政府が産業界に賃上げを働きかけている効果もあってか、2024年の春闘では多くの企業が賃金水準を一律で引き上げる、いわゆるベースアップに踏み切る企業が目立った。このベースアップとはほとんどのケースが、「基本給」に対する昇給額や昇給率を言う。ただ、「基本給」など給与に関する用語はさまざまあるだけに、意外と混同することもあるだろう。そこで今回は、「基本給」の意味や月給、手取りなどの用語との違い、平均額や決め方なども含めて詳細に解説していきたい。
「基本給」の意味と月給や手取りとの違いとは? 平均額や決め方なども解説

「基本給」の意味と給与や手取りとの違いとは

まずは、「基本給」とは何か。給与や手取りなどの用語とどこが違うのかから説明していこう。

●「基本給」の意味

「基本給」とは、給与のベースとなる基本賃金を指す。残業代や各種手当、インセンティブなどは一切含まれない。会社から実際に支払われる給与は、この「基本給」に残業代や各種手当、インセンティブが加算される一方、税金や社会保険料を源泉徴収された後の金額が支給される。すなわち、実際の受取額と基本給は異なる金額となる。

●「基本給」と給与や手取りとの違い

給与に関連する用語は「基本給」以外にも数多くある。それらの意味合いを取り上げたい。

・給与
給与とは、所得税法28条で以下のように定められている。

「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費収び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」

すなわち、基本給に加えて残業代や各種手当、インセンティブなどを含めて、会社が支払う報酬のすべてを言う。具体的には給与は原則として現金で支払われるが、労働協定で現物支給が認められている会社では、ボーナスを自社製品で支払うという例も見られる。

また、給与は「基準内賃金」と「基準外賃金」に大別される。前者は変動しない手当を言い、基本給と同じ意味合いになる。その他、一般的には役職手当や職能給なども含まれる。後者は、就業内容や生活条件次第で支給額が変動する手当を指す。住宅手当や家族手当も条件によって変わってくるので、後者に位置付けられる。

・固定給
固定給とは、一定時間の勤務に対して毎月受け取る金額が固定している賃金を指す。具体的には、通勤手当や家族手当、住宅手当などのように月毎に変動しない各種手当が含まれている。その点で「基本給」とは異なる。

・額面
額面とは、給与と同様の意味合いを有する。すなわち、「基本給」と残業手当、休日出勤手当、家族手当、住居手当などの各種手当を足した総支給額を言う。社会保険料や税金は天引きされていない。額面給与と称されることもあり、求人票にはその金額が記載されるのが一般的だ。ちなみに、年収は額面に賞与を足した金額となる。

・手取り
手取りとは、上記の額面から税金や社会保険料、その他を差し引いた金額を言う。言い換えれば、実際に受け取れる金額である。具体的にどのような項目が差し引かれるのかと言えば、税金としては所得税や住民税、社会保険料には雇用保険料、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料がある。その他としては、寮費・社宅費、各種積立金、欠勤控除などがある。手取りは額面の約7~8割と言われている。

・月給、月収
月給は1ヵ月に支払われる賃金を言う。「基本給」と固定手当を合算した金額でもある。そのため、固定給と同じ捉え方で良い。一方、月収とは月によって変わってくる手当を含めたものであり、給与や額面と同じ意味合いと言える。

・俸給
俸給は国家公務員の「基本給」を意味する。手当を含まない基本的な給料と言って良い。国家公務員の場合には、俸給表で民間企業の「基本給」に充当する金額が決められている。

「基本給」を含む給与の内訳とは

次に、「基本給」を含む給与の内訳を解説しよう。

●各種手当

各種手当は、「固定手当」と「変動手当」に大別される。固定手当とは、家族手当や役職手当、住宅手当、資格手当などを言う。一方、変動手当とは時間外手当(残業代)やインセンティブを指す。

●健康保険料

健康保険料とは、怪我や病気によって病院を受診した場合、医療費の負担を軽減するために支払う保険料である。

●厚生年金保険料

厚生年金保険料は、会社員に加入が義務付けられている制度である。65歳に達したり、障害を負ったりした場合に年金が支給される。

●介護保険料

介護保険料とは、40歳以上の国民全員が入らなければいけない保険だ。介護が必要になった場合に保険金が支給される。

●所得税

所得税は、所得金額に合わせて国民が支払うべき税金である。

●住民税

住民税とは、「都道府県民税」と「市町村民税」の2つを合わせた税金を指す。

●社宅費

社宅費は、会社が社宅として設けている住宅に居住する場合に支払う費用を言う。

●各種積立金

各種積立金とは、社員が社内親睦会や社員旅行などのために積み立てておく金額を指す。

●欠勤控除

欠勤控除とは、欠勤や早退した場合に給料から天引きすること意味する。この制度があるかないかは、企業によって異なる。

年齢や学歴別に見た基本給の平均

ここでは、基本給の平均を年齢・学歴・業種別に紹介したい。いずれも、厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」に基づいた金額を取り上げている。

●年齢別

年齢別の基本給は、以下の通りである。
「基本給」の意味と月給や手取りとの違いとは? 平均額や決め方なども解説

引用:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 一般労働者 性別」

男女別で捉えた際に、男性は、年齢が高くなるにつれて賃金もアップする傾向がある。ただし、50代がピークでそれを過ぎると下降してしまう。女性も50代をピークに下降が見られるが、賃金の上昇は男性よりも緩やかである。

●学歴別

最終学歴別の基本給は、以下の通りである。
「基本給」の意味と月給や手取りとの違いとは? 平均額や決め方なども解説

引用:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 一般労働者 学歴別」

このグラフから、大学院、大学と高校を比べた際に、年齢が上がるにつれてその差が歴然としているのがわかる。

●業種別

業種(産業)の基本給は次の通り。
「基本給」の意味と月給や手取りとの違いとは? 平均額や決め方なども解説

引用:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 一般労働者 産業別」

賃金が高い業種は電気、ガス、熱供給、水道業だ。他にも、学術研究や専門・技術サービス業なども比較的高くなっている。これに対して、宿泊業や飲食サービス業は賃金の低さが目立つ。

「基本給」の決め方

続いて、「基本給」の決め方を紹介しよう。以下の3つに大別される。

●仕事給

これは年齢や勤続年数、学歴に関わらず、仕事内容や業務の遂行能力、成果に基づいて「基本給」を決めるという方式。成果型と言い換えても良い。個人の実力が反映されるので若手や社歴が浅くても「基本給」を上げることができる。それだけに、仕事に対するモチベーションが高くなるのがメリットだ。逆に、成果を導けない場合には「基本給」は低いままとなってしまう。仕事給は欧米で良く採用されている方式だが、近年は日本でも増えつつある。

●属人給

従業員の年齢や勤続年数、学歴などの属人的要素によって「基本給」を決める方式を属人給と言う。まさに、年功序列型に基づく考え方だ。このメリットは、ライフプランを安定的に作成しやすいこと。年齢が上がるにつれて、勤続年数が長くなるにつれて、「基本給」も確実に上がっていく。一方、デメリットとしては、成果は全く配慮されないのため、どんなに頑張っても「基本給」が変わらないことだ。これでは、モチベーションが上がらず、「成果を上げるように」と上司から指示されても努力する気持ちにはなりにくいだろう。

●総合給

総合給は、上記の仕事給と属人給をミックスした方式と言って良い。日本企業ではかなり採用されている。仕事内容や業務遂行能力、成果と年齢、勤続年数という両方を掛け合わせて「基本給」を決定するため、仕事への評価と従業員個人の評価をバランス良く反映することができる。そのため、日本の企業では広く定着している。

「基本給」が与える給与への影響とは

最後に、「基本給」が給与にどのような影響を与えるのかを見ていきたい。

●時間外手当(残業代)や深夜手当、休日手当

労働基準法では、法定労働時間をオーバーして働いたり、法定休日や深夜22時から翌5時まで働いたりした際には、割増賃金が従業員に支払われることになっている。その際の割増率は、「基本給」をベースとする基礎時給に加算される。基礎時給とは「基本給」を時給に換算した金額だ。「基本給」を月の労働日数で割り、さらに一日の所定労働時間で割って算出する。それゆえ、「基本給」が高ければ割増率も当然高くなるので各種手当の額に影響を及ぼす。

●ボーナス(賞与)

ボーナスを支給する・しない、どう算出するかは企業が独自に判断する。ただし、ボーナス制度がある場合、「基本給」をベースに支給額を決定するのが一般的だ。例えば、ボーナスが給与の3ヵ月分だとして、「基本給」が25万円であればボーナスは75万円という金額になる。

●退職金

退職金も制度の有無や算出方法は会社によって違う。一般的には、退職時の「基本給」や勤続年数をベースに算出される。そのため「基本給」が高いほど退職金も多くなる。ただ、これだとどうしても支給額が多くなり、経営に影響が出るとの理由から、「基本給」では算出しない企業も近年増えつつある。その場合は、予め在籍年数に応じた退職金を決めておいたり、人事考課や保有資格などをベースに算出したりするなどの方法が行われている。

まとめ

国が働き方改革の一環として適用している「同一労働同一賃金制度」において、厚生労働省が策定したガイドラインには、「基本給が、労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業務又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行なわなければならない」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)と記している。

すなわち、基本給の決め方にルールはないものの、実態に即した支給でなければならず、正社員と非正規労働者の基本給に差を付けるのであれば、その違いを明確にして、不合理ではないよう求めている。その点も、今回紹介した基本給の概要や決め方とともに、人事担当者としておさえておきたい。
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