HRテクノロジーという言葉も定着しつつありますが、HRDX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)のご支援をしていると、多くの企業で似たような誤解が見られたり、同じような質問を受けたりします。そこで本稿ではHRDX関連記事の番外編として、HRでのデータ活用における基本的な事項をQ&A形式で紹介し、これまで本領域に触れたことがない方でもわかるようになるべく平易に解説します(内容・データは全て本稿執筆時点のもの)。
今さら聞けないHRDXのキホン事項Q&A(第5回)

HRテクノロジー活用のために、今おさえておきたい7つの質問

Q1.Digital Transformationの略がどうしてDTではなくDXなのですか?

簡単に言えば「ディーティー」より「ディーエックス」のほうが発音しやすいからです。言いやすければ「T」でも構わないわけで、例えばHR Transformationの略称は単純にHRTです。「X」で言葉を省略するには大きく2つのパターンがあり、ひとつは発音が近い時、例えば「ex-」で始まる言葉の省略に使い、もうひとつは「cross-」や「trans-」といった「交差する」という意味の表現部分を省略する時に使います。後者ルールでtransformationはXformationと書けますから、発音も考えてDXとしているわけです。
余談ですが、「Christmas」を「X’mas」と書く理由の方がもう少し深みがあります。気になる方はぜひ調べてみてください。


Q2.AIはヒトより優秀なのですか?

そもそもAIとは何かという問題もありますが、現在広義にAIと呼ばれているものは、与えられた条件下で情報を処理し、最適度の高い「解(当てはまりのよい関数や変数)」を探索するプログラムです。プログラムは「情報処理」には優れていますので、多くの領域でAIがヒトを凌駕する成果を出したと話題になりますが、その前工程としてゲームのルールや到達点(問題とも呼びます)を考えること、後工程として与えられた枠組みから外れたものの処理を考えることなどは、まだヒトの領域です。また、AIは当てはまりのよい答えを探すことは得意ですが、「それがなぜよいのか」を考えることもできません。ですから、AIがなんでもやってくれる、という世界はまだ実現しておらず、つくったAIにどんな情報やどんな問題を与えるか、得られた結果から次にどういう行動を取っていくべきかを導き出すことは、まだヒトが考えてゆかなければなりません。


Q3.今あるデータで新しい価値創出ができるのですか?

いくつかの条件下であれば、できる可能性はあります。まず、データがあまり使われていないこと。使われていないのであれば、そのデータの「新しい」使い道を考えることで新しい価値につなげられる可能性はあります。それなりに使われている場合、そこから新しい価値が生み出せるかは次の条件、新しい使い方を考えられる人材がいるか、にかかってきます。
Q2で述べたように、どのようにデータを使い、どのような意味を出すかは、いまだにヒトが知恵を絞る必要がある領域ですので、ここに適任者がいれば新しい価値は生み出しやすくなります。適任者がいない場合は既に商品化されているものから自社に合いそうな(新たな価値を生んでくれそうな)ものを選択導入することになりますが、その時には、今あるデータがその商品に合致する形になっているか、が条件となります。

API連携などで「既存データをそのまま使えます」とうたう商品は多いですが、例えば全角/半角などの表記ゆらぎが無いか、部署や組織で定義がバラバラの運用がなされていないか、分析に必要なデータ量がそろっているかなど、意外とクリアすべき条件も多いため、「今あるデータ」はあきらめて「これからそろえる」選択をする企業も多く見られるのが実情です。


Q4.使いこなすにはそれなりの組織体制が必要なのですか?

組織体制以前に、データを扱える人材と、データに対する組織の成熟度が必要です。内製化しないのであればマニュアル・ガイドの類は必ずついてきますし、自社で作る場合は担当者が理解しているはずですので、導入すればひと通りのことはできるでしょう。他方でデータに振り回されないこと、つまり、テクノロジーが出してきた答えを鵜呑みにせず、「こういう切り口から考えるとより良い答えが得られるのではないか」「データはそうだが現実としてはこういう因子も考慮すべきだ」といった形でデータを思考の1材料として扱える人材や組織風土を整えてゆくことが重要になります。

加えて、たびたび問題になるのが「個人情報・プライバシー問題」です。データの使途は昨今劇的に広がっており、また、データ取得方法についても多くの新たな手法が生み出され続けているため、規制の類もその変化に合わせて流動的に進化し続けています。「法的に問題がない」ことはもちろん、グレーゾーンに関しても「サービスが提供されているから問題がないと思った」と責任転嫁するのではなく、情報のクリーンな使途をデザインできる成熟性も、今後は各組織に求められるようになると考えられます。


Q5.パッケージやソリューションはどうやって選べばいいですか?

既製品を導入する場合、まずは当たり前ですが自社の取り組み目的に合致したものを選択しましょう。最近はSaaS(クラウドソフト)が主流ですので、多くのベンダーは「あれはできない・これはできない」と言わず、基本的に「なんでも対応できます」と言いますし、事実、プログラムを書き換えれば多くのニーズに対応可能です。ですが、既製品を導入することの一番のメリットは導入スピードの速さにありますので、初期設定に多くの変更を要する選択は避けたほうが無難です。

また、自社の基幹系情報システム(ERP)との連携は、初期導入のスピードアップのためだけでなく、突然のサービス停止リスクに備えるうえでも重要になりつつあります。リクルートワークス社によれば人事系テクノロジーは近年プレーヤーの入れ替わりが激しくなってきている(2年で8割が入れ替わった領域もある)そうで(※1)、導入サービスがいつ停止してもおかしくないのが現状です。そうだとすると、導入サービスのためにわざわざ情報を用意していたのでは別サービスへの乗り換えも難しくなってしまいますので、できれば長く使い続ける想定のERPに合わせた形で動いてくれるものが望ましい、といえます。


Q6.何年先まで考えておけばいいですか?

現実的なところでは3年もしくは5年程度でしょう。近年、クラウドベースでのシステム開発が増えていることで、導入や拡大は比較的短期間に実現できるようになってきました。このため、一旦システムを入れて結果を評価し、調整・修正を加えるアジャイル型のアプローチを前提とすると、おおよそ3カ月や半年程度もあれば1評価サイクルが完結し、1年も繰り返せばそれなりの完成型まで行けることになります。ですから1年ごとに翌年計画を立てるアプローチも取れなくはありませんが、1領域を1年で完成し、翌年は別領域を……とパッチワークのような取り組みになりがちな感は否めません。

他方、システム開発のスピードは速くなっているとはいえ、コンセプト段階から上市するまで1年~2年かかることも多いのが実情です(「1年後にこんな機能をリリースします」という計画は、1年半や2年後くらいまで遅れることがよくあります)。別の言い方をすると1~2年先は技術的なロードマップが描かれていることが多い、ということでもありますので、このあたりの技術進歩を前提に置き、3年後にどのような状態を目指すかを考えておくのが妥当な範囲といえます。

そこから先、例えば10年先を考えることも決して無駄にはなりませんが、世界の情報の9割がこの10年で生まれている(※2)ことからもわかるように、日進月歩の技術領域の「10年」はとてつもなく長い年月ですので、長期計画に時間を掛けすぎることはあまり得策とはいえません。


Q7.結局、何が大切なのですか?

取り組みをスタートさせることです。日々進化する領域ですから、待てば明日にでももっと便利で簡単なツールが出てくるかもしれません。あるいは導入が簡単なのであれば実績に裏付けられた「安心な」ソリューションが選ばれるのを待ってから、という判断もあるかもしれません。技術的な側面から「やらない理由」はいくらでも出てきます。

しかし技術的なキャッチアップはすぐにできたとしても、それを自社環境に合わせる(自社においてはAという要素よりもBという要素のほうが効いている、などの探索をする)ことや、あるいはデータを扱うことが自然な組織環境を醸成しデータに踊らされずにデータを使って議論していくことは、一朝一夕にはできません。

幸いなことに規模や機能の拡張にひと昔前ほどの苦労は不要ですし、小規模でもまずは始めてみて、テクノロジーやデータに関する組織知を蓄積してゆかれることを推奨します。
【出典】
※1:世界の人事が注目する「HRテクノロジー」とは?(リクルートワークス研究所)
https://www.works-i.com/column/ttl2019/detail001.html

※2:Annual size of real time data in the global datasphere from 2010 to 2025(Statista)
https://cdn.statista.com/statistics/949144/worldwide-global-datasphere-real-time-data-annual-size/
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