2019年度、都道府県労働局に寄せられた、職場における「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」、および「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」の相談件数の中で最も多いのは、セクハラの7,323件である。ハラスメント研修でよく出てくる一言には、「セクハラなんて、相手がどう感じるか次第だから、もう仕方ない」、「女性と会話するときに『この発言は大丈夫かな?』と、いちいち気を遣わないといけないから面倒だ」、「生きづらい世の中になったよね……」などがある。以前は、職場でプライベートの話をすることも普通のコミュニケーションだった。しかし、現在はそうともいえないケースがある。今回は、ハラスメントの中でも男女で感じ方が一番異なる「セクシュアルハラスメント」についてお伝えしたい。
女性活躍推進を阻むセクハラ、その対策とメリットとは

「セクシュアルハラスメント」とは

職場のセクハラは、大きく2つに分けられる。ひとつ目が「環境型」のセクハラで、上司や同僚の性的な言動などによって就業環境が不快なものとなり、能力発揮に悪影響を生じるようなものを指す。2つ目が「対価型」で、上司が部下にデートや性的関係を求め、これに応じない場合に配置転換や降格、減給といった不利益を与えるものを指す。

セクハラの内容も徐々に社会に浸透しているため、現在ではあからさまに頻繁に身体を触るといった身体的接触行為や、職場にわいせつな雑誌を置くなどの行為をする人はあまり見かけない。むしろ、ハラスメントで気をつけたいのは、「無意識にハラスメントをしてしまうこと」である。ここには男女の認識のズレが存在する。

厚生労働省が公開している「セクシュアルハラスメントについての従業員用アンケート」では、セクハラに該当するとされている項目として、下記があげられている。

・容姿やプロポーションについてあれこれ言う
・職場の宴会で、酒のお酌やカラオケのデュエットを強要する 
・女性労働者にのみお茶くみを強要する 
・「おじさん」、「おばさん」、「◯◯くん」、「◯◯ちゃん」と呼ぶ 
・「男のくせに、女のくせに」と言う 
・「結婚はまだか」、「子どもはまだか」と尋ねる


他にも、例えば「旦那がいるんだから、あくせく働く必要はないだろう」や、「女性にしておくのはもったいない」など、何気ない一言にも注意が必要である。

また、このような1度の失言が命とりとなるわけではないが、これらが「反復性と連続性」を持ったときに「深刻なハラスメント」と化す。何度も繰り返し、長い期間行われることで、「何気ない一言」が言われる側にとっては耐えがたい「ハラスメント」に変わる。自分で意識せずにとった言動こそ、反復性・連続性を持ちやすいので、より注意が必要である。

セクハラをする人の共通点としては、以下の3点があげられる。

・共感力の欠如
・伝統的な性別の役割分担を信じている
・優越感・権威主義


そして、それを取り巻く環境も大きく影響する。ハラスメントは、ただそれが起きないように対策すればよいというものではなく、「生産性の高い職場づくり」や「企業のリスクマネジメント」として取り組むべき課題である。

セクハラ対策としての「女性活躍推進」

究極のセクハラ対策は、欧米との比較から「管理職の多様性」を進めていくことだといわれている。意思決定をする層が男性のみの場合、「セクハラ」や「ワークライフバランス」の問題のように、男女で経験の大きく異なる事柄に対して、女性視点の無視・軽視が起こりやすい。そして、それが女性の活躍できる社会の基盤づくりを阻む。

2019年6月に改正法が公布された「女性活躍推進法」において、働きたい女性が活躍できる労働環境の整備を企業に義務付け、女性が働きやすい社会を実現するために必要な取り組みをすることが求められている。具体的な内容は下記となる。

・自社の女性活躍に関する状況を把握して、課題を分析する
・分析結果をもとに行動計画を策定し、行動計画の社内周知と外部への好評を行う
・行動計画を労働局へ届ける


これらの情報は、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」に、2020年8月末現在で1万2,700社を超える企業のデータ(採用に占める女性の割合、平均勤続年数、育児休業取得率、月平均残業時間、女性管理職の割合など)が掲載されている。このような取り組みをするメリットを3つ挙げてみたい。

(1)優秀な人材を確保できるようになる
女性も男性と同じように活躍できる環境を提供することで、企業の競争力は高まる。多様性が尊重された企業には、必然的に優秀な人材が集まりやすくなる。

(2)業務改善ができる
女性が活躍できる環境をつくるためには、残業の抑制やテレワークの推進、業務フローの見直しなどが必須である。この過程でコスト削減の効果も期待できる。

(3)企業のイメージアップ
「えるぼし認定」を受けることにより、自社の商品やサービスに「えるぼしマーク」を使用することができる。対外的にも自社が女性活躍を積極的に進めている企業であることのアピールになるため、採用にも有利に働く。

現在では、「同質性」のリスクは「日本型組織」の脆弱性として看過できないものとなっている。従来のような男性中心の企業風土からの脱却は、日本社会の中で一筋の光となることだろう。
田中亜矢子
社会保険労務士
人を育てる人、を育てる。社会保険労務士事務所「サン&ムーン」 代表
http://www.sun1moon.com

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