『戦略的人材育成』を実現するための3つの柱

ビジネス・デザイン・コンサルティング株式会社
松木 剛

 最近は大学でも「キャリアマネジメント」を考えるようになったと聞きますが、私は高校生くらいから少しずつ考えておくべきものだと思っています。それは今の大学のカリキュラムも考え直すべきもので、実際には大学の後半2年は、自分の進路に応じた勉強を加えていくものであり、「モラトリアム」などと言われて良い時期ではないからです。
 これからの時代は一度決めたキャリアの方向性を盲目的に守るということは無理で、どんどん変化する時代に合わせて自分も変わっていくべき傾向がいっそう強まると思われます。そういったダイナミックな環境とみずからのキャリアを柔軟に合わせていくことを前提に考えると、タレントマネジメント自体もダイナミックな運用が望まれます。従ってシステムも、計画と実績の検証を繰り返しながらデータが流れていく構造がイメージされます。過去のデータばかりを扱っている今のシステムでは太刀打ちできないことは容易に想像できるでしょう。ではタレントマネジメントを活用するために必要な前提とは何でしょう。3つの柱についてお話しします。

① 人材モデルの明確化
 まずは『人材モデル』についてです。私は書店に並ぶタレントマネジメントの本に、対象とする人材のモデル化(人材要件)について記したものが少ないことを不審に思っていました。いったい会社の求める人材はどういう人材なのか。求める人材、なりたい人材が描かれていない世界で、人はどう成長し活用されていくのか不思議でなりません。
 弊社(ビジネス・デザイン・コンサルティング株式会社)では人材モデルはその会社のビジネスモデルから定義すべきもので、どこからか借りてきたもので代替できるものとは考えていません。たとえ同業でもビジネスモデルは似て非なるもので、「戦略的」という観点から言えば、競争優位を意識したバリューチェーンから作られるものです。私たちは戦略マップから『必要な力』を逆算するといっています。つまり「成功の因果仮説」を現場の言葉(コンピテンシーやスキル)に変換する作業を通じて人材モデルを確立し、自社の仮説化された成功ストーリーを実現できる人材を明らかにすることから始めます。
 これまでのような「職能等級制度」にあるような抽象的な「優秀な人材」ではなく、自社のビジネスモデルを支える「固有の要件」を言語化する重要な作業です。

② キャリア構造の再設計
 次にキャリア構造の整理についてお話します。以前、昭和では「キャリアの自動運転」が行なわれていたと申しあげました。経済成長が約束された時代-その時代に生きた人たちはそう思っていたかどうかはわかりませんが-は、組織も売上も拡大し、ポストや人件費も成長カーブに乗っていました。人事部が示すモデル賃金も、古い専業主婦の家庭モデルではありましたが、30歳前半で主任、40歳手前で課長、45歳で早ければ部長という未来予想図を描いていました。これもウソが混じっていて、全員がなれるわけではありませんでしたが、将来に不安はなかったのです。
 しかしジェネラリストとして育成されたアマチュアビジネスマンが通用する時代は終り、IT化やグローバル化が進む今日、プロフェッショナル化が必須となった日本企業は、主任、課長というモデルではなく、専門性の深化や役割の変化を可視化する「キャリアパス」を再定義する必要があります。更に、価値観が多様化しているため、「静かな退職」と呼ばれる貸し借りなしの関係性を会社に求める層にも、ある種の将来像を示さなければなりません。
 キャリア自律を求める社員にも、会社の成長と個人の成長を促す「海図」と「コンパス」を提示する必要があるのです。

③ 学習・育成環境の再構築
 3つ目は学習(育成)環境の再構築についてです。こうした話を進めていくと、あまりに個人に寄り添いすぎると、知見や経験が企業内に残らないのではないかと危惧する向きもあります。こうした知的財産のアーカイブ化は重要な要素であり、タレントのタレントたらしめている源泉をどう蓄積していくかを考えなければなりません。
 ある時代の企業の実力は、そのとき構成している社員の総和ということになります。しかしフローだけでなくストックもあるはずであり、それを見える化し再生産、つまり育成に利用するという循環環境を整える努力が求められます。
 個人が学習し習得した知の財産を蓄積し、再利用するという環境下でタレントを育成するというためには、知の共有や蓄積に力を貸してくれる人材を評価する文化も必要です。その意味では評価制度も再定義の対象です。

 今後AI化が人事部門の業務を効率化し、ますます少数精鋭化が求められるようになると思いますが、こうした人材マネジメントの構造化を進めることにシフトしてはどうでしょう。
 タレントマネジメントを設計する前提として3つの柱についてお話しました。人材要件の明確化、キャリア構造の整理そして学習環境と知的財産の蓄積。効率化が進んだ人事部門の次なるミッションは、本来業務である人材の供給と育成の構造化にあります。システムを活用する前提として、こうしたテーマについて検討を進めて頂くことが肝要と思います。「管理」に加えて、会社の成長を支える人材の「自己設計を支援するパートナー」としての役割を担うことをご提案いたします。