日本における「人と組織」のグローバル化の波を受け、【日本流グローバル化への挑戦】と銘打ち、本コラムを先々月から開始いたしました。
記念すべき第1回目は、早稲田大学政治経済学術院の白木教授と対談させていただいています。白木教授は日本企業のグローバル人材戦略の第一人者です。長時間にわたりお話しいただきましたので3回に分けてお送りいたします。今回は最終回のコラムをお送りします。
白木教授インタビュー1回目
白木教授インタビュー2回目
第3回:グローバル化に向けた日本の人事課題(3/3)

グローバル企業が実践するエリート教育

稲垣 日本でもそういうエリート(若いうちから辣腕を振るう、グローバルスタンダードのプロフェッショナル)を育てる制度はあるんでしょうか。

白木 同族であれば別ですが、基本的にありません。親が社長だから、息子がすぐ専務になったという例はありますが、一般的にはないと言ってよいでしょう。アメリカでは90年代にはすでにハイポテンシャルを育成するシステムを持っていました。ハイポテンシャルシステムはGEが有名です。

90年代に同社のグローバルHR部門トップにインタビューしたのですが、GEは、入社してから4~5年の間に頭角を現してきた社員をヘッドクォーターが世界中からピックアップするんです。スポーツでいえばオリンピック選手候補をスカウトが各地方から集めてくる感じでしょうか。30歳前後のポテンシャル人材が数百人、同じ年代だと恐らく1%未満の選ばれたエリートたちです。そのエリートたちに3つアサインメントを与えます。

1つ目は今までのキャリアと違う業界のビジネスを経験させます。GEは発電所やプラスチックやメディカル、金融等様々なビジネスがあるので、上に上り詰める人間は複数のビジネスを経験しなくてはならない。2つ目は職種を変えます。例えば人事であれば営業や財務など、違うことをやらせる。人事部門だけでは視野が狭いので、部門を変えるということです。3つ目は国外勤務です。GEというのはグローバルカンパニーですから、自分の国の常識だけでは通用しません。どこで採用したかは関係なく、国を移動させ、世界規模で競争させ、ヘッドクォーターがウォッチしているわけです。ダメな人材は落とし、残っていった人間がGEの要職を占めていく。強い人材が育つわけですね。

稲垣 すごいエスカレーターですね。上までつながってはいるけど、凄いスピードで走っているから振り落とされてしまうかもしれない。これはGE特有のシステムですか?

白木 グローバル企業は、そういうシステムを持っています。シーメンスも持っていました。呼び方はハイポテンシャルじゃなくて、ジュニアサークルにしていましたが、システムは同じです。実は日本の企業も90年代にはこのシステムを取り入れようとしていました。大手自動車メーカーで私が説明したこともあります。しかし、結局日本の企業は入れなかった。世界からトップの人間を選んで競争させるのはなかなか難しいのです。なぜだかわかりますか?
第3回:グローバル化に向けた日本の人事課題(3/3)
稲垣 年功序列など、日本特有の制度を変えなければいけないからですか?

白木 確かに制度の問題もあります。しかし、もっと根本的な問題です。これは私の想像ですが、本音の部分は、世界的レベルの競争にさらしたら「果たして日本人が残れるのだろうか」という懸念です。世界中のエリートから、さらに100人に1人選ばれた超エリートたちの中で、熾烈な競争をするわけです。日本人で勝ち残れる人材がいるのかと。日本本社ではそんな育て方してないわけです。新人は何も知らないという扱い方をして、40歳でようやくジュニア管理職になった人間が、ゴーンさんのように26歳で工場長になって修羅場を経験している人に勝てるのかと。私は日本の大企業の40歳くらいの課長クラスにセミナーをやったことがあるんですよ。そのときにゴーンさんの話をし、「みなさん、5,000人くらいの会社のトップはどうですか?」と尋ねました。だれ一人、自分もやってみたいという人はいませんでした。とても無理ですよ、という反応です。

若い時の修羅場体験がグローバルで活躍する人材を育てる

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