検討がおこなわれてきました。2020年3月末に開催された第96回同分科会では、「2021年(令和3年)1月に引き上げる」という案に、公益代表、使用者代表、障がい者代表のそれぞれの委員から賛成が示されていましたが、労働者代表からは、「新型コロナの影響を受け、状況を見据えて慎重に考えていくべきだ」という意見が出されました。

また、新型コロナによる経済や企業への影響が大きくなってきこともあり、当初予定されていた「2021年(令和3年)1月の引き上げ」に関して、7月、8月の労働政策審議会においては、「同年3月」へと後ろ倒しする案が出されています。今後、政令案要綱が作成され、正式決定となる見込みです。

障がい者雇用率の引き上げが、当初よりも2ヵ月後ろ倒しになったものの、年度内には実施することが決められたという背景には、障がい者雇用が順調に推移してきたことが影響しているといえるでしょう。どのような状況なのか、障害者雇用状況の集計結果などから見ていきます。

障害者雇用の状況は、2019年6月1日時点で報告された「令和元年障害者雇用状況の集計結果」が最新のものとなっています。その結果では、雇用されている障がい者は56万608.5人で、雇用数は16年連続で過去最高を更新したことが発表されています。
出典: 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会」

また、ハローワークにおける障がい者の職業紹介状況も増加しており、就職件数は10万3,163件と10年連続で増えています。新規求職申し込み件数も21万1,271件で、19年連続で増加しています。
出典: 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会」

このように障がい者雇用が進んできたのは、下記の3点の影響が大きいといえるでしょう。

・障がい者雇用に対する社会的な認知が広がったこと
・国がおこなってきた「障がい者雇用の推進」が成果を出してきたこと
・企業ごとのニーズに合わせた支援ができていること


確かに、近年の障がい者雇用の施策は、かなり手厚くなっています。例えば、障がい者の雇用経験や雇用ノウハウが不足している「障がい者雇用が0人の企業」に対して、企業ごとのニーズに合わせた支援計画を作成し、準備段階から採用後の定着支援まで一貫して企業の障がい者雇用への支援がおこなわれています。

労働局・ハローワークに配置する「就職支援コーディネーター」が企業を訪問し、企業のニーズに合わせた支援計画を作成します。そして、ハローワークが中心となって、地域の関係機関と連携した「障害者雇用推進チーム」を結成して、地域の現状やニーズを踏まえた支援メニューについて検討し、効果的・効率的な取組方針を決定することになります。

これにあわせて、就職を希望する障がい者に対するフォローもおこなわれています。ハローワーク職員(主査)と福祉施設などの職員、その他の就労支援者がチームを結成し、就職から職場定着まで一貫した支援を実施するのです。この中には、「職業紹介」だけでなく、「就職後の支援」として、職場訪問による職場定着支援やジョブコーチ支援、就職を継続させるための生活支援も含まれます。

段階的に引き上げられてきた「障害者雇用率」

障がい者雇用に対する国の施策が手厚くなってきており、障がい者雇用も増加傾向にあります。今後の「障害者雇用率」はどのようになっていくのでしょうか。

法定雇用率の基準値となる「障害者雇用率」は、日本で雇用されている労働者や障がい者の総数、失業者数から、法定雇用率が算出されています。法定雇用率の計算式は、次の通りです。
出典: 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会」

そして、この障害者雇用率は、少なくとも5年ごとに、この計算式によって求められる割合の推移を勘案しながら、政令で定められることとなっています。

「障害者法定雇用率」は1960年(昭和35年)に企業への努力義務として導入され、1976年(昭和51年)に義務化されてから何度も見直しがおこなわれてきました。義務化された当初は、法定雇用率は1.57%でしたが、その後、1988年(昭和63年)に1.6%、1998年(平成10年)に1.8%と段階的に上昇しています。

そして、2013年(平成25年)には、民間企業が2.0%、国・地方公共団体などが2.3%、都道府県などの教育委員会が2.2%となり、民間企業の法定雇用率が2%台となっています。また、この年に法改正が行われ、2018年(平成30年)4月からは「精神障がい者も雇用義務の対象になる」と決まりました。

直近では、2018年(平成30年)に民間企業で2.2%、国・地方公共団体などで2.5%、都道府県などの教育委員会で2.4%となり、現在に至ります。
出典: 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会」

障がい者雇用は、これまで順調に雇用人数を増やしてきました。この10年間の推移を見てもそれがよくわかります。平成21年と令和元年のハローワークにおける職業紹介状況を比較してみると、就職の全数は全体としては2.3倍ほどになっています。

また、障がい別の割合を見ると、2018年から雇用義務となった精神障がい者伸び率がとても高くなっています。その数は、2009年度(平成21年度)の1万929件から2019年(令和元年)の4万9,612件へと、約4.5倍となっており、職業紹介のうちの半数が精神障がい者となっています。
出典:厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会」

このように精神障がい者の雇用が増加した背景には、いくつかの要因があると考えられます。

まず、企業の障がい者雇用が進んできて、身体障がい・知的障がいの方の雇用がかなり進んできていることです。つまり、働ける障がい者はすでに働いているケースが多いということです。そのため、障がい者雇用の中では遅れていた「精神障がい者の雇用」が、今、増え続けているのです。

また、精神障がい者が障がい者雇用としてカウントされるようになったこともあげられます。これは、2006年(平成18年)からのことです。精神障がい者の雇用は下記のような理由で敬遠する企業も多かったのです。

・障がい者雇用の中では精神障がい者の雇用は新しいこと
・精神障がいの方の職場定着は、他の障がい種別よりも難しいといわれてきたこと
・すでに社内にメンタル面でサポートが必要な社員がいる


しかし、精神障がいの職場定着の取り組みが進みつつあり、雇用ノウハウも蓄積されてきたことから、採用する企業も増えつつあります。このような、企業における精神障がい者の雇用受け入れは、今まで精神障がいの手帳を取得しないで就職を目指そうとしていた障がい者の方にとっても、手帳を持つことで配慮を受けながら働きたいと考えるきっかけになり、「障がい者枠」での就職を目指そうとする人の増加につながっているようです。

また、「発達障がい」への社会的認知が広がったことも含め、いくつかの要因が重なり、精神障がい者の雇用が増えているといえます。働く精神障がい者が増えるということは、先ほど見てきた「障害者雇用率」の算定式の分母が大きくなることにつながります。したがって、「障害者雇用率」も上がっていくことになるでしょう。

新型コロナウイルス感染症における今後の影響で、障がい者雇用はどうなるのかという点は気になるところです。これまでの障がい者雇用の状況を見てきたところ、「リーマンショック」のような経済危機や「東日本大震災」などの甚大災害下でも、障がい者雇用において、影響はほとんど見られてきませんでした。

しかし一方で、今回の新型コロナ禍は、戦後一番の経済不況を引き起こすのではないかともいわれています。その影響を受けることは考えられますが、これまでの全体の流れを見ていくと、障害者雇用率の引き上げはこれからも続いていくことが予想されます。

とはいえ、コロナ禍での障がい者雇用は、Beforeコロナとは違う対応が求められてきました。「2020年3月以降に障がい者雇用の現場で起こったこと」について、次回以降、見ていきたいと思います。
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著者プロフィール

障害者雇用ドットコム 障害者雇用アドバイザー 松井優子

特例子会社の立ち上げや国立特別支援教育総合研究所主任研究員等を経て、障害者雇用ドットコムを運営、障害者雇用の情報発信やコンサルティングに携わる。東京情報大学非常勤講師。著書に「はじめての企業でもできる障害者雇用を成功させるための5つのステップ」、「障害者雇用アドバイザーが教える障害者枠で働きたい人が知っておくべき就活の基本」、「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」等がある。
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