企業経営において「人材マネジメント」の注目度が一段と高まっている。厳しい市場競争を打ち勝っていくためにも、どう人材を活用していくかという仕組みがより重要になってきているからだ。そこで今回は、「人材マネジメント」の意味や目的、課題を乗り越えるためのポイント、代表的な企業事例などを解説していきたい。

「人材マネジメント」の定義や目的

「人材マネジメント」とは、企業がビジョンや業績目標の実現に向けて、人材を有効に活用・管理していく仕組みのことだ。具体的には、採用した人材に対する適切な教育・研修の実施、成長できる環境の整備、働きに見合った評価・配置・昇進などの制度づくりといった一連のプロセスを指す。

「人材マネジメント」を適切に行うことができれば、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化させられるとともに、エンゲージメントや業務意欲が向上し組織全体の生産性もアップしていける。それによって、企業価値がより一層高まり、市場での競争力や業界での存在感を確立することができる。「人材マネジメント」の目的もここにあると言って良いだろう。

●「人材マネジメント」が重要視される背景

昔から、企業にとって「人材は宝」と言われてきたが、今なぜ「人材マネジメント」がクローズアップされているのか。その背景について三つの観点から説明していきたい。

まず一点目は、人材不足がどの企業にとっても大きな経営課題となっていることだ。新たな人材の採用が厳しいとなると、どうしても今の限られた人材リソースを有効活用して、生産性を向上させていくしかない。そうした人材を育てるためにも、「人材マネジメント」の重要性が語られている。

二点目は、求められる人材像の変化だ。現代は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と言われ、先行きが不透明であるがゆえに、市場で成功を収める決定打が見出しにくい状況にある。企業が求める人材像も、従来のようなゼネラリストではなく、特定の分野に特化したスペシャリストへと変化してきている。こうした人材を採用・育成するためにも、「人材マネジメント」が着目されている。

最後は、働き方の多様化だ。近年はワークライフバランスが浸透しているほか、テレワークや副業などの新しい働き方もかなり普及しつつある。そうした動きに柔軟に対応していかなければ、従業員のモチベーションも上がらない。そのため、多くの企業で「人材マネジメント」の在り方を見直そうという機運が高まっている。

●「人材マネジメント」のメリット

「人材マネジメント」を適切に行うことで、企業はさまざまなメリットを得ることができる。まずは、企業成長だ。自社の企業ビジョンや経営目標とリンクした「人材マネジメント」を運用することで、企業の成長スピードを加速させることができる。また、人材成長にもたらすメリットも大きい。「人材マネジメント」を通じて、従業員は会社が目指す方向性や経営目標を的確に理解できるので、エンゲージメントが高まっていく。その結果として、成長意欲も一段と向上させることができる。

さらには、自ら判断し行動できる自律型人材を育成していける点も見逃せない。そうした従業員は、常に自社のビジョンと現状とのギャップを正しく認識し、適切なアクションを起こしてくれる。しかも、新たな課題やリスクにも逸早く対処し、組織の活性化にも貢献していける。

●人事労務管理との違い

「人材マネジメント」に類する言葉として、人事労務管理がある。どう違うのかを説明しておこう。人事労務管理は、人事管理と労務管理から構成されている。人事管理は、労働者の適材適所を目指した雇用管理や給与体系、退職金、賃金管理などを指す。一方、労務管理は福利厚生や労使協調体制の構築などを意味する。比重としては、人事管理に置かれており、経営やマネジメントの視点が欠けがちである。

「人材マネジメント」を構成する6つの要素とは何か

「人材マネジメント」は6つの構成要素に分けられる。それぞれ説明していこう。

(1)採用

まずは、必要な人材を獲得することだ。重要なのは、経営戦略を達成するために、どのような人材を採用すれば良いかという要件を決めること。それに見合った適切な人材を迎え入れることができれば、市場での競争力を高めていける。

(2)教育

従業員の職種や役職に応じて、必要な教育・育成を行うことも欠かせない。それらを通じて、従業員一人ひとりのスキルやモチベーションを高めていけるからだ。具体的には、新入社員に向けた入社時研修や現場でのOJT、専門スキル・知識を習得するセミナー、資格取得向けの勉強会などが想定される。

(3)評価

どのような評価制度にするかによって、従業員のモチベーションは大きく変わってくる。最大限の成果を引き出すためにも、職種や役職ごとに公平かつ納得度の高い評価制度を構築しておかないといけない。

(4)報酬

実績や成果が正当に反映される報酬水準が設定されていると、従業員は高いモチベーションを維持できる。例えば、固定給とは別に、目標の達成度合いに応じて支給されるインセンティブも効果的だ。どのようなインセンティブを与えたら良いのかを検討していきたい。

(5)配置、異動

働きに応じた適材適所の人材配置や人事異動を行うことは、従業員のモチベーションやキャリア開発に大きく関与してくる。そもそも、最初に配属された部署に長年留まっていては、能力の開発につながらない。定期的に見直しを行うのがいいだろう。経営目標を達成していくためにも、どのポジションに誰をキャスティングするかを考える必要がある。

(6)休職、復職

労働人口が減少しているだけに、企業としては従業員にできれば長く働いてもらいたい。そのためにも、休職や復職など従業員の労務を一時的に免除するとともに、職場にスムーズに復帰できるように支援を行っていかなければいけない。例えば、女性活躍推進が叫ばれているだけに、出産・育児をはじめライフステージの変化に応じて休暇が柔軟に取れる環境であることが重要となってくる。

「人材マネジメント」で直面する課題を乗り越えるためのポイント

次に、「人材マネジメント」に取り組むうえでのポイントを紹介する。

●企業の方向性との合致

「人材マネジメント」の目的は、経営戦略や事業戦略の達成である。そのためにも、「人材マネジメント」計画の方向性が企業のビジョンと合致しているか、一貫性があるかが重要になる。もし、ズレがあれば従業員は混乱し、場合によっては会社に対して疑問を抱いてしまい、思うような成果を上げられなくなってしまう。企業としては、従業員が自信を持って業務に取り組めるようにしなければいけない。

●従業員本人による目標設定

「人材マネジメント」は企業が主体となって計画を策定していくため、一方的なものになりがちである。しかし、第三者が立てた目標よりも、従業員本人が決めた目標の方がモチベーションは上がりやすい。納得度が高い分、労働意欲も高くなり、どんな努力や工夫をすれば良いかを自発的に考えるからだ。その際、インセンティブ制度を導入するのも有効な施策の一つと言える。

●公平性の意識

近年、企業は多様な人材を受け入れようとしている。だが、年齢や性別、国籍などによって評価や報酬が変わるようなことがあれば、従業員から反発されかねない。あくまでも公平に評価することを心がけたい。また、結果や成果だけに重きを置いた評価をしてしまうのも良くない。結果を重視しすぎることで、人材のポテンシャルを見逃してしまう可能性がある。

●現場との連携

現場との連携を図ることも重要だ。例えば、従業員には「どのような基準で評価をしているのか」や「どれだけの報酬がもらえるのか」などを詳細に伝える、現場のマネジメント層には「会社としてどのような人材を求めているのか」を周知するといった取り組みでも良い。従業員の自発的な努力を引き出せ、現場での教育・指導もより効果的なものになっていくはずだ。

●状況に合わせた人事制度の変化

時代背景や社内リソースなどによって、人事制度を変化させていく必要もある。随時、制度内容を確認するとともに見直しを図っていこう。ただ、企業側が一方的に変更し、後々従業員に通達するといったことを繰り返すと、反感を買う可能性が出てくる。ケースによっては、従業員からの意見を聞くなど巻き込んでいく姿勢を見せることが有効となってくる。特に、世代間ギャップがある企業では、この取り組みを特に推奨したい。

●フレームワークの活用

「人材マネジメント」を進めるために必須のスキルとなってくるのが、ロジカルシンキングだ。そのロジカルシンキングを円滑かつ最適に行えるようサポートしてくれるのが、フレームワークとなってくる。かなり多くの種類があるが、SWOT分析やロジックツリー、PEST分析などは「人材マネジメント」のプランニングや検証作業に役立つフレームワークと言われている。それらをぜひ活用したいものだ。

「人材マネジメント」においてどのようなポリシーが各企業で掲げられているのか

最後に、「人材マネジメント」のポリシーを掲げている企業として、楽天と住友商事の二社を紹介したい。

●楽天

楽天の事業領域は、今や国内だけに留まっていない。世界各国の企業に出資を行い、事業範囲を拡大し続けている。自ずと企業内の多国籍化が進み、現在では80ヵ国以上もの異なる国籍を持つ従業員が在籍している。新卒採用においても、積極的に外国人を迎え入れており、現在では25%近くを占めているという。

当然ながら、多国籍化が進んだことにより、人材管理の難易度が急速に高まってきている。その課題解決に向けて楽天が採った手法が人材グレードの均一化であった。楽天が培ってきた成功ノウハウを段階的に学べるトレーニングパイプラインという教育体系をまとめ上げ、それらを習得した人材を世界各国のグループ企業へと適切に配置する。そうすることで、各企業の人材のスキルや能力を均一化し、ダイナミックに人事異動を実施していける環境を作り上げたのである。

●住友商事

住友商事では、新中期経営計画「SHIFT-2023-」における人材戦略として、グローバル人材マネジメントポリシーを掲げている。目指す個の姿は、「グループの理念やビジョンに共感し高い志を持ち自律的な成長を続け進取の精神でグローバルフィールドで新たな価値創造に挑戦する人材」である。そのために、Diversity & Inclusion、グローバル適材適所など5つの「人材マネジメント」の在り方を提示している。

また、グローバル人材マネジメントポリシーを体現するために人事制度の改訂も行っている。新人事制度のコンセプトは、Pay for Job,Pay for PeformanceとTop tierのプロフェッショナルの育成・輩出。そのコンセプトの下に、職務等級制度の導入や非管理職の役割等級制度、自律的なキャリア形成などの施策に取り組んでいる。そのほか、重要な人事戦略としてDiversity & Inclusionの推進に向けた女性活躍推進と多様な人材ポートフォリオの構築を意図した採用戦略がリストアップされている。
企業競争力を強化する手法の一つとして、重要性が高まっている「人材マネジメント」。適切に運用していくことで、従業員のモチベーションを高め、企業の成長スピードを加速させていける。また、厳しい市場競争を勝ち抜くために不可欠となる人材の獲得と育成という経営課題を最短距離で解決していくためにも、「人材マネジメント」が果たす役割は大きい。正しく認識し、適切に取り組んでいくことがすべての人事担当者にとって、成功へのスタートラインになると思われる。本記事を参考に、第一歩を力強く歩み出していただきたい。
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