セクシュアルハラスメントの定義をごく簡単に言うと、「性的な言動で相手に不快な思いをさせること」である。
 この定義の中には「性的な言動」をした行為者(加害者)が、どのような思いで、その行為を行ったかということは、まったく出てこない。つまり、自分では「性的な言動」を行ったつもりがまったくなくても、「セクハラだ!」と指差されることがありうるのである。
そんなつもりじゃなかった! セクハラ加害者の驚愕

“加害者”の心の叫び

「そんなつもりじゃなかった! 相手はなにか誤解している」
「会社にセクハラの相談があり、あなたが加害者と言われています。ついては、お話を伺いたい」と、人事部門から呼出しが来たとしたら、あなたの心を最初によぎるのは、このような言葉だろう。
だが、セクハラの定義を思い出してほしい。行為した側の意図が問題にならない以上、誤解ということ自体、そもそもありえないのである。
 また、このような言葉を口に出すということは、被害者にとって「たいしたことじゃないのに、いちいちセクハラの相談をした。自分を犯人扱いした」という加害者からの圧迫と受け取られ、相手が硬化する可能性もある。
 また、行為自体を覚えていないということも、往々にしてありうる。だが、「覚えていない=やっていない」ではない。
 覚えていないのは、自分にとってたいしたことではないからだ。しかし、あなたの性的な言動で不愉快な思いをした側にとっては、忘れようとしても忘れられないことなのである。足を踏んだ側は、踏んだことさえ自覚していないことがあるが、踏まれた側は、痛みとともに、その事実をよく覚えているものだ。
 次によくあるのが、「陰謀だ! 自分ははめられた! 自分こそ被害者だ」という怒り。しかし、よく考えてみてほしい。あなたを陰謀によって陥れて、いったいだれが得をするのだろうか。
 よしんば、被害者、もしくは他のだれかと人間関係のトラブルがあり、仕返しをされる心当たりがあったとしても、セクハラの相談をし、それによって会社が動くと、被害者の側にも、大きな負担がかかる。事実確認の調査でいやなことを何度も話さなくてはならないし、ウワサの的になったり、社内にいづらくなることもありうる。事実無根の訴えをしても、専門家に調査が依頼されれば、ウソがばれる可能性が高い。また、あなたからさらに報復されることもありうる。それほどの危険を犯すだろうか。

ほんとうの“加害者”にならないために

 いままで述べたような反応はごくふつうのもので、そのことによって加害者を責めようとしているのではない。
また、自分はどうなるのか、懲戒されるのか、ということがまず心配になるのは、人間として当然のことである。
セクハラによって懲戒されることはあるが、懲戒にも軽重があり、それは、行為の軽重、つまり悪質度に比例する。解雇や懲戒解雇になるような事案は、やはり加害者の側にもそれなりに覚えがあるものだ。
また、事実調査の段階で、弁明をする機会も当然与えられる。
問題は、その弁明である。
知らなかった、気付かなかった、覚えていない、自分は悪くない、という弁明はたいてい逆効果なのだ。
かりに知らなかったこととはいえ、相手に不愉快な思いをさせたのであれば、ふつうは謝罪する。あなたは、電車が揺れたためによろけて、隣に立っていた人の足を踏んでしまったら、「あっ、すみません」とあやまるはずだ。「電車が揺れたせいだ。自分は悪くない」「足を踏んだりするつもりはなかった」と開き直ったりはしないだろう。
「そんなにいやな思いをさせていたとは気づかなかった。申し訳ないことをした。これからは、繰り返さないようにします」
言うべきことはこれだけである。
被害者として相談してきた人は、たいてい、あなたの部下や後輩、パートさんなど、社内であなたより立場の弱い人である。これから先も、あなたと仕事をしていかなければならない場合が多い。被害者の側も、できればことを荒立てたくないと思っている。
軽微な事案であれば、被害者の側も謝罪を受け入れ、会社に対しても「以後気をつけます」ですむ場合が多い。
自分より立場が下の人に、このような謝罪をすることで、プライドがいたく傷つくかもしれない。その場合は、相手を対等な人間として認められないその感覚こそ、セクハラの加害者になる素地であることを自覚する必要がある。
当然ながら、「あやまればいいんだろう」という態度では、いくら口先だけ謝罪をしても、相手をさらに傷つけてしまう。
 最初の段階で、自分の行為を省みて、真摯に反省、謝罪をすることこそ、「加害者」とされる打撃からあなたを救う唯一の道なのだ。

メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香

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