「災害発生時の労務管理」について、第1回で「社員の安全を第一に事前に具体的に検討しておくべき事項」を8つ提示しました。第2回では、(1)と(2)について深堀りして解説していきます。

【労務管理上検討すべき事項】
(1)出社させるか、または退社させるかの判断基準
(2)出社しない場合、有給の休暇とするか、休業補償するか、欠勤とするか、あるいは「自宅などでのテレワーク」とするか
(3)会社や自宅での待機時間の労働時間性の判断
(4)賃金支払い等の義務
(5)36協定上の労働時間規制
(6)労働災害
(7)労務管理規定
(8)災害時の緊急連絡先の登録と個人情報の保護
【災害時の労務管理】「出社させるか否か」の判断基準と、基準周知の重要性

(1)出社させるか、または自宅待機させるかの判断基準

台風の襲来、地震発生時に「社員の出社を求めるか」もしくは「自宅待機とすべきか」は、何を根拠に判断を下すべきか。この点については「(a)各自治体の発する警戒レベル」、「(b)交通機関の運行状況」、「(c)通勤途上の安全性」、「(d)建物の安全性」、これらの状況を基に判断します。

(a)各自治体の発する警戒レベル

まず、「特別警戒警報」が発せられるかどうかをみます。「特別警戒警報」は、2013(平成25)年8月30日から気象庁より発せられるようになったもので、「警報」の発表基準をはるかに超える大雨や大津波等が予想され、重大な災害が起こるおそれが著しく高まっている際、住民に最大級の警戒を呼びかけるものです。

「○○特別警報」という名称で発表するのは、大雨、暴風、高潮、波浪、大雪、暴風雪の6種類です。津波については「大津波警報」、火山噴火については「噴火警報(居住地域)」、地震については「緊急地震速報」(震度6弱以上または長周期地震動階級4を予想したもの)を特別警報に位置づけています。「洪水」を対象とした特別警報はありませんが、「指定河川洪水予報」の発表や「水位情報の周知」等があります。

これらの情報を基に、地元自治体が「警戒レベル5」の緊急安全確保を住民に求めます。従って、このレベルとなったときには、社員の安全確保のためには出社を求めることはできないと判断されます。また、その前段階にある「警戒レベル4」にあっても、極力出社させないことが求められます。

内閣府:防災気象情報をもとにとるべき行動と、相当する警戒レベルについて

内閣府:防災気象情報をもとにとるべき行動と、相当する警戒レベルについて

(b)交通機関の運行状況

公共交通機関により通勤している場合、最近では、大型の台風の接近・上陸が予想されるときには、かなり早い段階で各交通機関が「計画運休」の対応を決定するため、出社することができません。そのため、会社としては「交通機関の運行状況」をできるだけ正確にキャッチすることが必要です。

(c)通勤途上の安全性

マイカーによる通勤の場合は、経路となっている道路の状況の把握が必要です。激しい風雨や信号機故障等によって渋滞が発生するなど、走行中の暴風雨等による事故発生リスクが大きくなります。山間部では土砂崩れの発生や河川の氾濫による通行遮断も予想されます。

(d)建物の安全性

暴風雨等によって、自宅建物の損壊や浸水のため、避難が必要となる可能性があります。このような場合は、出社どころでなく、自治体からの避難誘導に従うことが求められます。



このような自然災害は、いつ発生するか正確には予測できません。大地震も「発生確率が高い」と言われていなかった地域でも多く発生しています。「どのような場合に自宅待機とするか」の基準を明確に決めていないと、「何としてでも出社したい」という思いの社員や、逆に「通勤途上の危険がある出社に対する恐怖心」を抱く社員が、各々思いをいだきつつ「出社か自宅待機か」で心的葛藤に悩むことになります。

そのため、出社か自宅待機かの基準を明示して、普段から社員に周知徹底しておくことが重要です。ここで、災害時の対応が社員で判断できるように記した文書を例示します。この、「災害時の対応について(例)」を参考にしつつ、自社の事情を加味して作成していただければと思います。
災害時の対応について(例)
そのうえで、現実の災害発生時に社員に対する指示が、正確かつ迅速に伝わる仕組みとして、「安否確認システム」を構築しておくことが求められます。

(2)「出社できない場合」の対応

警戒レベル4又は5で、社員が出社できない場合、その日の勤怠をどうするかについては、以下の4通りが考えられます。

(a)災害時の特別休暇(有給か無給か)とする。
(b)有給休暇取得を奨励する。
(c)振替休日とする。
(d)自宅(含むサテライト等)でのテレワークとする。

(a)災害休暇(有給または無給)とする場合

2023(令和5)年7月版 の厚生労働省「モデル就業規則」には、慶弔休暇や病気休暇の定めはありませんが、「災害休暇」として以下のような規定を定めている会社も少なくありません。

●地震、水害、火災その他の災害又は交通機関の事故等の社員の責によらない原因によって、出勤が著しく困難、又は遅刻早退した場合
●自家用車による出勤の場合も、道路事情によって出勤が著しく困難、又は遅刻早退した場合
●台風や大雨による洪水などの危難が去ったあとも交通機関(公共交通機関及び道路状況)が途絶して出社できない場合

以上の場合、電話・メール等で「出勤できない(遅刻・早退となる)」旨を会社に連絡し、事後速やかに非常災害時特別休暇取得(遅刻・早退)届を提出したうえで、1日単位又は時間単位の災害休暇とする。

(b)有給休暇取得を奨励する

一般の有給休暇は、働き方改革の施策の中でも「最低5日の消化」が義務化される等、その取得が奨励されています。不可抗力により労務提供が受けられない日に、会社が有給休暇を奨励することに問題はありません。ただ、従業員が既に有給休暇を消化してしまっている、別の事情で有給休暇を取得したいと考えているといった場合は、会社が有給休暇の取得を強制することはできません。

(c)振替休日とする

休日出勤で行なわせる業務があれば、出勤が可能となったときに休日出勤をさせることができます。ただ、この措置はあまり社員が望まない可能性があります。

(d)テレワーク(自宅勤務、含むサテライト)

新型コロナウイルス感染症の拡大で急速に広まったテレワークですが、現在では利用が減少しています。しかし、その際に構築された通信設備を利用して、テレワーク可能業務を遂行させることができます。従って、それが可能な業務がある社員はテレワークとします。
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