若い時の修羅場体験がグローバルで活躍する人材を育てる

稲垣 日本人の若い方々が、グローバル感覚を身に付けるにはどうすればいいのでしょうか。

白木 やり方はいろいろあると思いますが、まずは日本の人事部がシステマティックに若いときから海外経験させる仕組みを作るということです。いま楽天などが無理やりやっていますが、あのようなことも必要です。現状に甘えているとできません。若いうちからアウェーの海外でトップを張って、最終的な意思決定を自分がする。1,000人の部下がいて、「この意思決定で失敗したらつぶれるかもしれない」と思うと誰だって怖いです。でも、世界のグローバルカンパニーは、そういう経験を積んだ人材があらゆる国の子会社にゴロゴロいるわけです。日本も若いうちに海外で修羅場を経験させるべきです。

稲垣 私がいまインドネシアで経営している会社のパートナーは、チャイニーズインドネシアで華僑です。歳は10歳くらい下ですが、オーストラリアの大学に行って語学もネットワークもあり、そして若いうちから海外でビジネスをして、本当に優秀です。残念ながら10年前の自分とは世界観が違うと感じました。

白木 若いときに経験させるのは、すごく重要なことです。我々の調査データを分析して分かったことに、海外赴任者のパフォーマンスが、どんな要素に影響されるかがあります。コミュニケーション力や語学力などいろいろある中で、とても大きな影響を与える変数の1つが、「海外勤務経験の年数」でした。若いときに多くの海外勤務を経験している人は、40歳代になってからの海外でのパフォーマンスがすごく高いのです。

また、300名ほどの海外勤務をしている若い日本人と、その上司に「部下が成長するには何が重要か」と質問をしました。上司は日本人だけではなく、様々な国の人たちです。まず挙がったのが「異文化対応能力」でした。語学力かと思いきや、実は語学力はあまり出てこなかったんです。異文化対応能力とは、海外のいろんなことに関心を持ち、自分と新しい概念を統合させていくという要素ですね。もう一つ多く挙げられたのが「前向き行動力」でした。少々苦しいことがあったり、上司から怒られたりしても、真摯に受け止めつつ負けないで頑張るぞという前向きな人間力です。こういうタイプは一番パフォーマンスが高いんです。

稲垣 異文化対応力、いわゆるCultural Intelligence(CQ)といわれるものですね。それに加えて、前向きな行動力というのはウェットでおもしろいです。

白木 へこたれずにガンガン進める人間は、周りに「彼ならなんでもできる」という印象を与えます。そしてこの「前向き行動力」をどう育てるかは、先ほどの話と結びつきますが、若者を子ども扱いして育てていたら育ちません。どんどん修羅場を与えてチャレンジさせることが大事です。
第3回:グローバル化に向けた日本の人事課題(3/3)

日本人の強みとは

稲垣 先生から見られて、日本人が勝っている点というのはどういうところでしょうか。

白木 いい部分はたくさんあって我々のリサーチでもクリアに出てきます。海外現地法人のローカル社員が日本人の上司を評価するという方法で2,000以上のサンプルを集めました。62項目のコンピテンシーのうち、トップの3つくらいは、ほとんど同じ結果になっていて、「責任感の強さ」「コンプライアンスの遵守」「他部門の悪口を言わない」ということでした。この点は日本のビジネスパーソンは日頃鍛えられていると思いますし、他の国の人達がなかなかマネのできない部分です。

日本は、もっと厳しいグローバルの競争に身をさらして、労使ともに緊張関係をもって、ビジネスに向かっていってほしい。まだまだ日本企業は成長するポテンシャルを秘めています。

稲垣 今回は非常に示唆に富んだお話をいただきありがとうございました。
取材協力
白木 三秀(しらき みつひで)さん
早稲田大学 政治経済学術院教授

1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国士舘大学政経学部助教授・教授等を経て、1999年より現職。専門は労働政策、国際人的資源管理。現在、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所所長、国際ビジネス研究学会会長、日本労務学会理事(元会長)を兼任。

最近の主な著作に『国際人的資源管理の比較分析』(単著、有斐閣、2006年)、『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著、早稲田大学出版部、2014年)、『人的資源管理の力』(編著、文眞堂、2018年)等がある。
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