――57歳以降の一律の給与引き下げが廃止され、65歳まで100%の給与水準で勤務すると、旧制度と比べてかなりの生涯賃金上昇になりそうです。
一番ヶ瀬 一般的にいうと、57歳時には資格等級が上がっているので、20代、30代の従業員に比べて給与は高くなっています。新制度ではその基本水準が65歳まで維持されるため、生涯賃金で見ると平均で15%以上の上昇となり、57歳時に部長クラスの方であれば20%以上上昇することもあります。
――働く方にとっては嬉しいことですが、会社全体で見ると、総人件費が増加し利益の圧迫要因にならないでしょうか。
一番ヶ瀬 そこはよく誤解されるポイントなのですが、総人員数を一定に保つことにより、本制度導入による人件費の増加はほぼありません。ただし、本制度の導入と合わせて、若年層の従業員に対しても、初任給の引き上げ、子ども手当の新設や単身赴任手当・一時帰省手当の拡充などの待遇改善を実施しています。それにより人件費総額は若干増加していますが、これはコストというより、今後の成長に必要な投資として前向きに考えています。
――退職金や退職後の企業年金については、変更はあるのでしょうか。
一番ヶ瀬 退職金の金額は、ポイントで積み上がる方式なのですが、そのポイントの積み上げは以前と同様に60歳で終了します。したがって、基本的に退職金額は変わらずに、これまで60歳で支給していたものを65歳に5年間後ろ倒しにする内容です。ただし、弊社では55歳以降に自己都合で退職する場合も会社都合扱いとし、退職金を減額せず支給しています。65歳以前に自己都合で退職しても、退職金で不利になることはありません。また、企業年金については、以前と同じ確定給付100%型の終身年金制度を、そのまま維持しています。
――65歳まで全額給与が支給され、70歳まで継続就業が可能、しかも終身の確定給付企業年金が支給されるというのは、非常に手厚い待遇だと感じます。
一番ヶ瀬 当社に入社していただいた方には、定年退職後を含め、一生涯にわたって幸せに豊かに暮らしていただきたいという経営トップの考えがあります。今回の新制度導入もそういった企業文化が背景にあったことで、スムーズに導入が実現できたという面はあると思います。
――役職定年がなくなるということは、57歳時の役職が定年の65歳まで維持されるということでしょうか?
一番ヶ瀬 そうとは限りません。当社では、成果主義を基本にした処遇体系をとっているので、成果にもとづく評価により昇進・昇格となることもあれば、降職・降格となることもあります。いままではこの処遇体系が57歳までだったのを、新制度では65歳の定年時まで一律に適用しています。
――単に定年を延長するだけではなく、22歳の入社時から65歳の定年時まで、同一の評価・賃金体系による処遇というのは、かなり革新的な制度改革ですね。その導入の狙いはどこにあったのでしょうか。
一番ヶ瀬 まず前提として、今後の保険業界での重要な事業戦略に、シニアマーケットの拡充があります。そこでは、むしろシニア層にこそ第一線で活躍してもらわなければなりません。ところが、旧制度下では57歳で役職定年になると給与が下がる、ということもあり、それまでと同じようなモチベーションを持って働いていただけない場面もありました。そこで、定年まで高い成長への意欲を持って元気に働いていただける環境を整えなければならないと考え、そのひとつとして、何歳であっても成果に応じて昇進・昇格が可能な処遇体系を適用したわけです。
――制度が導入されて2年以上になりますが、実際に役職に就いているシニアの方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。また、逆に旧制度での定年である60歳を迎え、「十分働いたからもういい」と退職する方はいらっしゃらないのでしょうか。
一番ヶ瀬 57歳以上で役職に就いている従業員は、現在22名ほどいます。最高齢は、今年62歳になった課長です。また、旧制度の適用で一度役職定年していた方を、再び役職に登用したケースもあります。処遇はあくまで成果に応じてなので全員ではありませんが、57歳以上でも、部長、課長、課長代理など、継続して役職に就いている方の数は増えています。
新制度の導入前は、60歳で退職する方が多少はいるのではと予想していました。というのも、旧制度の時に、60歳からの継続雇用を希望する方は85%程度だったからです。しかし蓋を開けてみると、ほぼ100%の方が60歳を超えても在職しています。シニア人材のモチベーションは私たちの予想をはるかに超えて高く、今後の活躍に非常に期待しています。
――最後に、今後、当面の間はシニア従業員の方が増加していくことになると思いますが、その方たちに生き生きと働いていただくためにお考えの施策などがありましたら教えてください。
一番ヶ瀬 増加するシニア従業員の方たちが、充実感を持って働けるような業務を増やしていくことが肝要だと考えています。先ほどシニアマーケットについて触れましたが、そこだけに限らず、豊富なキャリアを持つシニアだからこそできる業務や営業サービスなどを設定していくことを全社的に検討しています。一方では、RPAの導入などにより、従来あった事務の仕事は減少しています。そのため、事務業務に重点が置かれていた評価システムのバランスを現在見直しています。
3年後には、新制度下における65歳以降の雇用延長も開始されます。60~65歳では心身共に健康な方がほとんどですが、65歳を超えると、当然ながらそれまでよりは心身の不調が生じやすくなるはずです。そこで、健康維持増進のための施策には、これまで以上に力を入れていきたいと考えています。さらに当社を退職した後も、いわゆる健康寿命を延ばしていただくために、70歳の退職時に認知症予防検査を実施したり、その後も当社従業員向けの健康プログラムを低負担で受けることができる仕組みを設けたなど、様々な施策を検討しています。シニア人材の活用と言われる昨今、定年延長、継続雇用、再雇用などで就業機会を増やす場面が増えている。しかし、単に就業機会を増やすだけでは、真の活用とはいいがたいのではないだろうか。その年齢に適した、やりがいのある仕事に、高いモチベーションで取り組んでもらう。そのための環境を企業が用意してこそ、真のシニア人材活用と言えるだろう。その点で定年延長、継続雇用制度のみならず、定年までの同一処遇により、60歳を超えても昇進可能な制度を実現した太陽生命保険株式会社の取り組みは、画期的なものだと評価したい。
太陽生命保険株式会社