実践している企業の事例

ティール組織を実践している代表格が、オランダの非営利の在宅ケア組織「Buurtzorg(ビュートゾルフ)」だ。2007年に従業員はたった4人のナースからスタートして、現在は1万人にまで増加するなど急成長を遂げた企業である。顧客満足度も従業員満足度も、どちらもNo.1だという。

オランダでは、在宅ケアの効率化・分業化が進んだことで、ケア行為は画一的かつ断片的になり、より安いコストで質の低いケアを提供するようになった。利用者は毎回、ちがう看護師にいちいち自身の症状を伝えなければならず、看護師も目の前のことに追われ、やりがいを見出せずに離職する者が続出。そこでビュートゾルフでは、看護師がケアの全プロセスに責任を持ち、その専門性を存分に発揮する場を作れば、コストを抑えたまま質の高いケアを提供できるのではないかと、意識を切り替えたという。

1万人以上のスタッフを抱えるビュートゾルフには、マネージャーやチームリーダーが、1人もいない。バックオフィスに約40人、コーチが約15人いるものの、彼らはあくまで現場のサポート役であり管理役ではない。

また、ビュートゾルフでは「Buurtzorgweb」という専用アプリを独自開発し、業務日誌に利用者の様子やケアの内容などを記録し、メンバー間でこれらの情報を共有している。さらに、記載された作業内容と時間を元に、各メンバーの生産性が自動算出されるようになっており、ケアプランの改定やその変更点の告示、またシフト作成などにも利用されている。

では、日本で、ティールを実践している企業はあるのだろうか。

佐宗氏が率いるビオトープは、実はティール組織という概念が広まる前から、似通った理念で立ち上げたコンサルティング会社だ。佐宗氏は「ソニーにいた時、社員が自由に新規事業のアイディアを出し、プロジェクトの立ち上げにチャレンジしようとしていたが、あまりにも組織が大きすぎるとこれは難しい。それなら、社外でそれを生み出す組織をつくった方が早いと思った」という。

他、TEC、イナックス、エンコードジャパン、NPOなどでも、共同パートナーシップ型のコミュニティづくりに取り組んでいる。

佐宗氏は他に、「クックパッドが定款に『解散する』という文言を入れた。 “毎日の料理を楽しみにするために存在し、社会が、毎日の料理を楽しむようになったら、解散してもいいという考え方は、まさに、ティール組織はあたかも生命体のように自己組織化するという考え方に通ずるものではないか」と述べた。

ティール組織実践のキーワード

ティール組織を実践するためのキーワードは、(1)自主経営(セルフ・マネジメント)、(2)全体性(ホールネス)、(3)存在目的の3つである。

嘉村氏は「ティールでは、自主経営(セルフ・マネジメント)が基本となっており、階層構造でいう上下関係の時代は終わりとなる。これまでのように上司に聞いたり、会議を開いたりして意思決定するといったスタイルから、事前に専門家に助言を求めるなど、組織で決めた助言プロセスによって意思決定するようなスタイルになっていく」という。

また、達成型組織では、「自社が生き残ること」を目的として据え、社員を突き動かす構造となっているが、ティール組織で重視されるのは「存在目的」である。

佐宗氏は「私なりの解釈ではこれは思想書で、ある意味、ユートピアを描いたもの。結果がすぐに出るものではない。ティール組織は、人と人との信頼関係がないと成立しない。それが得られて初めて、人は何のために仕事をしているのかを問い直し、自分たちの仕事が社会にどんな意味があるのかを突き詰めるようになっていく。創業者というのは、ある意味、エゴがあるから創業するわけだが、ティールとはむしろエゴを捨てることだ」と指摘。

入山氏も同様に「組織は生き物であり、進化していくもの。会社が永続する必要があるかといえば、その必要はないと思う。会社はある意味、エゴの集合体でもあり、ティールが指摘しているのはエゴを捨てるということ。これは、日本の禅の発想と同じで、人類は根っこで全部つながっていて、エゴを捨てることで、それが見えてくるのではないか」と述べた。

ティール組織とは変化の激しい時代における生命型組織であるが、完成された最新理論と呼べるものではない。よって、すべてにおいてティールを実践することが正しいわけではなく、業種や会社の事業フェーズによっても異なってくる。しかし、今の働き方、会社のあり方などにこのティールの視点を持ち込むことで、“新しい何か”が生まれてくるのかもしれない。
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