ミドルマネージャーに求められる「ビジョニング力」とは、“組織のミッション(使命)・ビジョン(目指す姿)・バリュー(価値観)を自らの言葉で現場に落とし込み、その目指すべき姿をメンバーと一体になって実現するための能力・スキル”のことを言います。前編では、ミッション・ビジョン・バリューが組織にもたらす効果を最大化するために必要な「ビジョニング力」の3要素、「構想力」(ビジョンを構想する力)/「相乗力」(メンバーの相乗効果を生み出す力)/「完遂力」(結果が出るまで実行する、やり切る力)をご紹介しました。
後編は、「構想力」を身につけるためのポイントをはじめ、組織と個人の価値感の統合などについて解説していきます。

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「構想力」を身につけるための6つのポイント

それでは、早速「構想力」を身につけるために必要なことを挙げていきましょう。

(1)経験学習サイクルを回す
リ・カレントでは、組織行動学者のデービッド・コルブの経験学習「経験→内省→持論(マイ・セオリー)」のサイクルを実践することをおすすめしています。この際、失敗から立ち直り、成功したレジリエンス(回復・復元)体験が重要となります。自身の感情の揺れ動きに注目し、失敗したときの「ネガティヴ認知」から、回復・成功したときの「ポジティブ認知」に転換した際に、何を感じて心がどう動いたのかを内省しましょう。それにより、気づきや学びを得ることができ、「持論」として他の状況にも活かせるのです。
(2)働く価値軸を見出す
「経験」から「内省」を経て「持論」が生まれると、その持論が「自分はなぜ、何のために、何を大切にして働いているのか」という個人の価値観と繋がり、自分の中に「価値軸」が見えてきます。この繋がりが見えない場合は、内省が足りないか、大きな失敗や修羅場を乗り越えるような深い経験が乏しい可能性があります。

ミッション・ビジョンを構想して自らの言葉で語るためには、自分の価値軸が不可欠です。自分の価値軸がぶれると、組織やメンバーへの説得力に欠けてしまい、ミッションやビジョンが形骸化してしまう可能性があるからです。

(3)「目の前の一人」からの期待を超える
上長、お客様、関係部署などステークホルダー(利害関係者)から、「何について、どれだけ期待されているか」を把握し、その期待を1%でも超えるように努めましょう。これをリ・カレントでは「期待値1%越えの法則」と呼んでいます。ステークホルダーに対し、スピードや質などの機能面で期待=GES(Good Enough Spot)を1%でも超えると、その期待は感謝、感動、感激へと変わります。それにより、相手からの「信頼」を得ることができるのです。

こうした意識や行動から、世のため・人のために主体性を発揮する利他の精神が培われます。利他精神により、周囲の心に響くミッション・ビジョンを打ち出すことが可能になります。
(4)内外環境を捉える
ミドルマネジャーが構想力を身に付けるには、内外環境を捉えることが必要です。そのためには、自身の視野を広げ(短期から長期へ)、視座を高め(現場から経営へ)、視点を変える(自部署から全社へ)ことが重要です。

外部環境(顧客ニーズ、業界動向、競合の状況など)と内部環境(自社の経営理念、経営方針、経営資源など)から、自部署の基本的役割や強み・弱みを分析して再確認しましょう。この分析により、周囲の「知的共感」を得ることができます。そして、リーダーとしての価値軸では「情緒的共感」を集めます。ミッション・ビジョン・バリューには、この知的共感と情緒的共感のどちらも必要だと考えます。
(5)戦略をフォーカスする
自身の経験に学んだ価値軸と、内外環境の分析に裏打ちされたミッション・ビジョン・バリューを実現するための手段として、戦略を立てる必要があります。チームの評価が短期的になると、目の前の課題に追われて中期的な戦略を打ち出せなくなってしまいがちです。

戦略の基本は「選択・集中・差別化」です。何を選択し、どこに資源を集中し、過去とどう差別化するかの意思決定は、論理的に頭で考えた流動性知能ではなく、経験の棚卸しからくる自身の“内なる声”(結晶性知能)に従うようにしましょう。

(6)キーワーディング・ストーリー化する
ミッション・ビジョン・バリューを効果的に発信するポイントは、「わかりやすくシンプルで納得性の高いキーワード」と、「自分自身の直接体験と感情の動きが伴うストーリー」です。見聞だけのストーリーや、論理・事実だけでは人は動きません。自分の体験として、自分の言葉で感情に訴えかける必要があります。例えば、「自分は過去のこんな経験から学んだ」、「あるお客様がこのようなことを仰っている」など、直接体験から自分の言葉で語ることが、最も共感を得られるのです。
ここまでくると、組織のミッション、ビジョン、バリューを実現するための戦略や目標が立てられ、具体的な施策や計画に落とし込むことができるようになります。同時に、リーダーの価値軸も、個人の経験からの持論、価値観へと落とし込むことで、「組織で目指すべき軸」と「個人が目指す軸」が一体化し、ビジョンを語れるようになります。