リーダーは自身のマインドを開き、弱みを見せる

創業期にソニーを躍進させた「フロー経営」とは? 天外伺朗氏がイノベーションを生み出す心のあり方と場づくりを解く
この後、参加者は小グループに分かれ、講義を聞いての感想などを共有した。続けて、グループ内で挙がった質問や個人の質問などに対する、質疑応答が行われた。以下に質問の内容と回答・アドバイスをピックアップして紹介する。

質問1 NPOを運営しているのですが、メンバーから、反対意見を言わないのは本音で話していないからではないかと指摘を受けました。メンバーの信頼を得て安心安全の場を作るためにも、反対意見を言わなければいけないでしょうか。

天外氏の回答 反対意見を伝えたところで、解決は図れません。お伝えしたように、言語のコミュニケーションには限界があります。まずは自分自身のマインドを開き、弱みを見せることから始めてみてはいかがでしょうか。以前は強いリーダーが組織を引っ張るという考え方が主流でしたが、今は弱みを見せるリーダーシップが盛んになっています。ただし、自分一人がマインドを開いても、多くの場合、傷つくだけに終わります。少しずつオープンにし、また閉じてを繰り返す。その上で、自分の心がどんな状態になっているかを認知してください。自分自身がどれくらいオープンになっているかを知らないと、安心安全の場は作れません。

質問2 成果主義を導入している大企業で、社員をフロー状態にするにはどうすればよいでしょうか。また、評価はどのように行うのでしょうか。

天外氏の回答 成果主義の中、社員をフローに入れるのはほとんど不可能に近いと思います。そうした場合は、イノベーションはいったん横に置き、別の方法を模索するのも一つの手です。どうしてもイノベーションを目指すのなら、小さな組織、例えば、社内ベンチャーを作ることも考えられます。ただ、成果主義にどっぷり浸かっている社員がベンチャーを作っても、簡単にはうまくいかないことは覚悟しなければならないでしょう。フローに入る内発的動機がなければ、どんなに時間やお金を与えても成功は難しい。従って、外発的動機である評価を気にしているうちは、フローには程遠いと言えます。

組織をコントロールしようとしないこと

質問3 ホームスクーリングの団体を運営しています。メンバーは不登校の子を持つ母親たちです。話し合いを行うと、私自身が望まない方向に進むことがあります。安心安全の場の観点で考えるとそれでいいとも思うのですが、リーダーシップを取り方向性を示したいとも思っています。

天外氏の回答 組織をコントロールしようと思わないほうがいいでしょう。リーダーシップを発揮して組織を引っ張ろうという思いは、運営を行う上でむしろ邪魔になります。それよりも、メンバーを5~6人に分けて、なぜ自分が組織に関わったのか、自分がどんな人生を歩んできたのか、それぞれが語り合う場を設けるのが有効です。そうすることで、組織の方向性が見えてきます。これをエボリューショナリーパーパスと呼んでいますが、企業理念とは異なり、流動的で例えば新しいメンバーが加われば変化します。あなたはエボリューショナリーパーパスを見つける際のファシリテーターのような役割を果たしたらいいでしょう。

質問4 リモート環境で、安心安全の場を作ることは可能でしょうか。

天外氏の回答 可能です。リモート環境には、メリットとデメリットがあります。デメリットとして大きいのは、相手の表情しか読み取れないことでしょう。人間は顔以外、全身を使って自己を表現しています。むしろ、足を組み替えたなど、無意識のうちに出てきた表現のほうが相手を理解する上では重要です。しかし、私自身もZoomでセミナーや会議を開くことが増えていますが、一対一の関係ではほとんど不自由を感じていません。こちら側のマインドをオープンにしていれば、安心安全の場は構築できます。一方で、多対一では難しさを感じますが、声のトーンや抑揚に気をつけることで、ある程度の解決は図れます。リモート環境のメリットは頻繁に顔を合わすことができる点です。もしかしたら、これまでできなかったスタイルの対話がZoomで可能になるかもしれません。リモート環境だからと言って、安心安全の場が作れないと考える必要はまったくないのです。


講演の後、徳岡氏が「今の時代は自己否定感をエネルギー源にして競争に打ち勝ち、強いリーダーシップを発揮して組織を牽引することが求められています。それでうまくいった側面もありますが、イノベーションの萌芽は摘み取られていると理解できました。大きな視点で見れば、社会全体をゆがませている側面があるのかもしれません。日々の業務の中で、フロー経営や安心安全の場をすぐに取り入れるのは難しいでしょう。しかし、ぜひ学びを続け、実践を目指してほしいと思います」とエールを送り、会を締めくくった。
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