2020年4月1日から同一労働同一賃金を含む改正法が施行されます(中小企業は1年後)。人事の実務にも大きな影響を及ぼすことが予想されるため、企業はそれまでに対応を検討、準備をしなければなりません。同一労働同一賃金とは、文字どおり「同一の労働に対して同一の賃金を支払う」と誤解されがちですが、実際はそうではなく、仕事が違う場合でも、待遇差がバランスを失していれば、不合理(違法)だと判断される場合があります。では裁判所は、どのようなケースを不合理な格差と認定し、損害賠償を命じているのか。本講演では、立教大学 法学部 神吉知郁子准教授に、実際の裁判事例を交えながら、人事が留意すべきポイントについて解説していただきました。また、後半は学習院大学 今野浩一郎名誉教授とのディスカッションが行われました。

講師


  • 神吉 知郁子氏

    神吉 知郁子氏

    立教大学 法学部 国際ビジネス法学科 准教授

    東京大学法学部卒,同大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は労働法。東京大学特任研究員などを経て現職。主な著作に,『最低賃金と最低生活保障の法規制』(信山社,2011年),「最低賃金と生活保護と『ベーシック・インカム』」濱口桂一郎編著『福祉と労働・雇用』(ミネルヴァ書房,2013年),「労働法における正規・非正規『格差』とその『救済』」日本労働研究雑誌No.690(労働政策研究・研修機構,2018年1月)など。厚生労働省の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」,「柔軟な働き方に関する検討会」,「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」委員などを歴任。



  • 今野 浩一郎氏

    今野 浩一郎氏

    学習院大学 名誉教授 / 学習院さくらアカデミー長

    1971年3月東京工業大学理工学部工学科卒業、73年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。73年神奈川大学工学部工業経営学科助手、80年東京学芸大学教育学部講師、82年同助教授。92年学習院大学経済学部経営学科教授。2017年学習院大学 名誉教授、学習院さくらアカデミー長。 主な著書に、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)など多数。

働き方改革における「同一労働同一賃金」 ~裁判所は、不合理性をどう判断しているのか?~

学習院大学 名誉教授 / 学習院さくらアカデミー長 今野浩一郎氏

昨今、話題となっている「同一労働同一賃金」ですが、「同一の労働に対して同一の賃金を支払う」ものであると誤解されている方がいらっしゃいます。本講演では、その誤解を解き、法的な面からどのように理解したら良いのか、どのような課題があるのかをお伝えいたします。
前半は神吉先生に講演をしていただき、後半はさらに掘り下げたディスカッションを行いたいと思います。

立教大学 法学部 国際ビジネス法学科 准教授 神吉知郁子氏

労働契約法20条を根拠とする訴訟が頻発している
 労働契約法20条は2013年4月1日に施行された比較的新しい条文で、非正規の待遇が低いと言われる中、正規・非正規問題の格差を是正することを目的に作られたものです。立法当時、20条はあまり注目されておらず、議論も詰められませんでした。ところが蓋を開けてみると、この6年の間に20条を根拠とする訴訟が頻発。法解釈が曖昧だったため、違法性の評価につき故意・過失がないとの会社の主張はすべて否定され、会社の損害賠償責任を認める判決が相次いでいます。
 この20条が改めてフォーカスされたのは、政府の「同一労働同一賃金」という働き方改革の中の一つのスローガンがきっかけです。「同一労働同一賃金」という言葉から、「同一(価値)労働には同一の賃金を支払わなければならない」という一般原則があり、まるでそれが、法規範として存在しているかのように誤解されています。しかし実は、世界中を見回しても、仕事の価値で賃金を決めなければならないなどという法規範はどこの国にも存在しておらず、裁判でも認められたことがありません。つまり「同一労働同一賃金」という言い方は非常にミスリーディングなのです。逆に日本国憲法22条1項は、職業選択の自由を基本的人権として保障しており、これは個人としては職業の選択、企業としては経営の自由を保障するものでもあるので、ビジネスの設計の自由度は、基本的人権保障でもあるということを忘れてはいけません。

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